文:山口銀次郎/写真:西野鉄兵
ホンダ「フォルツァ」通勤インプレ
隔世の感、ビッグスクーターブーム時の250ccスクーターとは全然ちがう!
250ccビッグスクーター自体に乗るのは20年近くぶりかもしれない……。正直、「大きく太く落ち着いた雰囲気」といったイメージを抱いていた250ccビッグスクーターは、自分で所有することや、ましてや通勤に使用するといった選択肢にはなかった。
通勤路を往くバイクは、軽く、軽快で、コンパクトであってほしい、贅沢なことを言えば流れをリードするダッシュ力もほしい。そんな願望を具現化したようなモデルは、125ccスクーターだったりするので数台所有してきたのも事実。
あまりにもコンフォータブルでありラグジュアリーなワンランク上の250ccビッグスクーターは、ちょこまかと忙しない都心での通勤路に不向きだろう、と思っていた。
が、しかし。比較対象を125スクーターにすると当然大きく感じるが、跨って取り回すと250ビッグスクーターに持つイメージの半分ほどのサイズ感に驚いてしまった。
まったくもって自分の持つイメージで話を進めてしまって申し訳ないのだが、昔と現在のテレビのボリューム感や、レコード盤とCDの違い、それほどまで強烈にスマートでコンパクトになっている印象だった。ちょっと大げさだったかもしれないが、それだけ時代の流れというか、現代の要望を具現化したのだと、浦島太郎状態で関心仕切りである。
まず、コンパクトで軽やかな印象を与える車体は、スタイリッシュにまとめられたボディワークによる乗車時の視覚的影響が大きいようで、それこそワンサイズ下のモデルに近いものがあるかもしれない。また、若干硬質感のある前後ショックにより、クイックリーなハンドリングを生み、スポーティなキャラクターに思える一面もある。
横幅のあるビッグスクーターのシートにしては、高めの780mmというシート高設定で、身長177cmの私でも座る位置次第では爪先立ちの足着き性となる。それこそ、運動性能を重視するスーパースポーツモデルですか? といった雰囲気の割り切り感すら感じる。
なので、「どっしり」「ゆったり」というイメージより、自然とキビキビと走行するスポーツモデルのような印象が強くなったのかもしれない。とはいえ、幅が絞り込まれたシート前端に着座位置を変更すれば、両足とも踵べったりといった気遣い仕様の足着き性となる。
ストップ&ゴーが繰り返される都心の通勤路においても、一人乗りだったこともあり爪先ツンツンだけれどもドッカリ腰が落ち着かせることの出来る後端に身を預けて乗ることが多かった。
これは、走行中と停車時とで着座位置を変更するのが単に面倒だということや、多少ツンツンで不安定になろうとも、着座位置を変更したくなくなる快適すぎるお尻ホールド事情があったからかもしれない。
街道では持て余し気味のパワフルなエンジンは、とにかく静か! その静粛性は他のレシプロエンジン搭載モデルにはない徹底されたもので、当たり前のように存在する振動や排気音がこれでもかとスポイルされており、深夜の住宅街のエンジンスタートも臆することのないレベルとなっている。
最も美味しい回転領域を常に利用できるVベルト無段変速式だからこそ、低速から高速まで速度域関係なくそのエンジン最大の振動や排気音がすぐに発生してしまうのだが、それでもなお静粛性に富んでいるのだ。当然、静粛性に富んでいるからといって、トルク感やダッシュ力などは他モデルに劣ることがないので、とても現代的かつ先進的なフィーリングといえる。
クイックリーなハンドリングに軽快感を持ち合わせているとはいえ、それなりのホイールベースを有しているので回頭性や旋回性は小振りな125スクーターの様にはいかないので、ちょこまかと忙しないクランク走行は苦手かもしれない。
低速で90度クランクを思いきってする際には、シート下のボリュームあるボディやエンジンの存在感が否が応にも気になることだろう。さらに、先代モデルと比べると最低地上高が高くなっており深いバンク角が確保されていると思いきや、あっさりとボディサイドを擦過するので、数値が示すほど期待を持つべきではないかもしれない。
もちろん、もともと細かなクランクを繰り返す様な車体作りではないので、それは当たり前のことで、当然の結果である。ただし、あまりに軽快に取り回せる車体なので、細々と振り回せると勘違いを生んでしまったのも事実である。
フォルツァはコンフォータブルでありラグジュアリーな車体構成であると再認識すると、一般公道での通勤ではなく贅沢に高速道路での走行に切り替えてみた。やはり、というか、問答無用の落ち着き払った優雅な世界観を提供してくれた。
しかも足元までしっかりカバーするフエアリングのお陰で、雨天時に身体が濡れる面積の少ないことといったら、ありがたさ満点である。
高速道路での「ありがたアイテム」として、電動式の無段階調整スクリーンがある。その利便性といったら豪華ツアラーを彷彿させるものだ。いやむしろ、180mmに及ぶ可動幅があるので「電動式の無段階調整スクリーン」搭載モデルの中でも上位の使い勝手の良さと効果を発揮する。この快適性は、毎日の通勤(高速道路使用だが)を確実に上質なコンフォータブルなものにしてくれるだろう。
「ビッグスクーター」と呼ばれる長年愛され続けられているレッテルは、タンデム走行をしてこそ真意が明らかになるのかもしれない。
一人乗りでは硬質感のある足回りでスポーティなハンドリングとなるが、タンデムでの高速走行は不安定さが皆無で、どっしり落ち着きつつ節度あるハンドリングを提供してくれる。この落ち着き具合ときたら、数百キロの移動やいくつもの越境を厭わないラグジュアリーさがあるのだ。むしろ本領発揮と言えるかもしれない。
最後に、約1カ月間で下道と高速道路走行を合わせた実走行は537kmで、燃費は25,8km/Lといった結果に。デジタル燃料系では、最後のメモリが点滅し15kmほど走行して、満タン状態から約285km、給油量11.5Lだった。ちなみに、スペック上の燃料タンク容量は11Lとなっている。