まとめ:オートバイ編集部/写真:松川 忍/取材協力:絶版ウエマツ 東京本社
絶版車ブームだからじゃない、Zはずっと人気モデルなんです!
人気はやはりZ1、これまでに数千台が里帰り
日本のバイクマーケットがレーサーレプリカブームに沸いていた1980年代終盤、その裏でもうひとつ、カウンターカルチャーと呼べる動きが巻き起こっていた。
それが「絶版車」ブーム。当時は旧車、中古車としか呼ばれていなかった、カワサキZを中心とする1970年代のモデルが「今にはない形」として注目を浴び始めたのだ。
「当社は1992年創業、その前身の時代からアメリカを中心にクラシックバイクとクルマの貿易を手掛けていたんですが、1980年代後半から、やはり1960〜70年代のカワサキZやマッハ、ホンダはナナハンやフォアといったバイクに注目が集まり始めました」というのは、ウエマツの副社長、枝川寿さん。
枝川さんは当時、アメリカ西海岸を拠点に、現地買い付けと日本への輸出を担当。レーサーレプリカに代表される高性能車への否定感情や、折からのレトロブーム、当時すでに存在していなかった、オートバイらしい形への回帰からスタートした旧車ブームの発火点の現場に、枝川さんがいたのだ。
「1990年ごろですかね、ロサンゼルスを中心にZ1をメインで買い付けをして日本に送り、日本で修理、整備をして販売、という流れができ始めました。1992年に当社の第一ショールームができたんです」
1990年のZ1といえば、その時点でももうすでに20年を経た古いバイク。アメリカでは単なる「古いバイク」が日本で人気になると、アメリカ西海岸にはもう買い取るだけの台数がなく、買い取りエリアを東部に向かって拡大。やがて全米、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアと商圏を広げていく。
「当時の人気はやっぱりZ1でした。湿度が低く、バイクの保管環境がいいアメリカでは、本当に極上コンディションのZ1がまだあったし、Z1のもともとのパッケージが、頑丈でシンプル、だから調子よく走れるように整備するのも難しくなかったんです」
日本での旧車人気の中心はやはりZ1。極端な話、当時ウエマツをはじめとした、海外から旧車を輸入する商社がいなかったら、Z1なんて国内にほぼ存在していなかったし、750ccのZ2すら、当時でもう20年前の中古車で、残ったタマ数も多くなかった。
それが、ウエマツの輸入実績では、2005年に7000台、2009年に1万台、2018年には販売台数で1万5000台をオーバー! おそらくZ系だけで「約4000台ほどを輸入しているはず」という。
お客さんを裏切らない、乗り続ける環境を作る店
「自分がカリフォルニアにいた1990年ごろは、程度のいい、すぐ乗り出せそうな中古のZ1が3000〜4000ドルで買い取れたんです。それを日本に輸出して整備、販売して価格をつけて60〜70万円くらい。それでもZがこんな値段するのか! って(笑)」
ウエマツ店内に、兄弟誌ミスター・バイクBGの広告が掲出されているが、その「25年前の価格」のコピーには「久々の入荷 フルノーマル、レストア車ではないオリジナルです」という火の玉カラーのZ1が79万円で販売されている! そんな、いい時代だった。
「最盛期には22台積めるコンテナを1日2本、日本向けに出荷したりね。その中は、全部ズラッとZ1で、翌週にはヨンフォアだけのコンテナを送ったり、って時代でした」
ウエマツで絶版車販売がいちばん好調だったのは1990年代。お客さんには、発売時に日本では手に入らなかったモデルを所有したい、という意見も多かったのだという。
「舶来品、って言葉があったじゃないですか。海外の物に憧れちゃう気持ち、あれがZ1に向いていたんです」
あれから30年。Z1を、そのほかの絶版車を取り巻く環境は変わってしまったが、枝川さんが気付いたことがある。
「自分らの親世代は、バイク好きでも、CB72、メグロからWとか、そんな時代だったはず。僕らが熱中しているのは、そのあとのナナハンとかZ、ヨンフォアやFXですよね? なのに、自分の子ども達の世代は、きちんとZやFXに興味を持ってくれている。それが、ウエマツが仕事してきた証になっているのかな、って思うことがありますね」
今では50歳代のファンを中心に、学校帰りの高校生もショップに来ることがあるのだという。ウエマツも中部岡崎や明石、福岡、沖縄に支店を出して、2022年3月には東北支店もオープンさせた。幅広い年代、幅広い地域に、絶版車を届けたい。
「自分たちがずっとやってきたのは、絶版車をずっと安心して乗り続けてもらうこと。そこでお客さんを裏切らないというのが会社のポリシーです。仕入れて保証もなしでオークションに出すだけなら、こんな楽な仕事はないですよ。きちんとフォロー、メンテナンスできる環境をずっと作っていきたいだけです」
まとめ:オートバイ編集部/写真:松川 忍/取材協力:絶版ウエマツ 東京本社