「YZF-R25」と並ぶヤマハの人気フルカウルスポーツモデル「YZF-R3」に数日間通勤の相棒となってもらった。片道50キロの道のりで感じたYZF-R3の使用感や実測燃費、足つき性などをお伝えしたい。
文:石神邦比古/写真:石神邦比古、西野鉄兵

ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

画像: YAMAHA YZF-R3 ABS 総排気量:320cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 シート高:780mm 車両重量:170kg 税込価格:68万7500円 ※写真は2021年モデル、ディープパープリッシュブルーメタリック

YAMAHA YZF-R3 ABS

総排気量:320cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
シート高:780mm
車両重量:170kg

税込価格:68万7500円

※写真は2021年モデル、ディープパープリッシュブルーメタリック

「R25とR3だったら、どっち選ぶ?」

以前なら迷いなくR25って答えてたと思う。

排気量が400ccなら少し迷ったかもしれないけど、320ccという中途半端なカンジが否めない数値がなんだか引っかかる。2台の違いすらあまりわかっていなかったし、面倒な車検がない方が気楽で、お財布にも優しい。それに、基本街乗りメインならニーゴーで事足りるだろう、って。

でも、この頃の私はプラス70ccの偉大さなんてちっともわかっていなかった。

画像1: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ
◇  ◇  ◇

YZF-R3で通勤をはじめて数日が経った。

自宅から編集部までは片道約50キロ強。時間にして下道約2時間弱かかるけど、この頃にはやや前傾するライディングポジションにも体は慣れていた。

というより「毎日乗れるスーパースポーツ」をコンセプトに開発された車体は跨った瞬間から体に馴染んで、まるで数年共にした愛車のような感覚に陥る。

R25をベースとした車体は170kgだが、引き起こしや取り回しの際に重さは感じない。シート高は780mmと足つきも良くて、ストップ&ゴーの多い街中でも快適だ。

画像2: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

前モデルに比べてもハンドル位置は低めに設定されているけど、シート高が低めに抑えられているから、ライディングポジションにそれほど窮屈感はない。同時に体の前傾も程よく腕や背中への負担も少なく感じる。毎日乗ることを考えると嬉しいポイントだ。

また、思ったより倒立フロントサスペンションのクッション性が高く、荒れた舗装や道路の継ぎ目でしなやかに衝撃を吸収する。それでいて、柔らかすぎずしっかり踏ん張るのでブレーキングやコーナリングで安心感がある。

リアサスペンションも同様に、過度に突き上げたりすることなく、肉厚なシートと相まって長時間の通勤でも乗り心地は終始良好だった。

画像3: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

スーパースポーツモデルを通勤に使う上でのライディングポジションや足つきといった懸念をYZF-R3はあっさりクリアしていて、良かった点を挙げればきりがないほど。

けれど、それらがオマケに思えるくらい街乗りの快適度に貢献していたのは、疑念を抱いていた320ccという排気量だった。

250ccクラスに比べて約70ccのアップだが、割合でいえば、1000ccのバイクが約1300ccになってしまう数字だ。そうやって考えると、この差はカタログから読み取る以上に大きく思えてくる。

画像4: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

そんなことから、当然250ccに比べて明らかに太い低速トルクで発進から力強く、無理に回転数を引っ張らなくてもあっという間に思い通りの速度に乗れるからストレスがない。

排気量が大きければその辺りが楽になることは当たり前だけれど、R3の場合多少ラフに扱っても振り落とされるような加速力はないから、スロットルワークに過度な気を遣うこともない。

物足りなさはなく、過激過ぎない。320cという排気量が絶妙に丁度いい。

画像5: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

街中ではほとんど3速でオートマチック状態。低中回転の広い範囲でスロットルレスポンスが良いから、たとえハイギアで走っていたとしてもアクセルを開ければ多少ぐずりながらも許容範囲で加速する。シフトチェンジが少なく済むため、操舵や危険予測に集中できるのも嬉しい。

当然、高速道路でも追い抜き・追い越しに余裕がある上、巡行時の回転数も低めに抑えられるから疲れも軽減できる。

画像6: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

高回転域を扱うスポーツ走行が楽しいのはR25という意見も聞くけど、好みは抜きにして信号や曲がり角で忙しくストップ&ゴーを繰り返す街乗りをメインとして考えるなら、下が強いR3は抜群に扱いやすいと思う。

片道50キロの通勤路だって仕事に障るような疲労を残すことなく走り切るし、ちょっと最寄りのコンビニまでって時にも一切の躊躇いなく乗り出せる。そんなR3には一種の感動すら覚えたほどだ。

画像7: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

しかし、R3にも宿るワインディングやサーキットでも楽しめるだけのポテンシャルが、街中での至る所から垣間見えたのも確かだったと思う。

試しにパワーバンドまで回して見れば、マフラーは低回転とは明らかに異なるパワフルなサウンドを奏で、ダイナミックに加速する。コントロールしやすい制動性でブレーキングにも安心感があり、素直なハンドリングは思い通りのラインをなぞっていく。

もうちょっとだけ、そんなアブナイ思考を必死に振り払いながら、曲がり角に出会うたび心を躍らせて走った。

◇  ◇  ◇

金曜日、明日は休みだから寄り道して帰ろう、なんてちょっと贅沢して首都高に乗り、横横で馬堀までワープ。そこから三浦に向かって日の落ちた海岸沿いをひた走る。

画像8: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

高回転でカチ回して走れる場所なんて街中にはそうそうなく、無理して回しても疲れるだけだし、そもそも危険だ。

けど、YZF-R3は低中回転域における太いトルクで颯爽と夜道を駆け抜けていく。そこには物足りなさもなければ気遣いもない。

これはきっと、ニーゴーでは体験しえない疾走感。

画像9: ヤマハ「YZF-R3」通勤インプレ

シャシーのディメンションはほぼ同じ。値段はR3が68万7500円に対し、R25は66万8800円とその差1万8700円。2万円弱でこの差ならおトクな感じがする。この際、車検代や税金なんかは見ないふりだ。

主な用途は通勤・街乗りと、たまのショートツ―リング。

「R25とR3だったら、どっち選ぶ?」

今なら。

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