文:太田安治、オートバイ編集部/写真:赤松 孝
ヤマハ「YZF-R25 ABS」インプレ(太田安治)
スポーツ性と実用性の素晴らしいバランス
動力性能、免許と車検の制度、価格といった要素から日本のライダーに支持されている250ccロードスポーツ。速さを追求したモデルから乗りやすさ重視のモデルまで揃っているが、スポーツ性と実用性のバランスが際立っているのがYZF-R25だ。
このクラスではオーソドックスとも言える並列2気筒エンジンのパワーは35馬力。後発のライバル車に比べれば数値的に少し下だし、特定の回転域からパワーが盛り上がるエキサイティングさもライバルと比べてやや薄い。しかし公道での力強さを決定づけるのはレッドゾーン手前の高回転域で絞り出すパワーではなく、低中回転域でのトルクと素直なスロットルレスポンス。R25のエンジン開発担当チームは、あえてピークパワーを追わず、「名を捨てて実を取る」選択をしたのだろう。
それを真っ先に感じるのがゼロ発進のしやすさと登り坂での粘り強さ。加減速を繰り返す市街地、上り下りやブラインドコーナーが多い峠道、滑りやすい濡れた路面など、ライダーがギア選択やスロットル操作に迷う難しい状況になればなるほど、R25の扱いやすいエンジン特性がメリットとなる。
それだけに、2019年デビューの現行型での倒立フォーク採用は意外だった。限界性能が上がれば、それを活かすためにライダーにも相応のスキルが必要になるからだ。しかし乗ってみると、ハンドリングに神経質さは皆無。開発者の話では、トップブリッジを肉抜き加工するなどして、倒立フォークの剛性とのバランスを取ったという。実際、寝かし込みと切り返しの手応えは少し重くなったが、ハードブレーキングと旋回中のフロントタイヤ接地感は確実に増している。
結果的にサーキット適性は上がったが、開発陣はエンジン同様に限界性能よりも公道での爽快さ、快適さを追求したのだろう。前後サスはライバル車よりも柔らかめのセッティングで、ギャップ通過時に車体が弾かれにくく、乗り心地もいい。こうしたタイヤのグリップ限界を探りやすく、ライダー主導で安心してコントロールできるハンドリング特性はヤマハの理念を強く感じる部分だ。
街乗りとツーリング快適にこなせるバイクがいいが、ただ乗りやすいだけで退屈なのは…という人は、レンタルでもいいから一度試乗して欲しい。一日乗れば、冒頭に書いた「独自のスポーツ性と実用性のバランス」を確実に実感できるだろう。