文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
ホンダ「400X」インプレ(濱矢文夫)
もうひと押しが効くタフネスさが魅力!
最初のモデルが発売されたのは2013年だからもうすぐ誕生してから10年になる。
はじめに印象的な変化があったのは2019年だった。並列2気筒エンジンにアシストスリッパークラッチを採用し、フロントホイールが17インチ外径のオンロード向きサイズからアドベンチャースタイルに見合った19インチへと大径化された。言うまでもないがこれで走りの印象も明確に変わった。
同じタイミングで基本の多くを共有する兄弟車のCBR400Rは前後17インチのままで外装や小さいと表現できる変化にとどまったのだから、アドベンチャーの流行もあって400Xへの期待がうかがえる。
2022年また転換期がやってきた。この2022年モデルで、フロントフォークが正立タイプから倒立タイプに置き換わり、フロント19インチキャストホールに装着されたブレーキディスクが1枚から2枚に増えた。スイングアームも軽量化され、前後の足廻りを大きくアップデートしたのである。
各メーカーで最も話題になるのは、やっぱり最新機能を全部載せした旗艦モデルで、普通二輪免許で乗ることが可能な機種ではアドベンチャーのラインナップが充実した250ccクラスの方が注目度は高い。
現在、この排気量クラスにはBMWのR310GSやKTMの390アドベンチャーなどがあるが、国内メーカーではこの400Xだけ。250ccの軽二輪だと定期的にやってきてお金のかかる車検がなく、原付二種とは違い高速道路を使えるメリットがある。それでも400ccを選ぶ理由、この新しいホンダ400Xを選ぶ理由を、試乗した感想とともにまとめてみよう。
まずは250ccより排気量が大きい。あえて説明する必要はないと怒られそうだ。でもやっぱりこれが最大の違いを生んでいるのである。
399cc水冷DOHC4バルブパラツインエンジンは、当然ながら250ccクラスよりパワーは上。そこで大きく違いに影響するのは最高出力ではなく、最大トルクだ。250ccクラスは21~23Nmだが、400Xは38Nm。差異が出るのは停止からのスタートより、高速道路なら巡航しているところから、追い越しとかで、途中からペースを上げる場合。
250ccクラスでは1速落としたくなるところを、スロットルを開けるだけでスムーズにこなせる。このエンジンは高回転域で気持ちよく伸びるので、なおさらフレキシブルに感じられる。この余裕は間違いなく快適な移動にもかかわってくる。もちろん追い越し性能はリッターオーバー排気量のアドベンチャーモデルには適うべくもないが、時速100km以内までなら、もどかしさはなく気にならないと思う。
19インチホイールになった福音は、ダートでの走破性向上だけでなく、ジャイロ効果も含めて復元力、スタビリティが明らかに良くなったこと。舗装のうねりや段差を通過したときでも収束が早く、運転しているライダーの体の力を抜いてバイク任せにできる比率が増した。長時間、長距離になると、この小さく感じる違い積み重なり負担となってあらわれる。
そして新型からサスペンションが刷新されたのも重要ポイントだ。
フロントフォークに左右で機能を分担させた日立アステモ製のSSF-BPフォークを採用。これで以前の正立からぐっと減衰の効きが良く落ち着いた。さらに剛性も高くなったので、ダブルになったフロントブレーキを思いっきり働かせて減速するときでもしっかり感がありつつ安定してタイヤを路面に押し付ける。新しいデザインのホイールのフロントは、ダブルディスクになっても従来比で100g軽くなった。
合わせて、スイングアームは各部の肉厚を変え、クロスメンバーを中空構造にして剛性バランスを最適化した。こちらは単体で1100gもの軽量化。バネ下が軽くなるとショックアブソーバーにかかる動きの負担も小さくなる。舗装路ではもちろん、もっと凸凹が小刻みになるダートでスピードを上げたときの収まりの良さも体感できた。ちなみに前後の荷重負担は、フロント48.7%、リア51.3%。アドベンチャーツーリングモデルとしての完成度はますます高まっている。
小さなところではヘッドランプの配光パターンに手を入れ光量が前よりアップ。明るくなるのは両手ばなしで喜べる。街だと実感しにくいけれど、地方の外灯のない山道を走るときなど助かる。方向指示器を車幅灯のように常時光らせるウインカーポジションも採用。
ここまでを読むと、400Xという選択が魅力的に思えてくるだろう。海外でほぼ同じで排気量を増やした500Xが売られていることが追い風になっているとはいえ、貴重な400ccアドベンチャーに手を入れ続け改良してくれていることをとても評価したい。刷新された新型はそれに値する出来栄え、立派なマルチパーパスツアラーになっている。