談:伊藤真一/まとめ:宮﨑 健太郎/写真:松川 忍
伊藤真一(いとうしんいち)
1966年、宮城県生まれ。88年ジュニアから国際A級に昇格と同時にHRCワークスチームに抜擢される。以降、WGP500クラスの参戦や、全日本ロードレース選手権、鈴鹿8耐で長年活躍。2022年は監督としてAstemo Honda Dream SI Racingを率いて全日本およびアジアロードレース選手権などに参戦。
ホンダ「NT1100」インプレ(伊藤真一)
低い速度域では、フロントの接地感が希薄!? サスをいろいろ調整した果てに気づいたのは…
NT1100については、その日本仕様が販売されるニュースを聞いてから非常に興味がありました。以前愛車としてVFR1200Fに乗っていて非常に満足していたのですが、VFRの後継としてのワインディングも良くて、高速道路も楽で、2人乗りもできて荷物も一杯積める…NT1100もそういうモデルだったらいいなぁ、と試乗前に楽しみにしていました。
今回のテストでは2日間かけて、市街地、高速道路、ワインディングなど様々なシチュエーションで結構な距離を走らせましたが、正直試乗当初は、NT1100の良さをなかなか理解できずにいました。
エンジンはCRF1100Lアフリカツインベースの1100ccツインですが、市街地ではどの走行モードを選択しても、自分の好みにはしっくりこなかったです。日本市場には導入されていないMTモデルに乗ったとしたら、そうは感じなかったのかもしれないですけど、DCTの変速タイミングが日本の市街地走行、そして低い速度域での巡航には、各種設定がマッチしていない印象を受けました。
NT1100走行モードはツアー、アーバン、レインと任意に設定できるユーザー1と2があり、DCTのATモードには標準のDと、1~3とレベルを上げるごとにより高い回転数を使えるSモードがあります。
パワー、エンブレ、そしてトルコン(HSTC)とDCTのモードで、かなり多く組み合わせを選ぶことができるのですが、そのなかから自分好みの組み合わせを選ぶのに結構な時間をかけることになりました。走行モードのツアーとアーバンですと、シフトアップとダウンのタイミングが自分の感覚とはちょっと合いませんでした。高速道路を流すくらいの速度域でもエンジンを一定の回転数でキープできない感じで、この2つのモードではスロットルの反応がドン付き気味にも思えました。
またハンドリングについても、低い速度レンジではフロント側の接地感が希薄に感じました。SFF-BPフォークの減衰は弱めで、OEMタイヤのメッツラー・ロードテックもトレッド面が柔らかくエンベロープ特性もいいので接地感が薄くなるのです。これはフィーリングが悪いという感じではなく、ふわっとしていて乗り心地としては良いです。
ただ接地感が薄いのは自分としては怖さにつながるので、リアサスペンションのイニシャルをかける方向に調整して、よりフロント側を押すようにしようと試しましたが、リア側のイニシャルをかけても、フロント側の動きに大きな変化はなかったです。リア側のイニシャル調整は工具なしで簡単にできるようになってますが、あくまで2人乗りしたときやパニアケースなど荷物を積載したときの調整用ですね。
足まわりをいろいろ試して気付いたのですが、自分の直前にこの車両を乗った方が前後イニシャルを大分イジっていたようで、ともに標準に戻したところ前後のバランスが良くなって、ハンドリングのフィーリングが向上しました。タイヤの空気圧は常に走行前に確認しているのですが、改めて車両状態の確認は大事だと、取材スタッフとともに反省しきりでした(苦笑)。