文:ノア・セレン/写真: 関野 温/取材協力:デイトナ

今回取材に協力していただいたのは、デイトナの二輪事業部リプレイスグループ グループリーダーの川崎竜嗣さん(写真左)だ。写真右はこの記事の筆者ノア・セレン。
電装系の整備やカスタムが難しいと感じる理由
電気はよくわからない…だって見えないんだもん!
そう、電気は見ることができない。チェーンがサビてるとか、オイルが漏れてるとか、カウルが割れてるとか、そういったことは目視で判断できるけど、電気は配線の中をスルスルと走り回ってるだけなので、その実態を把握しづらい。よって電気系のトラブルが発生した時は、その原因を見つけ出すのは大変な作業になる。
しかし、今やバイク用の電装品は増えるばかりで、ETC車載器やグリップヒーターなどは標準装着されることも多くなった。さらにUSB電源やドラレコ、電熱ウエアなど、車体の電源を使う便利グッズは数多くある。それに伴い電装系には詳しくないけど、とりあえず自分で装着してみようとチャレンジする人も増えている。
そして、バイクの電装系の仕組みを知らないと思わぬトラブルが発生する。そこで電装品などを数多く取り扱っている「デイトナ」のスペシャリストに電装イジりの基本を伝授していただいた!

車体に流れる電流は『交流(AC)・直流(DC)』の2種類。上のイラストのようにエンジンが回ることで発電機が交流電源を発生し、これがレギュレーターに入って直流に変換される。
【Q&A】電装イジりに関する20の質問・疑問
Q.1 電装イジりに必要なものはなに?
A.電工ペンチとテスターは必需品。あとは必要に応じて揃えよう
どんな電装品をつけるかで必要となる工具は変わってくるし、車種専用設計のカプラーオン製品なら工具不要の場合もある。しかし、ギボシ端子を使って配線加工するなら電工ペンチとテスターぐらいは用意したい。
必要に応じて配線コードやギボシ、そしてスマートで安全な仕上がりのために熱収縮チューブも使うと安心。それに伴ってヒートガンもあるといいだろう。エレクトロタップのような便利グッズもあるため用途や好みで使い分けてみよう。
電工ペンチ

ホームセンターやバイク用品店でも購入可能だが、ある程度しっかりしたものを買わないとワイヤーストリッパーの精度が悪かったりして使いにくい。
テスター

テスターにもさまざまなタイプがあり、ダイヤルがついたデジタル表示タイプが一般的だ。直流・交流の電圧の他、抵抗なども測ることができる。
検電テスター

クリップをマイナスに繋ぎ、先端をプラスと思われる場所に差し込むだけのシンプルな検電テスター。通電してればLEDが点灯する分かりやすい仕組み。
配線コード

デイトナは純正配線と同じ色の配線コードが設定されているので混乱しにくい。太さは0.5~2.0まで4種類。接続する車体側の配線と同じ太さを使うのがセオリー。
ヒートガン

熱収縮チューブを使う時にライターであぶる人もいるが、慣れないと溶けて穴が開いてしまうこともある。今やヒートガンも1000〜2000円くらいで購入できる。
熱収縮チューブ

配線を接続した端子の絶縁には、熱収縮チューブが安全で便利。確実な密着により絶縁と補強が同時に行われる。サイズや色も豊富にあるので用途に応じて使い分けよう。
ギボシ端子

一般的な接続に広く使われるギボシ端子。簡単で確実な接続が可能で、二股タイプなど種類も豊富。電装イジりの基本となる電装品のひとつだ。
エレクトロタップ

電装品に同梱されていることが多い。気軽に配線を割り込ませることができ、配線を被覆ごとペンチで噛みこんで結線させる。振動に弱い一面もある。
これだけあれば必要十分

写真にあるようなセットが揃っていれば、だいたいの作業は行えるはず。各商品のサイズなどは車両に装着されているものを参考に選ぶとよい。右上のテープは一般的な絶縁テープではなく、柔らかく使いやすい「ハーネステープ」なのでオススメです。
Q.2 電工ペンチってナニができるの?
A.電工ペンチひとつで複数の作業が行える!
「電工ペンチを持っていないからニッパーで何とかしてしまおう」とする人もいるだろう。でも電工ペンチがあるとさまざまな作業をスムーズに確実に行うことができる。その中でも配線コードの被覆をむくことができるワイヤーストリッパー機能は便利だ。
カッターやニッパーのように芯線まで切断してしまうこともない。特に結線はしっかりしてないと漏電や発熱につながることもあるので、ギボシ端子や接続端子圧着は必ず電工ペンチを使おう。
以下の❶❷❸➍❺は使用箇所の解説。

❶コードの切断

ニッパー機能もあり、配線の切断に使える。ただ一般的に刃の部分が短く、かつ作用点から離れているため慣れが必要。ニッパーと併用したい機能。
❷ギボシ端子の圧着

ギボシ端子などは、電工ペンチのU字型の部分に配線を噛み込ませて、ハート形になるように圧着するのが正解。電工ペンチならばサイズ違いの圧着部を使って綺麗に仕上げることができる。
➌ボルト類の切断

支点近くの最も力がかかる場所にはボルト切断用の穴が複数設けられ、最大でM5ほどのボルトが切断できる。切断面もかなり綺麗に仕上がる。
➍接続端子の圧着

接続端子は管をつぶすことで二つの配線を接続する。写真のような被覆付きのものだとペンチやニッパーでつぶすと被覆も破れてしまうので、専用の電工ペンチなどを使いたい。
❺ワイヤーストリッパー

電装品の取り付け作業には、配線と配線を結合することがかなりある。それには配線コードの被覆をむいて中の芯線を露出する必要がある。この機能はその作業を簡単に行うことができる。
Q.3 配線コードの皮膜はどうやってムクの?
A.配線を挟み込んで引き抜くだけ
ワイヤーストリッパーには下写真(中央)のように複数の穴が開いているので、配線コードの太さに適した穴に入れる必要がある。穴に配線を入れ、強く引く抜くと被覆だけがむけ、中の芯線だけが露出する。小さすぎる穴に入れると当然芯線ごと切断される。芯線の本数が減れば、それだけ抵抗値が高まり発熱の原因になったりもするので注意したい。

Q.4 ギボシ端子はどんな種類があるの?
A.バイク用は大きく分けて3種類ある
ギボシ端子は形状の異なるタイプがいくつかあり、バイク用として一般的に使われているのは一番左のギボシ端子だろう。しかし、最近のバイクではギボシ端子が使われなくなり、接続はほとんどカプラー式へと変わりつつあるものの、少し前までのバイクはこのタイプが使われていた。
下の写真で金色の平型端子というのもあるが、こちらは単体で使われることは稀でカプラーの中に組み込まれているのが一般的。端子の選び方は車体側の端子に合わせたものを使えばいいだろう。

左側が一般的な「ギボシ端子」。真ん中はストレートな形状が特徴的でカワサキ車などに使われいる。右側は平型端子だ。デイトナでは配線分岐端子や丸型端子、クワ型端子なども用意している。
Q.5 ホンダとヤマハではギボシ端子の大きさが違うってホント?
A.これ本当! ギボシ端子のサイズがガバガバなら注意!
「このギボシ端子、大きくない?」と感じた人、いませんか? 実はギボシ端子には形状は同じでもサイズ違いのタイプがあり、ホンダやスズキは一般的なスリムなタイプなのだが、ヤマハはひと回り大きなタイプを使っていることがある。サイズが異なるからと言って端子を広げたり、つぶしたりしてはいけない。自分の車両にあったギボシをチョイスしよう!

箱や袋に入っている状態では見た目が同じだが、こうして見るとサイズが違うのは一目瞭然。正しいものを使ってトラブル回避しよう。


Q.6 配線コードはギボシ端子のどの位置にセットするの?
A.中央のツメで配線を圧着、端のツメで被覆を圧着する
かしめると言っても適当に突っ込んでギュッと握れば良いというものではない。ギボシには配線をかしめるツメが中央部と端の2カ所ある。ギボシ端子中央のツメは芯線をかしめる用で、ギボシ端子の端にあるひと回り大きいツメは配線コード被覆部のかしめ用だ。すぐ下の写真が理想の位置で、それに合わせて配線を露出させる長さにも気をつけよう。

理想的な配線の挿し込み量。露出した芯線は先端をひねり、バラけないようにしてからカシメる。

これは奥まで突っ込み過ぎた例で、これでは芯線の電流がギボシに伝わらない

こちらは芯線が浅すぎて断線の危険が大。
ギボシ端子をかしめる前に、必ずスリーブを入れよう!


ギボシ端子を電工ペンチで装着するコツをつかむと、ついつい忘れてしまうことがある。それは重要な絶縁の役目を果たすスリーブを入れ忘れることだ。せっかく上手にかしめたのに「あっ、入れ忘れた!」というパターンはよくある。
かしめた上から無理やりハメ込もうとしても不可能なので、結局やり直しになる。「オス側なら接続したときにメス側のスリーブ内に隠れるし…」なんていう貧乏根性は×。水分やホコリを侵入させない大切な部品なので、もし忘れたら必ずやり直して確実に装着しよう。
Q.6 ギボシ端子は2カ所かしめるところがあるけど、どっちを先にかしめるの?
A.ギボシ端子中央部のツメを先にかしめる
どちらのツメからかしめてもいいのだが、重要なのは中央部の芯線側のツメがしっかりとかしめられていること。端にある被覆用のツメはあくまでもサポート役で、被覆側を先にかしめているうちにスルリと抜けてしまって「あっ!」なんてことも実際にある。よって、まずはギボシ端子中央のツメで露出した芯線をしっかりとかしめてから、被覆側をかしめよう。

まずはギボシ端子中央のツメに電工ペンチをセットする。かしめる時に配線がズレ落ちないように注意しよう。
Q.7 ギボシ端子は2回に分けてかしめるってホント?
A.ツメは必ずかしめる場所を変えて2回で行う
電工ペンチでギボシ端子のツメをかしめるとナゼかキレイなハート型にならないで、ツメが斜めに潰れてかしめてしまうことは多々ある。つまり1回でかしめようとするから失敗するのだ。ポイントは、まず大きめの溝でかしめてから、ひとサイズ小さい溝に移し替えてからかしめるとキレイなハート型になる。

まずは大きめの溝でかしめてから、サイズの小さい溝に移し替えてからかしめるのが正解。
右上の写真はキレイなハート型にかしめられた成功例。右下は斜めに潰れた失敗例。

Q.9 ギボシ端子はメス側から電気を流すってホント?
A.ホント! ショート防止のために必ず守ろう!
「オス? メス? どちらから電気を流すなんて気にしたことなかった」という人は非常に多い。これはとても重要なことなので必ず理解しよう。ギボシ端子のオス側はスリーブを付けても端子が露出しているのに対し、メス側のスリーブは端子を完全に覆っている。これはオスとメスのギボシ端子が外れたときに、メス側から電気を流していれば、スリーブがショートを防いでくれるのだ。

Q.10 なんで配線コードは太さが違うの?
A.流れる電流の量で選ぶのが基本だが、0.75mmで十分
配線コードに流れている電気の量によって配線の太さは決まる。セルモーターにつながっている線がとても太いのが好例だ。デイトナでは0.5mm、0.75mm、1.25mm、2.0mmと4種設定しているが、一番小さい0.5mmでも11アンペアを許容するため、グリップヒーターも余裕でカバーする。
なので、ほとんどの後付電装品は全て0.5mmで問題ないのだが、線が細すぎるので0.75mmの方がギボシ端子に装着しやすいメリットがある。

電源を取る配線と同じ太さのものを選べば間違いない。電源側より太い配線はNGだ。

デイトナは純正配線色と同色のハーネスを設定。ホンダのアースは緑、ウインカーは水色&オレンジが一般的だ。