オリジナルハンドメイドスイングアームの製作や3Dシリーズなどのビレットパーツで知られるウイリーが、Z900RSにZX-10Rエンジンを積んだ車両を作った。その狙いを改めて聞いた。
※本企画はHeritage&Legends 2021年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

カスタムの可能性を広げパーツの特性も確認する

’21年型純正玉虫カラー(キャンディトーングリーン)でビキニカウルも揃えたZ900RS。保安部品が外された姿からはサーキット走行用と分かるが、ストリート車の延長上にもありそうだ。サイドカバーには“Z1000CAFE”の文字。エンジンサイドにはフィンがなく、サイドのフレームワークが少し違うようだ。が製作者のウイリー・富永さんに大筋を聞いてみると……。

「その通りに“Z1000CAFE”って呼んでるんだけど、CAFEなのはレース用に防風でビキニカウルを付けたから。1000なのは、ZX-10Rのエンジンを積んだから。出来たのは2000年の夏で、たまたまこのエンジンがハーネスまわりと一緒に手に入ったので、じゃあサーキット用に積んでみようって、これを作ったんです」

富永さんはこれ以前に、自身のサーキット走行用にクロモリパイプ+削り出しピボットプレートの“WR-10R”というマシンを製作。これにも10Rエンジンが積まれていたが、それとの関連は?

「いやあ(笑)、全然ない。エンジンが10Rで、WRが’07年型、Z1000CAFEが’08年型って年式が近いくらい。フレームも違うし。Z1000CAFEは、そもそも“サーキットをよく走るネイキッド”を作ってみようという気持ちが私の中にあったんです。空冷ZとかZRXシリーズとか、かつてのネイキッドは、ストリートやカスタムも楽しんだ一方で、新しいバイクが出てきたら改造してサーキットも速く走ろうって皆が手を入れてきたでしょう。

画像: ▲ウイリーの代表、富永保光さん(左)は70歳になる今も本文のように現役ライダー。スイングアーム製作も日々行う。右の保隆さんは3Dシリーズを主にビレットパーツの開発・製作に腕を奮う。

▲ウイリーの代表、富永保光さん(左)は70歳になる今も本文のように現役ライダー。スイングアーム製作も日々行う。右の保隆さんは3Dシリーズを主にビレットパーツの開発・製作に腕を奮う。

ONE&TWOフェスティバル(オートポリスでの草レース/走行会)でもZ900RSはまだ走っていないから、そこも刺激してみようというところ。RS用にはエンジンパーツがなかったこともあって、たまたまあった10Rのエンジンを使ったわけです。エンジンがなかったらやってなかったかも知れません。あと、ほかの部分はストリート用デモ車のZ900RSと同じだから、パーツのテスト、ウチの技術を試すことにもなるよねって感じですよ」

もう少し成り立ちを聞くと、鋼管トレリスのフレームはZ900RSほぼそのままで、外装まわりもそのまま。フルビレットでオーリンズ倒立フォークをクランプするステムや目の字断面5角材スイングアームはウイリーの市販品。マルケジーニホイールやブレンボブレーキも以前に製作したウイリーのストリート版RSに準じる。

「エンジンは10RもRSも同じ直4だけど、マウントも全然違っているわけで、そのまま載るわけでもない。だから10Rのエンジンが載せられるマウントを作って、それをRSのフレームにボルトで留められるようにしています。搭載位置はRSのフレームを上から10Rのエンジンに被せて検討しました。スイングアームの垂れ角がきちんと取れるようにフロントスプロケットの位置を決めて。それでもエンジンとリヤサス取付部下側とのクリアランスがぎりぎり。

FIも、エンジンをセンターに置くとスロットルボディ右のセンサ(TPS)がフレームに当たる。だから左にずらすと、今度はリンクが当たりそう……というのを、左10mmずらしでクリアしました。’11年型のエンジンもあったんだけど、~’10年とは形も、ツインインジェクター(高速が伸びる)もFIも違ってタンクも載らない。そうこうしたことを繰り返して、夏に仕上がったんですよ」

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現行パーツを再認識し新作パーツにつなげる

Z1000CAFEのシェイクダウンは車両の完成から少しおいた2000年10月、ONE&TWOフェスティバルの走行会でだった。当時、たまたま富永さんが走り終えたところで話す機会があったが、気持ち良い走りを終え、マシンに好印象を得たライダーのそれがよく伝わってきていた。

「そうだったね。速いし、よく走って曲がってくれる。エンジンマウントはRSとは全然違うから作っただけで、フレームは補強などはしていないんです。それでオートポリスのメインストレートで270km/h出るし、そこでもヨーイングなんかもまったくない。RSはノーマルもよく走るけど、それをぐっと速くした感じ。当日はエキスパートクラスでノジマNJ-7(GSF1200改)を走らせる原田武人君をはじめ、速い人にも乗ってもらったけど、“これはツクバ(TOT)に持って行ってみたい”と言うくらいだったから、良かったんでしょう。

乗ってみてヨレたりネガが出たりしたら補強するかと思ってたけど、要らなかった。スイングアームもビッグ目の字でなくても十分と分かったし、ステムもしっかり仕事してくれる。リヤサスのリンクだけはレース用のリンク比のを作ってもいいかなと思ってます」

画像: 現行パーツを再認識し新作パーツにつなげる
画像: ▲'20年10月のオートポリス、ONE&TWOフェスティバル・クラブミーティング・2020秋でシェイクダウンされたZ1000CAFE(写真はONE&TWOクラブのHP www.onetwo-club.net より)。上は富永さん自身で、下はSPA直入等でインストラクターも務める田中公司さん。富永さんは走行直後からこの車両を気に入り、本文の原田さん、この田中さんともポテンシャルの高さをレポートした。

▲'20年10月のオートポリス、ONE&TWOフェスティバル・クラブミーティング・2020秋でシェイクダウンされたZ1000CAFE(写真はONE&TWOクラブのHP www.onetwo-club.net より)。上は富永さん自身で、下はSPA直入等でインストラクターも務める田中公司さん。富永さんは走行直後からこの車両を気に入り、本文の原田さん、この田中さんともポテンシャルの高さをレポートした。

Z1000CAFEからのZ900RS用新作パーツは、既にスピンオフしている。ストリート用RSとZ1000CAFEを見比べると、ステップが異なる。

「レース向きに5mmくらいバーの位置が上がってます。“TYPE-R”として、従来品と併売しています。

Z900RSは街中でもよく見かけるし、パーツもよく動く。ありがたい話で、これからもパーツに力が入れられる。その上で、カワサキにはこのZ1000CAFEみたいなバイクも出してくれるといいなって提案。こんな形で、サーキットもそのまま行けるような」

過度な車両でなくても十分。でも、走りをしっかりと楽しめるならその選択もあっていい。このZ1000CAFEには、富永さんのそんな思いも込められる。Z900RSはその素材にもなったのだ。

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WHEELIE“Z1000 CAFE”/現代エンジン&鉄フレームを走りに特化したエンジン換装車

画像1: WHEELIE“Z1000 CAFE”/現代エンジン&鉄フレームを走りに特化したエンジン換装車
画像2: WHEELIE“Z1000 CAFE”/現代エンジン&鉄フレームを走りに特化したエンジン換装車

ビキニカウルはZ900RS CAFE用でこれを車体色同様に2021年型Z900RS純正カラーのキャンディトーングリーンでペイント。

画像3: WHEELIE“Z1000 CAFE”/現代エンジン&鉄フレームを走りに特化したエンジン換装車

シートもZ900RS CAFEのシングルシートスタイルを装着。

画像4: WHEELIE“Z1000 CAFE”/現代エンジン&鉄フレームを走りに特化したエンジン換装車

燃料タンクやサイドカバー、テールカウルは純正でテールにゼッケンプレートを追加、保安部品は撤去。

画像5: WHEELIE“Z1000 CAFE”/現代エンジン&鉄フレームを走りに特化したエンジン換装車

フレーム前端部にはZX-10Rエンジンに合わせたエアダクトを備える。

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各部に使われたパーツはストリート版RSとほぼ同じ

画像: 各部に使われたパーツはストリート版RSとほぼ同じ

写真を比較してみれば、ウイリーのストリート用Z900RSとZ1000CAFEのエンジン以外の仕様がほぼ同じだと分かる。

新作TYPE-Rステップキットもリリース開始

画像1: 新作TYPE-Rステップキットもリリース開始
画像2: 新作TYPE-Rステップキットもリリース開始

Z1000CAFEには従来の「同軸ペダル式3Dステップ」(バフ、シルバーアルマイトともに税込み11万円)からバー位置を5mmほど上げてスポーツ走行に向くようにした新作の「同軸ペダル式3Dステップ TYPE-R」(価格同)を装着。ヒールプレートのデザインも肉抜き仕様に変えている。

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エンジンはZX-10Rをコンバート

画像1: エンジンはZX-10Rをコンバート
画像2: エンジンはZX-10Rをコンバート
画像3: エンジンはZX-10Rをコンバート
画像4: エンジンはZX-10Rをコンバート

Z1000CAFEのエンジン/補機類はカワサキスーパースポーツ、ZX-10Rの’08年型。フロントスプロケットの位置や、リヤサスまわり/スロットルボディとフレーム/燃料タンクとのクリアランスを検討して搭載位置を決め、クロモリ鋼でエンジンマウントを製作。Z900RS側フレームにボルトオンできるように処理した。

画像5: エンジンはZX-10Rをコンバート

富永さんは以前に、自身のサーキット走行用にクロモリパイプ+削り出しピボットプレートに’07年型10Rエンジンを積んだ“WR-10R”というマシンを製作している。

画像6: エンジンはZX-10Rをコンバート

左はZ1000CAFE、右はウイリーZ900RS。メーターはZ1000CAFEではハーネスともにZX-10R。ステムはともにウイリー製ビレットのZ900RS オーリンズ倒立フォーク用トリプルツリー。φ25mmアクスルシャフトキットなども同梱される。ハンドルバー、クラッチレバーはともにZETAでマスターはブレンボ。

画像7: エンジンはZX-10Rをコンバート
画像8: エンジンはZX-10Rをコンバート

上2点はウイリーZ900RS、下2点はZ1000CAFE。900RSではキャリパーはGP4 RSでZ1000CAFEではM4、ホイールは900RSではアルミ鍛造のM10RS、Z1000CAFEではマグネシウム合金鍛造のM10Sなど細かい違いはあるが、7N01アルミ5角目の字断面材製スイングアーム+カーボンフェンダー/ビレットキャリパーサポート、ブレンボモノブロックキャリパー+サンスターディスクにステンレスメッシュホース/マルケジーニ・鍛造3.50-17/6.00-17サイズホイール、そしてオーリンズ倒立フォークという組み合わせは同じ。

画像9: エンジンはZX-10Rをコンバート

ウイリーZ900RSのエンジンは当然ながらZ900RSで、AP2000材削り出しの3D ACGカバー(右側には3Dパルサーカバー)/3Dエンジンハンガー(リヤ用)/3Dスプロケットカバーを装着。フレームのピボット部には近作のZ900RS/CAFE用3Dフレームピボットカバーも装着する。

画像10: エンジンはZX-10Rをコンバート

両車ともリヤサスはオーリンズになり、リンクプレートはウイリー製3D リンクプレートに変更。写真はZ1000CAFEで、ZX-10Rエンジンとショック/リンクのクリアランスにも配慮した上でマウントされている。

画像11: エンジンはZX-10Rをコンバート

マフラーはZ900RSではウイリー製車両では性能面でもまず選択される、スパイラルコレクター4-1のノジマ・フルチタン。Z1000CAFEではZX-10R対応のノジマ製品がないため、アクラポヴィッチエキパイ+ノジマ・チタンサイレンサー。

取材協力:ウイリー(Wheelie Co.,ltd)

レポート:ヘリテイジ&レジェンズ編集部

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