伝説の名コース「スパ・フランコルシャン」
世界耐久選手権・開幕戦、ル・マン24時間耐久に続いて行なわれた第2戦は、ベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットでの24時間耐久。80年代のワールドグランプリの名舞台としてもおなじみですね、世界耐久では2001年以来、21年ぶりの開催となるコースは、オランダ・アッセンと同じく、「スパウェザー」と呼ばれる、めまぐるしく変わっていく天候でも知られています。
「天気はいつもころころ変わる。コース終盤で雨が降っていても序盤の方では降っていないとか、コースを良く知っておかないと。ラップタイムの差が大きくなりやすいコースで、誰もが世界で最も美しいコースだと言うんだ。森の中に長いコーナーがあって、7kmも続くんだよ。今回のスパ24時間は、BMWが昨年から多くテストしていたし、スパ6時間耐久にも出場していたから、ヨシムラが本命だとは思っていない。僕はまだしも、チームメイトのグレッグやシルバンはこのコースを良く知らないからね」とは、ヨシムラSERT MOTULのライダー、ベルギーを母国とするザビエル・シメオン。
その言葉どおり、BMWモトラッドは火曜と木曜に行なわれた事前テストで非公式のコースレコードをマークし、公式予選ではYARTヤマハにポールポジションを奪われたものの、24時間耐久で勝敗を大きく左右するナイトプラクティスではトップタイムをマークしています。
スターティンググリッドはYARTヤマハをポールポジションに、BMWモトラッド、ヨシムラSERT MOTUL、F.C.C.TSRホンダフランス、WeBike SRCカワサキフランス、ERCエンデュランスDUCATIがトップ6を占め、参戦6メーカーのトップチームが順に出揃うことになりました。やはり優勝争いは、この6チームによって争われることが予想されていました。
スタートは6月4日 土曜日の現地時刻13時。スタートで飛び出したのはSRCカワサキのフローリアン・マリノ。今回はYART恒例のスタートミスもなく、ヨシムラのグレッグ・ブラックのスーパーホールショットもなかったものの、オープニングラップはブラックが先頭で2周目へ。
ここからの1時間は、上記のトップチームがかわるがわるトップに立ち、1時間を終了する頃、ヨシムラスズキがトップ、次いでTSRホンダ、YARTヤマハ、BMWモトラッド、Tatiレーシングカワサキ、Viltaisレーシングヤマハがトップ6。
この中で、SRCカワサキは、スタートライダーのマリノがセッション終盤に接触転倒を喫し、代わったエティエンヌ・マッソン、そしてランディ・ド・プニエも次々と転倒。SRCカワサキはトップ集団から脱落し、3時間過ぎにリタイヤ届けを提出してしまいます。
レースは、ヨシムラスズキが後続との差をやや広げながらトップを走り、トップチームに最初のアクシデントが起こったのは開始3時間すぎ。なんと、ポールシッターのYARTヤマハにスピードセンサートラブルが起こり、予定外のピットインからマシン修復で4分のタイムロス。トップから2ラップ遅れの7番手でコースに復帰します。鈴鹿8耐では4分のタイムロスは致命傷ですが、24時間耐久ならばまだまだ挽回のチャンスはある!
5時間経過頃には転倒車から火が出てセーフティカーが介入。トップはヨシムラスズキで、同一周回は2番手のTSRホンダのみ。後方からタイムロスを挽回するYARTがポジションを上げ、5時間経過で4番手まで浮上。ヨシムラスズキはギュントーリが黄旗無視でストップ&ゴーペナルティを受けるものの、8時間を経過して、依然としてヨシムラがトップをキープします。
ここで、12時間耐久以上のレースならではの「8時間終了時の順位ポイント」加算があり、トップのヨシムラに10P、2番手TSRホンダに9P、以下BMWモトラッド→YARTヤマハ→Tatiカワサキ→Wojcikヤマハ→Bolligerカワサキ→MARCOレーシングヤマハらにポイントが入ることになります。
ちなみに予選順位にもポイントがつけられていて、ポールポジションのYARTヤマハに5ポイント、2番手BMWモトラッドに4ポイント、ヨシムラSERT MOTUL、F.C.C.TSRホンダフランス、WeBike SRCカワサキフランスまでポイントが加算されています。
ピットタイミングによっては、2番手との差が縮まることはあるものの、依然としてトップをキープするヨシムラ。しかし、そのヨシムラにもついに「耐久の魔物」が襲い掛かります。10時間が経過したあと、シルバン・ギュントーリのライディング中に、なんとミッショントラブルが発生! 21年の世界耐久チャンピオンであるヨシムラに、初めてメカトラブルが発生した瞬間でした。
しかしヨシムラは、ミッションとクラッチ交換をわずか25分で完了! コースに14番手で復帰し、そこから追い上げのレースを始めることになります。
これでトップチームのうち、SRCカワサキ、YARTヤマハ、そしてヨシムラスズキにトラブルが発生したことになります。無傷でコンスタントに走っているのはTSRホンダとBMWモトラッドです。
ヨシムラのトラブルの間に、トップに浮上したのはTSRホンダ、次いでBMWモトラッド、YARTヤマハ。11時間経過の順位では、このトップ3が同一周回から1周差以内を走っていて、4番手以下は4周以上の差がついてしまっています。順当に行けば、このトップ3が上位を占めるはずですが、24時間耐久に「順当に行けば」なんて展開はありません。
そして次にトラブルが発生したのは、なんとTSRホンダ! 15時間を過ぎた頃、ジーノ・レイ走行中のマシンにチェーントラブルが起こり、マシン修復に15分のタイムロスが起こってしまいます。
TSRは10番手でレースに復帰しますが、これで16時間経過時のトップ争いはBMWモトラッドと、序盤のタイムロスから追い上げたYARTヤマハが同一周回、3番手は6周遅れでTatiカワサキとなり、16時間経過時の順位ポイントはBMWモトラッド→YARTヤマハ→Tatiカワサキ→Wojcikヤマハ→ヨシムラスズキ……と順に与えられることになります。スパに夜明けが訪れる頃、心配された雨脚が強くなってきます。
ここでトップチームに再びアクシデントが襲い掛かります。スパに夜明けが訪れた頃、ヨシムラスズキのグレッグ・ブラック、TSRホンダのマイク・ディ・メリオが相次いで転倒! ブラックは大破したマシンをピットに戻し、ディ・メリオはマシンにダメージが少なかったのを確認してピットに入らずに再スタート!
レースはYARTヤマハがトップに立ち、BMWモトラッドとトップ争いをしますが、持ちタイムが速いのはYARTヤマハだけに、最大でBMWモトラッドに10秒以上のリードを築いたYARTヤマハが、久々にヤマハに優勝をもたらす――と思われた18時間経過頃、ニッコロ・カネパが周回していたYARTヤマハに、なんとエンジントラブルが発生! マシンをピットまで持ち帰りますが、YARTヤマハのYZF-R1が息を吹き返すことはなく、リタイヤ届を提出することになってしまいました。
これでトップに立ったのはBMWモトラッド! 2番手には7周遅れではあるものの、コンスタントに周回を重ねてきたTatiカワサキが浮上し、ヨシムラスズキとTSRホンダがTatiカワサキから2周遅れの同一周回で3番手争いを繰り広げます。
そしてレースは20時間が経過する頃に雨脚がさらに強くなり、21時間経過の頃にはコース上にオイルが大量流出。レースはオイル処理のために赤旗中断から、マシンは2時間以上も主催者保管となり、レースが再開されてからはヨシムラスズキとTSRホンダが激しい3位争いを繰り広げますが、0秒538差でTSRホンダが3位表彰台を獲得し、ヨシムラスズキは4位でフィニッシュ。
24時間耐久らしい波乱に満ちた、トップチームをそれぞれトラブルが襲う激しいレースで、BMWモトラッドが初の24時間耐久レースウィナーとなりました。
なお、日本人ライダーとして唯一世界耐久にレギュュラー参戦している渥美心が所属するOGモータースポーツBY SARAZINは、SSTクラスで3位入賞を果たし、総合12位/クラス3位でフィニッシュ。スタートライダーを務めた渥美が、スパ24時間耐久の表彰台に立ちました!
これで世界耐久の次戦は8月7日に決勝レースが行なわれる鈴鹿8時間耐久ロードレース! 第2戦を終わって、ランキングトップはヨシムラスズキ、それをTSRホンダが15ポイント差で追い、TSRまで15ポイント差にYARTヤマハがつけています。BMWモトラッドは……鈴鹿に来ないんですかねぇ……。BMWの事実上のワークスチームの耐久レース、楽しみなのになぁ!
■世界耐久選手権 第2戦 ベルギー・スパ24時間耐久
6月4~5日 ベルギー スパ・フランコルシャンサーキット(6.985km)
優勝 BMWモトラッドWorldEndurance S1000RR 508laps
2位 Tati Team BERINGER ZX-10RR -7L
3位 F.C.C. TSRホンダフランス CBR1000RR-R -8L
4位 ヨシムラSERT MOTUL GSX-R1000R -8L
5位 Wojcik Racing EWC77 YZF-R1 -11L
6位 VILTAIS RACING IGOL YZF-R1 -11L
7位 TEAM MOTO AIN YZF-R1 -13L
8位 TEAM LH RACING YZF-R1 -17L
9位 Team Bolliger Switzerland ZX-10RR -18L
10位 Team LRP Poland S1000RR -18L
■シリーズランキング(2戦終了時)
1:ヨシムラSERT MOTUL 106P
2:F.C.C. TSRホンダフランス 91P
3:ヤマルーブYARTヤマハEWCオフィシャルチーム 76P
4:Tati Team BERINGER 75P
5:BMWモトラッドワールドエンデュランス 64P
6:Team Bolliger Switzerlan 56P
写真/EWC Suzuki Yamaha 文責/中村浩史