文:中村浩史/写真:赤松 孝
アドベンチャーバイクの魅力とは?
あれもこれもと欲張れる万能選手がアドベンチャー
アドベンチャーと呼ばれるカテゴリーのモデルに乗ると、オートバイの楽しさ、快適さ、自由さをいつも以上に感じられることがある。
たとえばスーパースポーツに乗ると、ちょっとアクセルを開け開け気味にしちゃうし、ワインディングに、サーキットに繰り出したくなる。トレッキングバイクに乗ると、街乗りトコトコの頻度が増え、スクーターに乗ると、ついつい普段使いで遠回りしたり──。
それがアドベンチャーとなると、気分が解放されるというか、急かされないというか、かなりの確率で「どこか」へ行きたくなる。それはKLX230でも感じるし、ニンジャ250でも感じるんだけれど、その両方を合わせて、ってくらい自由な気分になるのだ。
「アドベンチャー」カテゴリーというのは、正式な定義こそないけれど、あくまでもオフロードバイクとは別物で、オンロードモデル起源のツーリングバイクを指すことが多い。
ライディングポジションが快適なオンロードバイクであり、オンロードタイヤを履いたオフロードバイク。その両方のキャラクターを持ち合わせているロングツーリングカテゴリー、といったニュアンスだ。
その意味で、アドベンチャーの守備範囲は広い。街乗りは言うに及ばず、郊外のバイパスが気持ちいいし、高速道路は快適、オフロードだって踏み入っていけるし、ワインディングもそこそこ攻められる。かつてはネイキッドがそう呼ばれていた「万能選手」的なポジションにいるのだ。
もちろんスポーツランだけだったらニンジャの方がいいし、林道や未舗装路に入るならKLX230の方が気持ちいい。1日で、街乗りも郊外のバイパスもワインディングも走る、けれど目的地は未舗装路の先にある──そんなツーリングが増えているから、アドベンチャーの存在感が増しているのだ。
カワサキ「ヴェルシスX250ツアラー」ツーリング・インプレ
ニンジャをベースにしつつ長距離ランに特化した
ヴェルシスX250ツアラーは、ニンジャ250をベースにしたアドベンチャーだ。エンジンを共通として車体を改良、特徴的なのは前後17インチのキャストホイールを、前19/後17インチのワイヤースポークホイールとしたこと。これで、ニンジャの「曲がる」ハンドリングが、安定した直進安定性を重視した味付けになっていると言っていい。
効果が大きいのはボディの大型化だ。ベースとなったニンジャと比べてひとまわり大きく、ホイールベースも長くなって、車両重量も10kg近く重いし、最低地上高、シート高だって上がっている。けれど、これがいい。
大型化と重量増は車体の安定性を生んでいるし、キャスターが寝かされ、トレール量が増やされた車体は直進安定性が増している。シート高が上がると、足つきが悪くなる半面、乗車姿勢でひざの曲がりが緩やかになって、クルージング中に下半身が楽になる。
エンジンが共通だとはいえ、そうとは思わせない、特に長距離ランに特化した性格がヴェルシスにあるのだ。
走り出してみると、やはり250ccとは思えない車格が印象的。足つきは170cmくらいの身長があれば十分なレベルで、大柄なボディとはいえ、183kgのボディは、重心をきちんと考えられているのか、重く感じない。むしろ、長距離を走った時の疲れなさにもつながるもので、これは軽自動車と3Lクラスのセダンで長距離を走った時の感覚に近いかもしれない。大きなクルマでの長距離移動の後の、あの疲れなさに似ているのだ。
エンジンの力感はニンジャ同等、というよりいくらか抑え気味。軽やかに回転の上下があって、発進トルクから徐々に力が盛り上がってきて、高回転での伸びはそこそこ、7500回転あたりまでのトルクが力強い。ニンジャだとこの上のパワーひと伸びがあるけれど、ヴェルシスX250ツアラーはそこを抑えている。
まさにこのあたりが常用回転域で、クルージング時の6速80km/hは6200回転、100km/hは7500回転、120km/hは9400回転といったところで、これ以上のひと伸びはニンジャの方が力強い。
けれどヴェルシスX250ツアラーのよさは「のんびり感」に現われていて、6速4000回転チョイあたりの回転域、スピードは60km/hあたりで走っていると、回転振動が感じられず、なんとも平和な気分になる。誰が何と言おうと、この速度域、回転域の気持ちよさは、ニンジャより何倍も上なのだ。
ビッグバイクで味わえない旅するオートバイの気持ちよさ
ヴェルシスX250ツアラーを走らせていて、やはり気持ちがいいのは、郊外のバイパスや高速道路だ。トップギアに放り込んで高回転なんか回さずにクルージングしているとき、ヴェルシスのウィンドスクリーンは適度にだけ走行風からライダープロテクトしてくれて、フロント19インチホイールがピシッと直進安定性を出してくれる、その気持ちよさ。
カワサキで言えば、きっとヴェルシス1000SEがトップツーリングバイクなんだろうけれど、速度域も違うし、ウィンドプロテクションも高すぎる、と感じることも多いから、この250ccがちょうどいい。1日500kmなら250、1000km走るなら1000がいいかも──。
特にヴェルシスX250ツアラーは、60km/hくらいで定速走行するのがなんとものんびりで、バイクに乗ってるって気持ちイイ! と思わせてくれる瞬間。これはニンジャでもKLX230でも、ヴェルシス1000SEのようなビッグバイクでも味わえない。
ヴェルシスX250ツアラー最大のヒットは、やはり前19/後17インチのワイヤースポークホイールで、フロントホイールがぐるんぐるん回って直進安定性が高いのはもちろん、心なしか乗り心地もソフトに感じるからだ。これは、キャストホイールからワイヤースポークへの変更と無関係ではないと思う。
さらに現行ラインアップでは、パニアケースとボディガードパイプつきの「ツアラー」グレードだけの販売で、これもロングランに特化した仕様だ。
撮影用に、キャンプツーリングに持って行くときに絶対に必要な、テント/シュラフ/マットの「長尺もの」3点セットを積んでみたけれど、左右に張り出したパニアケースのおかげで安定性は抜群。キャンプツーリング用のシートバッグの安定性も、市販モデルのノーマル状態ではナンバーワンだろう。
もし「あれこれ買い足さずにキャンプに行きたい」バイクを、と思うならばヴェルシスX250ツアラーがベストバイだと思うのだ。それほど、「旅性能」は高く、ガレージにあるだけで、どこかへ出かけたくなってしまう。アドベンチャーって、やはりそんなカテゴリーのオートバイなのだ。
決して速すぎないし、スゴ過ぎない旅バイク。250ccという小さい排気量だけれど、カワサキのラインアップの中で、ひょっとしていちばん「旅性能」が高いかもしれない。