※この記事は2017年3月号「RIDE」内の記事を再編集したもので、本文中の内容、お二人の職歴は取材当時のものです。
福永博文さん(右)
株式会社 本田技術研究所 二輪R&DセンターHGA-K 主任研究員(2017年当時)
1977年入社。主に直4エンジンの大型モデルの開発を歴任し、CB400SFは2003年のハイパーVTECスペックⅢの企画から、2014年モデルからは、シリーズLPLとしてCB400SF/SBの企画に携わり、その後LPL統括を担当した。
向原穂高さん(左)
株式会社 本田技術研究所 二輪R&Dセンター第2開発室 第1ブロック 研究員(2017年当時)
2003年入社。主にレース部門でのエンジンPLを務めた後、2005年からCB400のエンジンPLとなり、2007年、ハイパーVTEC Revoの開発を担当。その後はCBR1000RR、RC213V、RC213V-Sなどのエンジン開発も担当した。
まずは「道具」として優れていることが大事
日本を代表するバイクのひとつが、CB400スーパーフォア。1992年に「プロジェクトBIG-1」コンセプトの一環として鮮烈にデビュー。400ccクラスが花形だった当時の日本市場で、クラスを牽引するネイキッドモデルとして、一大ブームを巻き起こした大ヒットモデルだ。デビュー当時の印象を、福永氏はこう振り返ってくれた。
「すごくカッコいいバイクが出たなあ、というのが第一印象でした。当時、私はCBR900RRの開発に没頭していて、直接開発に携わっていませんでしたが『自分たちが本当に好きなバイクを造りたい』というテーマでプロジェクトBIG-1が始まったのも知っていました。そうして生まれたCB1000スーパーフォアもカッコいいバイクでしたが、当時は大型二輪免許の取得が厳しい時代だったこともあり、BIG-1コンセプトの流れを汲む400が先にリリースされたのです」
一方、2003年入社の向原氏は、すでにCB400スーパーフォアが不動の地位を築いていた世代。CB400に対するイメージは、意外とあっさりとしたものだった。
「CB400スーパーフォアに初めて接したとき、私はまだ学生でした。当時はレースやオフロードバイクに夢中でしたが、スーパーフォアは知人のものを乗せてもらったことがあって、王道のスタンダードバイクだな、という印象でした。振り回してもなかなか面白いし、これ1台でいろいろ楽しめる、日本の道にはベストな1台だと思っていました」
福永氏は2003年のハイパーVTEC・スペックⅢから、向原氏は2007年のハイパーVTEC Revoから、CB400の開発に携わることとなる。特に、Revoのエンジン開発のプロジェクトリーダーを務めた向原氏は、CB400を象徴する機構である、ハイパーVTECについて、こんな想いを抱いていたようだ。
「それまでのハイパーVTECに関しては、バルブ数が切り替わったときの違いを体感していただけるような演出がなされていましたが、個人的にはその演出がちょっと過度だと感じていました。ハイパーVTECは、2バルブが生み出す低中回転域の豊かなトルクと、4バルブが生む高回転域の伸びやかなパワーの『いいとこ取り』をした出力カーブにこそ価値があるわけですが、2→4バルブの切り替わりのフィーリングを強調した演出だと、せっかくのVTECがオモチャっぽく思えてしまう気がしていたのです。
ハイパーVTECを進化させることになって、まず『VTECとは何か』を改めて見つめ直すことから始めました。直4エンジンならではの気持ちいいパワーカーブと、乗りやすさを重視したパワーカーブを併せ持つVTECは、まるで教習車のような乗りやすさとCBRが誇る高回転域での吹け上がりを両立する、まさに400のための機構ですが、街乗りではわざわざ積極的にこれを使う乗り方はしないでしょうし、バイクを分かっている通の方にもハマっていただけるような、深みのあるフィーリングも出したかったのです。ユーザーの方の年齢層も40代中心になっていましたし、それならば、VTECの『本質』を追求して、まず道具として優れていることが大事なのではないか、と考えました」
すべてはCBオーナーの「走りの楽しさ」のために
こうして生まれた新エンジンの名は「ハイパーVTEC Revo」。PGM-FIを採用して、CB400シリーズの歴史に新たな1ページを刻んだ新ユニットだ。
「PGM-FIを採用した最大の理由は、パワー特性のセッティングを自在にできるからです。キャブレターのままでも排出ガス規制には十分対応できましたが、スーパーフォアらしさがなくなってしまっては意味がありません。何より、排出ガス規制対応なんて、お客様にはどうでもいいことなのです」
すべては、オーナーの楽しさ、気持ちよさのために。新エンジン・Revoの進化はハイパーVTEC機構そのものにも及んだ。その要が『3Dマップ」の導入である。
「従来のパワーカーブは出力が縦軸、エンジン回転数が横軸で構成されていますが、それにスロットル開度を加えて、3次元で構成したものが3Dマップです。ハイパーVTEC Revoの場合、具体的には2→4バルブの切り替えを一律に特定の回転数で行うのではなく、スロットル開度も加えて6300回転〜6750回転の間で柔軟に行うことで、ライダーの乗り方に合わせた最適なパワー特性を得ることを可能にしています。
たとえば、スロットルを早めに開けるような乗り方であれば早めに4バルブにして爽快なパワー特性としたり、逆にスロットル開度が穏やかであれば、2バルブの状態を長めに保持して、乗りやすいトルク特性にしたりしているのです」
Revoという名の通り、その性能を飛躍的に高めた新エンジン。向原氏によれば、この名前にはある想い入れがあったようだ。
「それまで、ハイパーVTECはスペックⅡ、スペックⅢという名称でしたが、あえてRevoでは『スペックⅣ』にはしませんでした。数字を入れるとシリーズのイメージが強くなってしまいますし、これ以上やることはない、と思えるくらい徹底的に造り込みましたから『ひょっとしたら次があるかもしれない』と想像されたくなかったのです」
新エンジン採用のタイミングに合わせ、エンジンの外観も一新。より存在感のある、上質な外観へと進化した。
「ハイパーVTEC Revoの開発当初に受けた指示はFI化のみで、そのほかに関しては特に指示は出ていませんでした。しかし、もともとこのエンジンはCBR400RRの流れを汲むユニットで、長年造り続けてきたことで、製造に必要な型はすでにボロボロだったのです。そこで、Revoではメカニズムだけでなく、外観も一新しました。
正直言いまして、当時でも400クラスは市場がシュリンクしていて、新機種とは言っても開発に多額の費用はかけられない状況でしたが、このエンジンは一度やめてしまったら、新たに造ることは二度とできない、という想いもあり『今ここでやらないといけない!』と奮起して一新したのです」