2020年にデビューしたヤマハ「テネレ700」は、往年のパリダカール・ラリーマシンのDNAを受け継ぐモデルとして注目された。2022年5月に発売された新型は、最新の排ガス規制に対応させつつ若干ながら最高出力・最大トルクをアップさせている。
文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行

ヤマハ「テネレ700」インプレ(濱矢文夫)

画像: YAMAHA Ténéré700 総排気量:688cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒 シート高:875mm 車両重量:205kg 税込価格:128万7000円

YAMAHA Ténéré700

総排気量:688cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列2気筒
シート高:875mm
車両重量:205kg

税込価格:128万7000円

国産アドベンチャーではダート性能ナンバーワン!

フロント21インチ、リア18インチとオフロードモデル定番のホイールを履いていることだけでなく、またがっただけで柔らかく、ロードモデルより奥深くまで入り込む足廻りからもはっきりそれが伝わってきた。

ヤマハ自らが新たな4ストビッグオフと言い切っているのは伊達ではない。もう一度シートからおりて、かたわらから手で強く前後左右に動かしやすいフラット形状になったシート表面を押してみて、ぐっと入った減衰力が効いたリアショックユニットの戻り方は一般的なアドベンチャーというよりオフロード車だ。

画像1: ヤマハ「テネレ700」インプレ(濱矢文夫)

スペックを確認するとフロント210mm、リア200mmの長大なホイールトラベルを有する。手前への絞りがあまりなくフラットに近いアルミテーパーハンドルは、スタンディング姿勢で荒れたダート路面での姿勢にちょうどいい。

ちょっとした凸凹不整地をややリアに体重を移動し、フロントの荷重を抜きながらスロットルを開けてダダダダとスピードを上げて簡単に乗り越えて行く際の安定感とコントロール性など、ダートでは国産アドベンチャーの中でも随一だと思う。少しスピードを上げてギャップに突っ込んでジャンプし、両輪を浮かせてみても着地で底づきする感じはなかった。かなりいける口だ。

画像1: ヤマハ「テネレ700」インプレ(2022年)ロングツーリングもオフロード走行も大得意! 本気の走りと旅を楽しみたい人におすすめ
画像2: ヤマハ「テネレ700」インプレ(2022年)ロングツーリングもオフロード走行も大得意! 本気の走りと旅を楽しみたい人におすすめ

オフロード走行はバイクの性能だけでなく、ライダーの技量と経験値に左右されるもの。だから〝誰でもできる? と無責任なことは言えない。けれど、もしあなたがオフロードを走ることが大好きならば、テネレ700という選択をすれば幸せになれるだろう。

純正タイヤとして履いているピレリのスコーピオンラリーSTRはブロックの面積が大きく、オンロードでのグリップも考慮したのがうかがえるデザインになっているけれど、ブロック間が広めで横方向にしっかりとした溝が切ってある。このおかげで、フカフカした砂地に近いところや、水分を含んでヌタヌタになったところでも縦方向のトラクションが思いのほかいい。

画像2: ヤマハ「テネレ700」インプレ(濱矢文夫)

あらためて車体を見てみると、MT‐07譲りの水冷DOHC688ccパラツインエンジンは、オイルパンの下側への張り出しが大きい。それをオフロード走行に必要な最低地上高240mmを確保するために、持ち上げて高い位置に搭載している。

必然的にそのエンジンの上にある燃料タンクなどがその上に載るから、875mmという身長170cmの筆者にとって決して低くはないシート高よりさらに高い位置にボリュームがある独特なレイアウト。これでオンロードバイクより重心が高いオフロードバイクらしい構成になっているということだろう。

コンパクトな直列2気筒で、トラクション特性に優れる270度クランクのクロスプレーンエンジンとはいえど、よくこれを使ってオフロードでの走りを高めた機種を作ろうと思ったものだと感心した。

画像3: ヤマハ「テネレ700」インプレ(濱矢文夫)

オフロード走行を中心にした作り込みだという前触れがあっても乗ってみるまでは、正直少しだけ懐疑的な気持ちがあったけれど、ライディングしていみるとその疑いは晴れた。エンジンはMT‐07より低中速のトルクを豊かにしたものだ。そこでのレスポンスと押し出し感は気持ちよく、使いやすい。

舗装されたストリートでの走りは一連の公道向けオフロード車のそれだ。前後の大径ホイールをひらひらとリーンさせて旋回力を高めていく乗り味。エンジンは高回転までひっぱらずに、トルクが強い中域をキープするようにシフトチェンジした方がスムーズに走れた。

画像4: ヤマハ「テネレ700」インプレ(濱矢文夫)

ワインディングでペースを上げて、フロントタイヤを巻き込むように深く倒し込んで遠心力でタイヤに荷重がかけてもなかなか立派にクリアできる。オンロードスポーツのようなメリハリはないけれど、グリップの低い路面で滑っても懐の深いサスペンションがあるから対処しやすい。オフロードに特化しているとはいえオンロードでも問題はない。逆に深くリーンさせて内側に近づいた路面を感じながら道幅をいっぱいに使って曲がるのが楽しかったりする。

前後の重量バランスは少しリアよりだけれど、普通の位置に座って乗っていれば、フロントの接地感が足りないと思うことはない。あまりライダーの座る位置や操作に対して意識しないでいい。

フロントスクリーンは、ヘルメットを装着した頭に当たる向かい風を防いで優しいものに変えてくれた。これだけでも長距離、長時間になるほど体力温存の役にたつ。トラクションコントロールなどの複雑な電子デバイスはないけれど、困る場面はほとんどない。ライダーが制御しやすいソリッドなミドルツアラーだ。

画像5: ヤマハ「テネレ700」インプレ(濱矢文夫)

同じテネレでもXT1200Zスーパーテネレは、ワインディング最速と思わせるほどのロードでの運動性能だった。それは、それで魅力的だったけれど、テネレというとパリ・ダカールラリーから誕生した砂漠の匂いがする方がしっくりくる。そんなテネレが帰ってきたのである。

デュアルパーパスでもユーザーの多くは舗装路が主体なのは間違いない。だからオフロード性能を重点的に追求するモデルは現在も少ない。その中で思いきって舵取りをしたヤマハのテネレ700は、ある意味で異端かもしれないけれど、別の意味でこれを心から待っていた熱狂的なファンを獲得するだろう。

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