スーパーカブのサスペンションをより最適な状態にしたい。ということで、サスペンションセッティングの基本を、元モトクロスIAライダー鈴木友也さんが代表を務める愛知県北名古屋市のサスペンションエッヂさんから教わってきたよ。

減衰調整できるサスって、意外と選択肢が少ないのよね

今までリアサスにタイカブ用や、YSSを使ってたんだけど、プリロード調整しかできなかったのよ。
つまりバネに初期負荷をかけることしかできない。

画像: 減衰調整できるサスって、意外と選択肢が少ないのよね

でもやっぱり減衰を含めてサスセッティングをしたい
しかしながら減衰調整できるサスペンションって意外と見つからない。高額なサスならあるみたいだけど、そんな金はない。

選んだのはKYBのMGS330

そこで見つけたKYB MGS330。かなり昔からあるサスみたいで存在は知ってたんだけど、実は伸び側減衰調整機能がついてるらしいのよ。

ぱっと見、そんな調整部分ないように見えるじゃん。バネを外してダンパーのロッドを回すと調整されるのよ。わかりにくい。

なお、お値段約1万円。
でもこれ一本売りだから、2本で約2万円。カブ用サスとしてはやや高いけど、評判良いし、仕方ないね。買っちゃった。

ちなみに別体タンクのついたMGS330Tというのもアリ。これも気になったんだけど、別体タンクがアップマフラーに干渉しそうなので断念。

これをですね、プロにセッティングしてもらえば最高のサスになるんじゃないかって思いついちゃったんですよ。

あとセッティングの足しになればと思い、タケガワ MGS330用強化スプリングも購入した。

ちなみにスプリング交換はもちろん、減衰調整するにもスプリングコンプレッサーが必要。バネを縮める道具ね。

でもバイクに適したスプリングコンプレッサーって意外と少ないのよね。うまく爪が掛からなかったり、傷が付いたり。
というわけでバイクのサス専用に開発された、UNITのスプリングコンプレッサーEXをオススメしたい。

画像: www.dirtbikeplus.jp
www.dirtbikeplus.jp

サスのプロ「SuspensionEDGE(サスペンション エッヂ)」さんに教えて貰う

さて、サスセッティングを教えて貰うに当たって相談したのが、愛知県北名古屋市のサスペンションエッヂさん。

モトクロスIAライダーとして、日本のみならず海外でも活躍していた鈴木友也さんによるサスペンションのスペシャルショップ。

そもそも鈴木友也さんは、KYBで二輪用サスペンンションの開発テストライダーもやっていたという、まさにサスのプロなんですよ。

画像: suspensionedge.wixsite.com
suspensionedge.wixsite.com

ちなみに、ライディングを言語化するのが恐ろしく上手。
本質を突いた、明確でわかりやすい説明は各方面で高い評価を受けてるよ。

いつもありがとうございます。今回も宜しくお願いいたします。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

よろしくお願いします。
サスをセッティングすれば良いんですね。

そうですそうです、お願いします。

サスペンションエッヂさんの提案するスーパーカブのベストサス

今回は、KYBのMGSを見て貰うんだけど、サスペンションエッヂさんの提案する「スーパーカブ向けのサスペンション」というものもあるので、まずそれを先に紹介。

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サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

スーパーカブ用のサスを追求した結果、ゼファー用のKYBや、CB400SF用のSHOWAサスなどをベースに作りました。

スプリングレートが高いので、スプリングは片側だけにしています。
実は片側だけでもスプリングの機能には問題がないんですよ。

なるほど、左右同じじゃなくても良いというのはSHOWAのSFF-BPとかに通ずるモノがありますね。

画像1: サスペンションセッティングをサスのプロに学ぶのだ〈若林浩志のスーパー・カブカブ・ダイアリーズ Vol.140〉
画像2: サスペンションセッティングをサスのプロに学ぶのだ〈若林浩志のスーパー・カブカブ・ダイアリーズ Vol.140〉

でもなんでこんなでっかいサスなんですか?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

サスペンションというのは、ロッドの太さやダンパー容量が非常に重要になってくるんですよ。
そうした部分の性能を追求した結果です。

ベースは中古ですが、OHをした上でリバルビングやセッティングを行いますので、見た目はともかく、サスとしての性能は非常に良いものに仕上がっていますよ。

ちなみに、なにしろプロが厳選してセッティングしたサスだけに、スーパーカブへのマッチングは汎用サスとは別次元な模様。なんせ装着した人はみんなこわいくらい絶賛してる。

我が林道の師匠であるハムノヒトさんも愛用。最高とのこと。

Twitter: @mikawaham tweet

twitter.com

価格についてはベースのサスペンションなどにもよるけど、だいたい7万円くらいから、とのこと。詳しくはサスペンションエッヂさんまでお問い合わせを。

サスペンションセッティングの基本をおさらい

さて本題。
まずはサスペンションセッティングにおける基本の考え方、おのおの役割を教えてください。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

一般的なサスペンションはスプリングダンパーで構成されています。

スプリングはその名の通りバネでサスペンションの基本部分。
ダンパーはガスとオイルが入っていて減衰力、つまりサスの移動速度をコントロールしてます。

なるほどなるほど。各々のセッティング方法が違うわけですね。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

スプリングをセッティングする場合には、「イニシャルを掛ける」ことと「スプリングのバネレート自体を変更」することになります。

ダンパーをセッティングする場合には「伸び側減衰力調整」と「縮み側減衰力調整」になりますね。
調整範囲以上のセッティングを行う場合にはリバルビングといって、ダンパーのバルブ自体を交換、加工します。

こういうことですね。

スプリング調整要素
 プリロード(イニシャル)調整
 バネレート変更

ダンパー調整要素
 伸び側減衰力調整
 縮み側減衰力調整

ただ、MGS330は縮み側減衰力調整ができないんですよね。伸び側だけ

伸び側と縮み側って、どういう役割の違いがあるんですか?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

使用する場面によって違いますので、一概にはなかなか言い切れないところがあります。

ただ、公道であれば路面が荒れている場合がありますよね。
伸び側減衰力は、そういうギャップの頂点を越えた後の路面追従性に大きな影響があります。

ほうほう。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

伸び側減衰が強すぎると、サスの伸びるのが遅くなるので、路面に追従できない。極端に言うとタイヤが跳ねる動きになるわけです。

なので、自分の考えですが、公道については、縮み側に関しては遅く、伸びるときは速くというのが基本になるかと思います。

そういえば四輪のラリー車なんかも、「ジャンプした後にサスが伸びてないと吸収できないから、伸びるのは速くする」みたいな話聞いたことあります。

余談①ダンパーが抜けるってどういうこと?

そうそう、前から聞きたかったんですが、よくダンパーが抜けるとかいうじゃないですか。あれって、ダンパーのガスやらオイルがいつのまにか抜け出てるんですか?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

「ダンパーが死ぬ」とか「ダンパーが抜けてる」って言いますね。あれ、実はガスやオイルが抜けてるわけじゃないんですよ。

あれ、てっきり漏れてるからオーバーホールで補充してるんだと思ってました。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

ダンパーが何度も動作しているうちに「キャビテーション」が起こるんですよ。そうして空気がオイルに混ざってダンパー動作を阻害してしまうんです。

キャビテーションってあれですね、潜水艦とかのスクリューで気泡がでるやつですね。あとシャコパンチで出るやつ。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

キャビテーションが起こってしまうと「ガスもオイルもあるのにダンパーが効かない」という、まるでダンパーの魂が抜けたような状態になりますよ。

キャビテーションしたダンパーって時間経過で治ったりするんですか?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

基本的には治らないですね。OHするかダンパー交換するしかないです。

え、じゃあOHできないタイプのサスだと?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

買い直すしかないですね。そもそもサスペンションって使用用途にもよりますが、1年くらいで性能が劣化してしまうんですよ。

走行性能の高いバイクで高性能サスが装着されている場合。ベストな性能を追求するならば、1年弱を目安にメーカーやサスペンションショップでOHをオススメしたいです。

MGS330はOHできないので、一年ごとに交換!?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

あくまでサスペンションのベストな性能を発揮し続けるためには、という話なので気にならなければ無理する必要はないですよ。

あと、カブ用サスだとOHできないものが多いかもしれませんが、そもそもカブのサスって価格帯が低いので、OHよりも新しいサスの購入した方が安いですよ。

そうですね、自分の場合ダンパーが抜けてても気づかなかったりしますし。

余談②カラーの圧入がしんどいんですが

サスを取り付ける時、上下のゴムブッシュにカラーを入れるじゃないですか。あれって妙にしんどくないです? YSS取り付ける時にえらい大変だったんですけど。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

ゴムブッシュなので少量のグリスを塗布しておけば、手で入りますよ。

グリスの種類は、ゴムに影響のないものであればなんでも良いです。

またまたー、めっちゃ苦労したんですよ。そんな簡単にいくわけないじゃないですか。

画像: グリスを塗って

グリスを塗って

するっと入ったわ。疑ってすいませんでした。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

ゴムブッシュって見ての通り柔らかいので、車体に取り付ける際にも注意してくださいね。

ゴムブッシュがサスから抜けて、サスが車体から外れる可能性がありますので。

それ怖いじゃないですか。どうやって気をつけるんですか?

画像1: 余談②カラーの圧入がしんどいんですが

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

うちでは、ゴムブッシュより径の大きいワッシャーを使って脱落防止を行っています。

画像2: 余談②カラーの圧入がしんどいんですが

なるほど、目から鱗。これなら安心ですね。

MGS330を実際にセッティングをしてもらおう

さて、では自分のMGS330をお願いします。縮み側の減衰がないですが。

画像1: MGS330を実際にセッティングをしてもらおう

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

まずセッティングする際の基本は、使用用途ですね。どんなシーンで走行することが多いですか?

自分の使い道としては、キャンプ道具をもってのロングツーリングや釣りが多いです。
走り方としては基本的にゆっくりですね。コーナーを攻めたりはしないッス。
林道もたまに走りますが、舐めるようにゆっくりのんびり楽しんでます。

走行場面

釣り具をもってロングツーリングやキャンプツーリング。たまに林道走行

走り方

基本的に攻めない。林道は特にトコトコです

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

キャンプツーリングということは、重量的に高負荷にも対応出来た方が良いですね。

ですです。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

ではそれを目標に、セッティングですね。

まずはイニシャル、伸び側減衰ともにもっとも弱い状態にして試運転をします。

いってらっしゃーい。

画像2: MGS330を実際にセッティングをしてもらおう

その後、減衰やイニシャルを変えて何度か試運転。さて結果やいかに。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

実走してみたところ、伸び側減衰については最弱が一番良いですね。

伸び側減衰を強めていくと、路面の凹凸に対して、追従できない場面がありました。

イニシャルについてはどうでしょう?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

イニシャルについては、3段目、ちょうど中間がバランス良いですね。

それより強くすると固すぎる印象ですが、キャンプなどで荷物を積んだときには4段目か5段目にするとちょうど良くなりそうです。

とりあえずノーマルのMGS330については見えてきた感じ。

余談③サスセッティングってエンジンによって変わるの?

自分のカブはエンジンがノーマルじゃないんですが、同じフレームでノーマルエンジンの場合だとセッティングは変わるんですか?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

基本的な考えとして、エンジンよりもフレームやディメンションの方が重視されますね。

あくまでイメージですが、車体7割、エンジン3割、という印象です。

じゃあ同じフレームのスーパーカブ50のノーマルとかでも、だいたい似たようなセッティングでいけるわけですね。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

乗り手の違いや、使用用途の違いがありますので、同じとは言えませんが、参考にはなるかと思います。

ハーダースプリングを試してみよう

ノーマルのMGS330についてはばっちり完了。ハーダースプリングも装着してみるよ。

画像1: ハーダースプリングを試してみよう

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

せっかくなのでハーダースプリングに交換してみましょう。
バネレートが変わるので、あらためてチェックしてみます。

ありがとうございます! いってらっしゃーい。

画像2: ハーダースプリングを試してみよう

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

公道で使うにはバネレートが高いという印象ですね。

ハーダースプリングでイニシャル最弱の状態が、ノーマルスプリングのイニシャル最強とおおむね同等くらいですね。

キャンプなどで荷物が多い状態、二人乗りでは良いバランスになりそうですが、荷物を下ろしたときにサスが活用できないかもしれません。

自分も試運転してみた。

またがった瞬間にリアがずいぶん高くなった感覚。で、乗り味が硬くて個人的には凄く好みなんだけど、路面の荒れをめちゃめちゃ拾う。

というかガツンガツン来ておしっこ漏れそう。

サーキットとかで路面状況が良ければめっちゃ楽しそうだけど、普通の道だとちょっとツライっすね。好みとしてはアリだけど、人には勧めずらいというか。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

そうですね、そもそもレースを想定したスプリングだと思います。

クローズドサーキットであればノーマルスプリングよりも適していると思いますよ。

なるほど、個人的にはこういう極端な感じも好き、実際に乗り続けるとなるとクセが強そうですよね。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

セッティング全般に置いて大事なのは「~過ぎない」ことです。

イニシャルをかけ過ぎない、緩め過ぎない。減衰を速くし過ぎない、遅くし過ぎない。
といった感じで、やり過ぎないことが非常に大切だと思います。

イニシャルだけのサスセッティングは?

今まで使ってたYSSのリアサスは、減衰調整がないんですよ。こういうサスの場合、イニシャルってどう決めていけば良いですか?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

まずはイニシャルを最弱にしておいて、実走ですね。

そこで「ストローク感がないな」とか「大きいギャップで突き上げ感があるな」という場合は、一段階ずつイニシャルを強めていくと良いです。

なるほど、ストローク感や突き上げ感くらいなら、自分でもなんとか判別できそうです。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

これもやり過ぎないことが大事なので、「よくなってきたな」というところでとどめておくようにしてくださいね。

フロントサスは?

リアサスをセッティングして頂きましたが、フロントサスはどうでしょう?
ちなみに自分のカブには、こういうのを付けてます。

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

フロントとリア、トータルでセッティングするのが理想です。

もっともスーパーカブの場合は、車両の正確や構造的にそこまでシビアにならなくても大丈夫だと思いますよ。

ただ、フロントのグニャグニャ感が気になる場合は、カビィさんのスタビリティースプリングなどの強化スプリングを入れることでガッシリとした剛性感を得ることが出来ますよ。

そうなんですよ、個人的にも効果絶大だと思ってます。

ついでにノーマルサスは?

こないだ中古で購入したJA07のノーマルサスもあるんですが、これはサスとしてどうなんでしょう?

画像: ついでにノーマルサスは?

サスペンションエッヂ代表
鈴木友也さん

純正サスについては、サスペンションとしての能力云々よりも「キャビテーションが起こっても大きく性能を損なわない冗長性のある設計」がポイントですね。

劣化が起こっても一定の性能を保ち続ける、というのもひとつの重要な性能ですね。

スーパーカブの使用用途に合わせた、適切な設計だと思います。

基本は働くバイクですもんね。
本日は色々とありがとうございました。

まとめ

というわけでおニューのサスペンションをセッティングしてもらったよ。
今までサスについてなんも考えてなかったと実感。

みなさんの参考になれば幸い。

レポート:若林浩志

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