2021年のモデルチェンジで、ライドバイワイヤやアンチホッピングクラッチを採用、ヘッドライトもLED化されるなど、各部がアップデートされて完成度をアップ。
文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
BMW「G310GS」インプレ(濱矢文夫)
新しいエンジンを中心にバランス良く質感が向上!
単気筒らしい端切れの良い音が控えめに聞こえる。ひとつのピストンが上下することで前に押し出していく端切れの良い鼓動もあるが、これも音と一緒でトゲトゲしさがなくコロコロとした感じで滑らか。そう、ロードスターのG310Rとエンジン、フレームを共有したこのG310GSの初期モデルと比べ、エンジン回転上昇がわかりやすく滑らかになった。
また、ライドバイワイヤの採用でECUの介入が増えて燃焼するのを微細に調整できるようになったことで、回転が上がっていくときのスムーズさが段違いで良くなり、エンジンもトルクアップしたように思える。水冷DOHC4バルブエンジンにはスリッパークラッチも採用して、大きくない排気量から高い回転数を使う機会が多いので、シフトダウンでエンジンブレーキを抑制する機能の追加は歓迎だ。
極低回転域では粘りながらトコトコと歩くような速度で進ませることもできる。312ccで最大出力34PS、最大トルク28Nmのパワーは順当なものだが、その滑らかさがトップエンドまで続くことから、加速するのが気持ちいい。
驚くような速さはないが、クルマなどと一緒に走る混合交通の中をリードして走れるだけの加速をみせる。高回転域だけでなく、中回転域でのトルクが増したようで、つづら折りなすワインディングで、コーナーリングからの脱出が楽。回転数が落ちたところからでも繋がり、急ぐことがなければギアを落とさずスロットルだけで右、左と倒し込んで流れるように走れる。ツアラーとしての汎用性を高めるエンジンになった。
良くなった、と個人的に思ったところは他にもある。BMWから正式なアップデートのアナウンスがされていないので思い違いかもしれないと前置きして、前後のサスペンションの動きがスムーズだ。特にモノショックをリンクレスで使っているリアのフィーリングがいい。エンジンのインプレッションが向上したことに引きずられたプラセボ効果なのかもしれない。しかし、それを含めた車体全体で考えてバイクとしての質感が上がったと思わせたのは確かだ。
フロントが19インチでリアが17インチのアドベンチャーツアラーとしては定番の外径を採用したアルミキャストホイール。ハンドリングは、ヒラヒラと軽く反応しながらも、方向転換までがクイックすぎない、いい意味での立ちが強い。これで高速道路走行の安心感がある。フロントがもっと小径の車両とくらべ路面変化の影響が小さく、ふられても復元もしやすい。
履いていたタイヤはメッツラーのツアランスで、110/80R19、150/70R17。フロントが110にしては太く感じる。リーンする挙動は自然で、サイドは接地している面積が広いような感覚。グリップはそこそこだけど、おかげでタイヤが路面をとらえているのがわかりやすい。バイクのキャラクターと合っている。
この俊敏すぎず、軽い動作でリーンしていく動きはロードスポーツモデルというよりフロント21インチのデュアルパーパスモデルに近いもの。でもデュアルパーパスより軽やかで旋回はより小さい。「中庸は徳の至れるものなり」と何事もやりすぎず、ほどほどがいいと言った孔子の言葉がぴったりとハマる。ダートに持ち込んでも、エンジンと共にコントロールしやすい足で、一般的な林道なら少々荒れていようがなんてことなく走破して進むことができるもの。
身長170cmにとって835mmとやや高めのシートがもう少し低いと心強いが、高速、ワインディング、ダートと走って足つきついてネガティブなシーンはなかった。ここは低回転域の操作性の良さが効いている。シングルローターのブレーキの効きは標準的で制動力制御はしやすい。わざと急制動させると一瞬タイヤがキュッと鳴いたかと思うと、それ以上はABSの働きで何もおこらず。
スペック表記にある車両重量は175kg。この排気量とカテゴリーとしては軽い方ではないけれど、運転している限りは気にならない。積まれている単気筒エンジンは、シリンダーが後ろタイヤ側へ傾いており、空いた前スペースから吸気、後ろ側から排気する、いわゆる後方排気と呼ばれる通常とは逆のレイアウト。マスの集中化を狙ったものだろう。そのおかげもあって前後の荷重バランスが最適化されていると思う。いろいろな速度で走らせていて車両の重さを感じにくい。
最新のG310GSは、人気があるBMW製GSの末弟として、そのシリーズに共通する懐の深いところが磨かれた。BMWエンブレムとGSの名に恥じないまとまり。