ガソリンが高くなった発端は新型コロナウイルスであり、さらに高騰を加速させたのはアメリカのバイデン大統領の政策転換も絡んでいると考えられる。
環境問題に熱心なバイデン大統領により脱炭素政策が進められ、原油産出国は増産を渋るようになった。そこにロシアのウクライナ侵攻が加わり、原油価格の高騰に歯止めがかからなくなったのだ。
しかも日本では円安という悪い状況が加わり、ガソリン価格高騰がさらに加速している。こういった状況が起きたのは、他にも経済的な問題が大きく関わっているのではないだろうか。
ここではガソリン価格がなぜ高くなり、この状況がどこまで続くのか、そして対抗する手段があるのかについて考察していく。
ガソリン価格が高騰し続ける理由
2021年初頭には、レギュラーガソリンの1リッターあたりの価格は140円台だったが、あっという間に170円を超える水準までになった。バイクは燃費が良いとはいえ、店頭のサインボードを見ると今後の燃料代が心配になる方もいるのではないだろうか。
ここまでガソリン価格が高騰する理由は、ここ数年で起きた以下の6つの出来事が大きく影響していると考えられる。
- バイデン政権の脱炭素政策
- 新型コロナによる需要低迷
- OPECの増産に踏み切らない姿勢
- ロシアとウクライナの戦闘勃発
- 円安の進行
- 石油関連投資の低迷
①ガソリン高騰は脱炭素政策に舵を切ったバイデン政権から始まった
2021年1月、ジョー・バイデン大統領が誕生した。それまでのトランプ前大統領が行っていた反脱炭素政策から、脱炭素政策に大きく舵を切ったことがガソリン価格高騰の始まりとも考えられる。
トランプ前大統領は、気候変動への国際的な取り組みを決めた「パリ協定」から離脱していた。またオバマ前大統領が決めた、「キーストーンXL」と呼ばれるカナダ油田と米メキシコ湾岸を結ぶパイプラインの建設認可取り消しを覆して建設を再開していた。
しかしバイデン大統領が就任すると、わずか数時間で「キーストーンXL」の建設認可が取り消され、さらにパリ協定にも再加入。
これは、環境保全を進めたいと考えるバイデン大統領であれば当然の行動だったと言えるが、大きな原油高騰を招く原因となったと考えられる。
じりじりと原油価格が上がりはじめ、2021年8月にOPECプラスに石油の増産を求める声明を出すが、価格上昇は抑えられなかった。そしてついに2021年11月、バイデンは禁じ手の石油備蓄放出を決めた。これにより市場では石油価格が下がり始めたが、正式に備蓄放出を決めるとまた原油価格は上昇に転じてしまった。
この理由は、市場が予想していた備蓄放出量より少なかったことが大きな原因とされている。また、OPECプラスがバイデン大統領の声明に応じないのには、脱炭素に舵を切ったことが大きな理由だ。
つまり産油国は、石油の販売が国家存続の生命線であり価格は高いほうが都合よい。しかもバイデン大統領は、石油から手を切る行動に出ているのに、備蓄を放出するという本末転倒の政策で乗り切ろうとしていることが産油国をさらに怒らせてしまい、産出量の増産は失われた。これが今もガソリン価格が下がらない理由の一つだと考えられる。
②新型コロナによる需要低迷がさらに拍車をかける
新型コロナウィルスが世界中で猛威を振るい始めたのが、2019年12月に中国で初めて感染者が出てからわずか数カ月後だった。その後、世界中でパンデミックが発生し、各国は主要都市でロックダウンしたことで交通も麻痺。これにより消費が大きく冷え込むのと同時に、物流も世界中で滞った。
パンデミックが始まると、景気は低迷してガソリンは売れなくなってしまった。
石油はバイクやクルマに使用するガソリンだけでなく、様々な商品生産にも使われる。しかし、パンデミック下で景気も低迷しているため石油消費が世界中で大きく落ち込み、原油は史上最安値を記録する。そこで、産油国は価格を維持するため供給量を大きく絞った。これが高騰の始まりだ。
パンデミックがなければ産出量を絞らずに済んだのだが、原油価格が下落するのを恐れて産出量を絞り価格を維持させたのが、産出国の取った行動だった。
③OPECは今後の見通しが不安になり増産に踏み切らない
2020年は、原油生産量が落ち込みを見せていた。これはパンデミックにより消費が落ち込んだことによる備蓄を減らすための減産だった。
しかし、その後ワクチン接種が進み、制限が解除され始めると石油消費が増えてきたが、原油産出国は大幅な増産に踏み切っていない。
その理由は、パンデミックが再度発生して需要が低迷するのを恐れたからだろう。増産したとたんにパンデミックが再発してしまえば、石油が余って価格を下げてしまう。そうなると、産油国は収入が一気に落ち込んでしまい経済が潤わなくなる。つまり、需要と供給を考えての石油産出国の行動だ。
さらに2021年8月には、石油関連施設があるアメリカ南部沿岸がハリケーンの襲来により大きなダメージを受け、原油価格高騰の要因となった。
せっかく高騰してきた原油価格が下がることは産油国にとっては大きなマイナスだ。産油国が原油価格の調整を始めてしまったことで、ガソリン価格は上昇を続けている。
④ロシアとウクライナの戦闘勃発がさらに急騰を加速させる
パンデミックが世界各国で落ち着きを見せ始めたと思ったら、今度はウクライナとロシアの問題が原油価格の前に大きく立ちはだかった。2021年2月24日の侵攻前までは、当時新たに登場したオミクロン株への懸念から増産に踏み切っていなかったが、ロシアのウクライナ侵攻が始まると一気に原油価格が高騰する。
この理由は、当事者となったロシアが世界の原油産出量2位という大国だったからだ。欧米を始めとする世界各国はロシアに制裁を課し、さらなる原油価格の高騰を招く結果となった。
このような戦争は、資源を持たない日本に大きく影響を及ぼす。遠方のウクライナ戦争だけでなく、近辺でも台湾を巡る不審な情勢問題が起きている。今後の中国の出方次第では、日本近海のシーレーンが閉ざされ、さらなる原油高騰を招く恐れもありえるだろう。
⑤円安進行がガソリン価格高騰を加速
ガソリンは輸入商品なので為替相場が価格に大きく影響する。そのため、最近の円安はガソリン価格高騰を加速させてしまったと言えるだろう。
輸入品目の中で値上げが話題になったApple社のiPhone。ドル高による収益減少を抑えるために値上げを余儀なくされた一例だ。そして、当然ながら輸入バイクも円安の影響で高くなっている。
円安進行はアメリカのインフレが大きな原因だ。新型コロナにより職場から人が離れたことで、市場にモノやサービスが足りなくなったことから始まったと考えられる。
そこでアメリカでは、インフレを抑えるために金利を上げた。これが、円安の大きな要因になっている。
この利上げにより、アメリカのドルで預金するほうが高金利で利回りが良いので、円を持っていた投資家などが円売りしてドルを購入している。つまりアメリカの利上げにより円安が起きているのだ。
この急激な円安進行と原油価格高騰により、ガソリン価格が高騰を続けていると考えられる。
ただし現在は、世界的に景気後退が始まっており、アメリカのインフレも収まってくるとの見方も多く、今後は円安から円高に転じてくる可能性が高い。
まだまだ円安水準は続くと見られるが、今後は徐々に改善されてガソリン価格に反映される可能性もあるだろう。
⑥ガソリン高騰はEV車に追い風となり石油関連投資が低迷
世界が温暖化対策として脱炭素に向かおうとしていることに伴い、自動車産業ではEV車開発が活発化。投資家たちが石油関連よりEV関連に方向を変えたことでガソリン価格高騰に影響している。
アメリカではシェールオイルを生産しているが、バイデン大統領は環境問題に前向きだ。それが足かせとなり現在大幅な増産に踏み切れていない。
今後、益々その風当たりが強くなるのは目に見えている。石油関連施設に投資して新規事業を起こしても潰されかねない。それならEV関連に投資したほうが良いという向きが多くなり、石油関連に投資する投資家は少なくなっている。
このように脱炭素政策は、石油関連事業の投資を遠ざけてしまい、結果としてガソリン高騰を招いてしまったと言えるだろう。
今後のガソリン価格の見通し
ガソリン価格の高騰が続いているが、気になるのはいつまでこの状態が続くのかといったことだろう。そこで以下の3つの視点から、今後のガソリン価格がどうなるのか予想してみた。
- 脱炭素を掲げているかぎり値下がりは期待薄
- 国内のガソリン税制を変えれば値下がりは起きる
- 世界的インフレ加速が原油価格を押し下げる
脱炭素を掲げているかぎり値下がりは期待薄
地球温暖化が叫ばれ、ヨーロッパ主導で脱炭素政策が世界中で巻き起こっている。地球温暖化は温室効果ガスが原因と言われ、その根源が化石燃料であると考えられている。そこで、各国は化石燃料の使用縮小に向けた動きになり、この考えが進むかぎりガソリン価格の値下がりは期待しにくい。
産油国は、原油が売れなければ国家存亡の危機になる。しかし、世界は脱炭素政策で化石燃料の使用を縮小しており、このままでは需要が先細りしてしまう。そこで産出量を抑え、需要とのバランスをギリギリにして高値を維持している。
しかし世の中は、石油のありがたみをロシアのウクライナ侵攻で知ることになった。脱炭素でEV車といっても、航続距離や充電時間の問題で思うように普及しない。しかも、よく考えればEV車を生産するとき二酸化炭素を排出する化石燃料を使用している。
なかでも多くのプラスチック部品は石油製品の王道だ。もし脱炭素を進めるなら、樹脂も合成樹脂ではなく天然樹脂を使用する必要がある。
こういった矛盾が残るなか、脱炭素に大きく舵を切ったことが原油産出国の反感を招いた。その結果、燃料不足ギリギリでの生産になり原油価格が一向に下がらない。つまり、この状態が続くかぎりガソリン価格が大きく下がることは期待できない。
国内のガソリン税制を変えれば値下がりは起きる
ガソリン価格の4割が税金だ。しかもガソリン本体価格と各種税金を足したものに消費税が掛けられる、二重課税の商品とも言われている。この二重課税という状況を変えればガソリン価格が安くなるが、政府の見解は全く違う。
ガソリンにはガソリン税と石油炭素税が掛けられている。これはガソリン納入者が支払う税金だ。購入者は消費税のみを負担する、というのが政府の見解。
だがガソリン税と石油炭素税はコストであり、ガソリン価格に上乗せされる。つまり結局のところ、消費者が全ての税金を負担している。これは長年に渡り議論されても解決しない課題だ。もし政府内で良い解決策が見つかれば、ガソリン価格は安くなるかもしれない。
トリガー条項発動は慎重にしないと市場が急変
ガソリン高騰のニュースで、トリガー条項という言葉を聞いたことはないだろうか。このトリガー条項とは、ガソリン価格が3カ月連続で160円を超えると発動される制度だ。課税されるガソリン税53.8円のうち25.1円の課税をストップし、小売価格が130円を下回るまで発動される制度だ。
トリガー条項は2010年に決定されたが、東日本大震災の財源確保のため、2011年に停止された。これを解除するには法改正が必要になるため、実施までに数カ月以上も時間がかかる。
このトリガー条項発動は、バイク乗りにとってもガソリン価格が一気に25円程度安くなるのでかなり恩恵があるように感じる。しかし、実際に発動が発表されると必ず買い控えが起きる。そして条項解除の発表があると、ガソリンスタンドに買い貯めに殺到する事態が懸念される。
このようにトリガー条項は、一旦発動すると市場に混乱が発生する恐れがあるため、政府としては慎重にならざるを得ない。
そこで政府は、元売り業者に補助金を出して価格を抑える方法を取り、本来レギュラーガソリンが200円を超えるところを、170円程度の水準で保っている。ただし、ガソリン価格を下げる目的ではなく高騰を抑えるための補助金制度なので、価格の現状維持が目標だ。
当初はレギュラーガソリン1リッター当たり170円を目標としていたが、今は168円まで下げている。しかし期限が決まっているので、いつまで延長するのかが問題だ。
世界的インフレ加速が原油価格を押し下げる
現在、世界は疫病と戦争の二重苦によりインフレが発生している。日本でも連日ニュースで取り上げられており、食料品から生活雑貨に至るまで多くの商品が値上げされている。日本では、まだインフレという実感はほとんど湧かないが、諸外国ではインフレが深刻な問題になりつつある。
インフレとは、物の値段が上がり続ける現象のことで、例えば「今まで200円で買えたのに2倍の400円になる」など、どんどん高くなっていく現象のことだ。
インフレになると、給与上昇が追いつかなくなり消費が低迷してくるが、すでに各国ではインフレによる消費後退が起き始めている。消費後退により石油価格も需要がなくなりつつあることから、価格が下がり始めてきた。
しかし国内を見てみると、先にも説明したようにアメリカの利上げによる円安が大きな足かせになっている。これを何とかしなければ、ガソリン価格が大きく下がることはないだろう。
原油価格とインフレ、そして円安は非常に密接な関係にある。かつて2008年の原油価格が高騰したときは円高水準だったので、それほど国内でダメージはなかった。しかし今回は円安が加速しているので、かつてないガソリン価格上昇が続いている。
今後、ガソリン価格を安くするには、円安を味方につけた外国人観光客の誘致が急務だ。大勢の外国人観光客が訪れれば、地方や観光業が潤いを見せて国内景気回復の足掛かりになるだろう。そうなれば、円が買われて円高方向に向かい、ガソリン価格も安くなってくると考えられる。
ガソリンの価格上昇で取るべき行動とは
ガソリンの価格上昇は、今後の世界情勢で大きく変わるだろう。そこで、少しでもガソリン価格上昇に対抗するため、ライダーにもできる方法として以下の4つの方法がある。
- 無駄な走行は控える
- アクセルワークの最適化
- 無駄なアイドリングは控える
- 遠くの安いスタンドより近場のスタンドが良い場合も
①ツーリングルートの最適化を図る
バイクでツーリングに出かけるのは楽しいが、最近のガソリン価格高騰により、大型バイクだと満タンで3,000円を超えることも珍しくない。
そこで、ツーリング前に計画を練ると良いだろう。通る道路の選択次第で走行距離も変わり燃費を左右するため、どこを通るのかも重要だ。一般道路を走行するのは楽しいが、できるだけ信号機が少ない幹線道路を選ぶとストップアンドゴーを避けられ、燃費向上が見込める。
また、普段あてもなくバイクで走行しているなら、その回数を少し減らすといった燃料費削減が必要だろう。
②アクセルワークを丁寧にして適正なギアポジションを
エンジンは、回転数が上がるほどガソリンを消費するため、できるだけ低回転で走行する工夫を行いたいところ。それにはアクセルワークも丁寧に行い、急加速を慎むようにしたい。
また、できるだけ低回転を利用したギアポジションも有効だ。ギアチェンジの度に代わるエンジンの音色が好きな方も多いと思うが、ガソリン消費量に直結することを忘れてはならない。
③無駄なアイドリングは控える
バイクにもアイドリングストップ機能が搭載されている車種はあるが、まだまだメジャーな装備ではない。そこで、信号待ちなどでは燃料消費を少しでも抑えるため、アイドリングストップを実施する。
アイドリングに消費する燃料は排気量にもよって異なり、大型バイクになるほどその消費量は大きい。とはいえ排気量が小さくても、アイドリング時間が長くなるほど余計な燃料を消費する。
なかには、アイドリングストップよりエンジン始動時の燃料消費のほうが問題という意見もある。しかし、エンジン始動時の燃料消費はアイドリング5秒分というデータが省エネルギーセンターで提示されてもいる。つまり、5秒以上停車する信号待ちなどは効果が期待できるということだ。
また、友人との待ち合わせや停車しての打ち合わせなども、アイドリングをストップすべきなのは言うまでもない。
④遠くの安いスタンドより近場のスタンドが良い場合も
バイクの燃料補給に、少しでも安いスタンドを目指して遠出することもあるだろう。しかし安い価格で満タンにできるとはいえ、遠方まで燃料補給に出かけると、その間の燃料も消費する。
例えば、普段より10km離れた場所に燃料補給に行くと往復で20kmになる。これは大型バイクの1リッター当たりの走行距離に概ね相当するだろう。つまり遠方に燃料補給に行くだけで、1リッター分を余計に消費していることになり、価格が1円や2円ほど高くても近場のほうがお得ということも多い。
これは、400cc以下のバイクにも当てはまる。リッターあたり30km走行できても数円ほど安いだけでは元が取れない。しかも走行すればエンジンオイルなどの消耗品も劣化する。
そこで燃料補給を考えるなら、ツーリングの帰り道で安いスタンドの位置を絡めたコースを組み立てるなど、出がけに燃料補給する方法を考えるとお得になる。
また最近では安いスタンドを探すアプリもあるので、上手に活用すればお得に燃料補給ができるだろう。
まとめ
ガソリンが高いのは需要と供給が大きな要因だが、地政学リスクも大きく関係している。特に今のような高騰は、疫病や戦争といった予想できない事態が大きく関わっており、今後もガソリン価格が大きく下がる可能性は低い。
この先、大きくガソリン価格が下がることは期待できないので、自分自身でガソリン消費を調整するしかない。そこで、バイク乗りが楽しくツーリングするには、燃費の良い走りとツーリングコースの選択が肝になるだろう。
文:小泉嘉史