文:太田安治/写真:南 孝幸/モデル:国友愛佳
ホンダ「PCX」インプレ(太田安治)
完成度をより一層高めた充実のフルモデルチェンジ
PCXはデビュー以来ずっと好調なセールスを続けている。それだけに2020年のフルモデルチェンジは意外だった。フレームまで新開発した前モデルから2年も経たず、販売も好調なのだから、商業的にはマイナーチェンジでも充分。何か事情でもあるのか? と勘ぐったほどだが、試乗してその理由が判った。
4バルブ化されたエンジンは最高出力が0.5PSアップ。数値的に大きな差ではないが、発進加速は確実に軽やかで力強い。これはピークパワーの差だけではなく、加速時に使う回転域でのトルクアップと、オートマチック変速設定の合わせ技。特に上り坂やタンデム時に力強さを実感する。
加えて、遠心クラッチが低めの回転でスムーズに繋がって優しく動き出すから、極低速域でもコントロールしやすく、交差点の右左折やUターンで気を使わずに済む。加速力を追求してピュン! と飛び出すように動き出す車種とは決定的に異なる扱いやすさだ。
高速域もスムーズに伸び、クローズドコースで試したところ最高速は100km/hを超えたが、原付二種のPCXにはあくまでオマケ。80km/hまでの静粛性が高く、振動も少ない。一般道での60km/hクルージングは快適そのものだ。
新採用のトラクションコントロールだが、道路端の砂の浮いた部分やマンホール上で瞬間的に介入する場面があった。濡れた路面、特に横断歩道や道路上のペイントなどでは間違いなく恩恵を受けられるだろう。
個人的にエンジン以上に進化を感じたのが操縦性だ。前モデルではフロントブレーキを掛けながら寝かし込む際や、バンク中にギャップを通過する際、車体がねじれる感触が出て旋回性が微妙に変化する場合があったが、新型はこれが解消されている。一方で、剛性アップに伴う重さや、コーナリング中の弾かれるような硬さは感じないから、単に剛性を高めたのではなく、ねじれバランスを部位によって最適化したのだろう。
新型はリアタイヤが14インチから13インチに小径化されているが、これは外径を小さくしてその分ホイールトラベル量を増やすことが主な狙い。実際、リアのストローク量は10mmアップしているが、1サイズ太いタイヤ幅でエアボリュームを増やして衝撃吸収性を上げているので、減速帯を通過した際などに感じるリアのドタドタ感が抑えられた。
リアフレームの形状変更で、シート下スペース容量が2L増量しているのも見逃せないポイント。ドラムからディスクへ変更されたリアブレーキは、市街地や峠道で頻繁に使ってもタッチと効きが一定していてコントロールしやすいが、欲を言えばリアにもABSが欲しいところだ。
PCXの開発陣は好調なセールスに満足することなく「もっと先のステップ」を追い続けている。その結果がエンジンからフレームまで変えた2021年のフルモデルチェンジ。この4代目も、初代から不変の「パーソナルコンフォートサルーン」コンセプトに相応しい仕上がりになっている。