残念ながら、この2021年のファイナルモデルの登場により、誕生から40年以上の歴史に終止符が打たれることとなった。販売終了を惜しむファンの多さが伺える様に、店頭では発売即プレミアムモデルとなり、価格が異常高騰していたのは記憶に新しいと思う。そんなSR400を通勤の相棒として1カ月付き合ってもらった。
文:山口銀次郎/写真:西野鉄兵
ヤマハ「SR400ファイナルエディション」通勤インプレ
32年のバイク人生で初のSR生活、最終型との日々は驚きと発見の連続
私、自動二輪免許を取得して32年経ち、とかく様々なモデルに試乗することの多い二輪雑誌編集者となって30年(中抜け期間あり)ほど経つが、じっくりノーマルのSR400に乗るのは初めてだった。
ゴリゴリにカスタムされた車両の試乗や、少し移動するくらいといった感じで、SR400の長い歴史でその変化を見ていたにも関わらず、じっくり乗ってこなかった。現代っ子ぶるわけではないが、SR400に対して常に旧式という印象が大きかったのだ。もちろん、ファンも多く魅力的なのも承知の上だが、やはりキックスターターと空冷400cc単気筒の馬力に食指が動かなかった。
なぜかキャンプに例えるなら、現行モデルはいたせりつくせりのグランピングで、SR400は野宿スタイルの必要最低限のハードキャンプといった具合。快適に過ごしたいと望むと、ハードキャンプはなかなかハードルが高く感じてしまうもの。ただ、ハードキャンプもシンプルで潔く、生きる術をフルに投入しなくてはならないといったロマンがある。生半では到底生き延びられないそのハードさこそ、SR400の最大の魅力なのかもしれない。
小排気量のキックスターターならいざ知らず、400cc単気筒ともなると気軽ではない。編集部のSRオーナーだったというスタッフですら、エンジン始動に手こずっている有様。「そこはスマートにエンジン掛けてよ~」と心の中で思うものの、元オーナーという肩書きもSR400のキックを前にすると無力なんだな~と実感する結果に。
ちなみに私は、脚力も体力も普通の人よりあったので、苦せずエンジンスタートができたので、一安心。ハードキャンプもイケるクチなのかもしれないと、自分再発見をした気分であった。
キックスタートのコツもあるらしく、左ハンドルに備わっているデコンプレバーを握り、スコスコキックしシリンダー内の圧縮空気を解放してやり、ピストンの上死点(ピストンが一番上に来ている位置)に合わせ、デコンプレバーを離して本気のキックをかますという。シリンダー右側上面に上死点を確認する窓があり、白いアルミ地のマークが上死点であることを知らせてくれる。これが、エンジン始動の作法だそうな。
……お~なんてややこしい! なんて面倒なんだ! でも、この儀式が醍醐味なんですよねセンパイ? いや~往来の真ん中でエンストしたくない案件ですね~。力任せが効くうちは、力任せでエンジン始動させていただきますよ私は、強引グマイウェイですよ。
ようやく発進。最終型のセッティングなのか、個体差なのか、以前乗ったSR400は二輪車平成28年排出ガス規制対策の2018年モデルだったが、そのモデルと比べて明らかにエンジン低中回転域のトルクが太くなっている様子。
元々ぶん回して乗るバイクではないので、エンジン低中回転域に旨味を感じる演出がされてきたはずだが、この最終モデルは明らかにモリモリと単気筒ならではの脈動も感じつつ、純粋に楽しい味付けがされている。
しっかりと400ccのパンチ力もあり、頑張れば通勤快速王の125スクーターよりも鋭い加速力もみせてくれたのには驚いた。ブルンブルンと現行モデルではありえないエンジンの振動も相まり、ズンズンと進行すること自体に気分が高揚してくるのだ。それは、とんでもない速度が出ているワケでもないが、法定速度内で十分なドラマチックで味わい深い押し出し力が堪能出来るのだ。
非力さの中のシャカリキ感とは真逆の、余裕ある大きなトルク遊戯といった具合。無論、ビンビンに回って元気ハツラツ! というワケではない。
車体構成も旧然としたもので、低い重心に細い18インチのリアタイヤに、乗車時から沈み込み量の多い前後ショックで、走行フィーリングは70年代そのもの。乗り方次第では簡単に裏切ってしまうこともあるので、しっかり節度あるライディングを心掛けたい。
バンク角はかなり浅いが、通勤路となる街道を往くには全く問題はない。ハンドリングは粘りのある大らかなものだが、ソフトなショック設定や低重心の車体にはバランスが良く、車体を翻す人車一体的操作感が昭和を感じさせてくれる。
現代ではあまり見慣れない大型のリアドラムブレーキの効きは抜群だが、当然のことながらコントロール性はイマイチ。コントローラブルなフロントブレーキが良い仕事をしてくれるので、バランス良く併用することでハッピーなブレーキング生活を送ることができるだろう。
フロントもドラムブレーキ時代のモデルに試乗したことがあるが、それと比べると雲泥の差といって良いほどの制動力とコントロール性となるので、先進の技術の投下の恩恵と言えるポイントかもしれない。
それなりの重量感とホイールベースで、堂々とした単車の風格があるものの、意外にかなり車幅がスリムで、スクーターと変わらず、いやむしろスクーターが進めないような狭いところもイケてしまうのだ。単気筒モデルの面目躍如とばかりに、通勤路ではスイスイ快適に突き進むことが出来た。
通勤路に不向きな和み系と思いきや、低中回転域のモリモリトルクとスリムボディは意外にも通勤路にマッチするポテンシャルがあった。
ちなみに高速道路の移動では、現代の車の流れについていこうとすると、エンジンが唸りを上げるだけで気持ちの良いものではない。高速道路の最高速度を超えるパフォーマンスはあるものの、気持ち良くはない。本来であれば、ゆったりのんびりツーリングするというのが合っているはずが、高速道路の流れを鑑みると足が向かないのが本音だ。
つまり、通勤路こそSR400に向いているのでは! と、通勤のプロは思うのであった。
最後に、ほぼほぼ気持ちの良いエンジン回転域(2000~5000回転)を常用しつつ、約1カ月間(スタッフ西野がツーリングに出かけていた期間を除く)都内通勤路を565kmほど走行し、燃費は28.68km/Lという結果に。感触としては、とても良い燃費だったように思う。