2021年7月に登場したヤマハのニューモデル「トレーサー9GT」。新型MT-09をベースに開発されたバランスのいいスポーツツアラーだ。乗り心地や装備について詳しく解説する。
文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行

ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」インプレ(濱矢文夫)

画像: YAMAHA TRACER9 GT ABS 撮影車両はオプションパーツ装着車 総排気量:888cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 シート高:820-835mm 車両重量:220kg 税込価格:145万2000円

YAMAHA TRACER9 GT ABS
撮影車両はオプションパーツ装着車

総排気量:888cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
シート高:820-835mm
車両重量:220kg

税込価格:145万2000円

軽やかにステップを踏む新感覚アドベンチャー・ツアラー

ほりが深いアグレッシブなルックスは、様々な要素が混雑するようにあって、にぎやかなカタチをしていると思うかもしれない。しかし、よく見ていくと狙った意図と思しきものがわかる。スタイルにこだわってきた、デザインコンシャスのヤマハは、昔から、エンジンに入っていく気体の流れを視覚的にイメージさせるディテールを大切にしてきた。このトレーサー9 GTにもそれがある。

長いラジエターシュラウドは冷やすために入った空気を吐き出す部分が中下段で、上段は燃料タンク部分とつながるエアダクトの入り口を避けるように湾曲。その吸気ダクトは燃料タンクの中へと入りつながっているような造形。左右のダクトはジェット戦闘機の給気口のよう。そう考えると角度をつけて内側に向いたメーターディスプレイも戦闘機っぽい。好き嫌いは人によって異なるが、ここにヤマハらしいこだわりを感じる。スタイリングは多くの人に強い印象を与えるものだ。

トルクフルな3気筒エンジンにクイックなハンドリングが持ち味のMT‐09をベースにしたのだから、スポーティなのは誰もが想像に難くない。特にデュアルパーパス的な使い方もできる万能型ツアラーモデルのアドベンチャーカテゴリーの中では、きわだった存在だ。ただし、ツアラー的なライダーがコントロールしやすい優しさを捨てたわけじゃない。

MT‐09のテイストを大事にしながら、ツアラーとしてまとめあげたという感想だ。まるで違うものではないし、MT-09に近すぎることはない。ここがキモであり、「こういうバイクを待ってました」と思うユーザーは間違いなくいるだろう。

画像1: ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」インプレ(濱矢文夫)

興味をそそられるのは、KYBと共同開発した電子制御サスペンションを前後に採用しているところ。IMU(慣性計測装置)から得た情報で走行中にダンピングを自動で調整する。実際、信号で停止するとサスペンションはロックされたように動きをやめて、ちょっとでも動き出すと力が抜けたように沈み込むからおもしろい。

これはスポーツに適した「A-1」とよりコンフォートな「A-2」から選択可能。普段ではその差が大きいとは思わなかったけれど、連続するコーナーを速度域を上げつつ積極的に走り出すと「A-1」の方が荷重、抜重に対する追従性がよくシャキシャキ感が出る。ただ、ロードスポーツではなくスポーツツアラーだから、万能的に感じる「A-2」の方が好みだ。

ストリートにある千差万別の路面状況に合わせられるしなやかさが出て乗り心地もいい。長時間いろいろな場面で乗ったが、「A-2」にしている時間が多かった。

120と180の太さの前後17インチホイールで、タイヤはグリップだけでなく安定性と耐摩耗性も考慮したブリヂストン製バトラックススポーツツーリングT32。それでも、このカテゴリーで多い19/17インチの車両よりオンロードスポーツ性は段違い。よりタイヤに荷重をかけた乗り方ができて、旋回半径も小さい。

画像2: ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」インプレ(濱矢文夫)

試乗車は後ろにパニアケース+トップボックスを装着していた。空荷だったけれどそのものの重量はある。それでも一般的な走行で、重さが大きく邪魔になることはなく、軽快な操作感は失っていなかった。

電子制御サスペンションだけに頼らず、MT-09にくらべ60cmも長くなしたスイングアームにして、スタビリティやフレキシビリティを向上させた。ヤマハお得意のCFアルミダイキャスト製フレームの剛性も最適化する。

電子制御スロットルと組み合わせた888ccの水冷DOHC4バルブ直列3気筒エンジンは、圧縮比、最高出力、最大トルク、6速ギアの変速比など基本的にはMT-09と変わらない。高トルクで押し出すように加速する味付けも一緒でフルスロットルでの加速はなかなかの迫力。

標準装備のクイックシフターは上げだけでなく下げにも対応する。低速低回転域で走っていてもスロットル操作に対し神経質なところがない。回転上昇と共に元気になり中高回転域に入ると弾けるように進む。

画像3: ヤマハ「トレーサー9 GT ABS」インプレ(濱矢文夫)

走行モードは4種類あって、最もレスポンシブルな「1」から、最高出力まで抑える「4」まで。モードによって電子制御サスペンションの特性も変化する。ただ、よくある「スポーツ」「ストリート」「レイン」「オフロード」のようなシチュエーションに合わせてモードが細分化されておらず、サスペンション変化はあくまでも舗装路で選ぶエンジン特性の補佐のようなもの。

フロント17インチホイールなのもあってオフロードのことはあまり想定していない。そう、GTと車名に入っているように、あくまでもグランドツーリングバイクだ。ヤマハにはかなりオフロードに特化したテネレ700が存在するので、オフロードを走りたければそっちをどうぞということか。ちゃんと棲み分けができている。1台で全部欲張るようにはしていない。ただその分、舗装路での仕上がりは素晴らしい。

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