文:中村浩史/写真:折原弘之
ドゥカティ「パニガーレV4 S」公道インプレ
名実ともに世界最強のオートバイ
ドゥカティ・パニガーレV4Sは世界最高峰のオートバイだ。ドゥカティの最高峰スーパースポーツ・パニガーレファミリーには、V4S型2気筒エンジンを積むV2とV型4気筒を積むV4がある。V4シリーズは、スタンダードのV4、前後にオーリンズ製電子制御を組んだV4S、カーボンホイールと専用カラーのV4SP2、カーボンフレームを採用したスーパーレッジェーラ、そして998ccの排気量を持つレースホモロゲーションモデルV4Rだ。
そのドゥカティ、ご存知のように2022年のMotoGPで、フランチェスコ・バニャイアがワールドチャンピオンとなり、ワールドスーパーバイクでも、アルバロ・バウティスタがワールドチャンピオンを獲得。このMotoGPとワールドスーパーバイクのWタイトルは、2009年のヤマハ以来。つまり、ゼロから作り上げたプロトタイプのレースでチャンピオン、市販車ベースのレースでチャンピオンと、ドゥカティは「世界最強のオートバイメーカー」の称号を勝ち獲ったのである。
よって、スーパースポーツモデルであるパニガーレは、世界最強のオートバイと言える。V4RとV4SP2、それにスーパーレッジェーラが少量生産モデルだということを考えると、V4Sは量産車世界最強モデルということになる。これに誰も異論はないだろう。
オーナーにとっては大きなお世話なのだろうが「これ、いつ、どこで乗るの?」という疑問が付きまとう。
もちろん、YZF-R1だってCBR1000RR-Rだって、ZX-10RだってGSX-R1000だって同じ疑問はあるけれど、程度ってもんがある!(笑)。とは言え、これらのスーパースポーツは、街中の渋滞路だって走れるし、ツーリングにも行けないことはない。
エンジン始動だけでわかる、とてつもない手強さ
パニガーレは、1100ccで215PS、乾燥重量175kg。今や電子制御のチカラで、超大馬力さえ上手に手なづけられる時代とはいえ、パニガーレはもう、そのキャパシティに収まり切れていないように感じる。
身長178cmの私でも、足はつんつん、ハンドルは低く、少しでもグラッとした瞬間に、車両価格が頭に浮かぶ。シート高850mmはもう、アドベンチャーモデルのテネレ700やアフリカツインとほぼ同じだ。シート幅もあるからガニ股になっちゃうし。
始動すると、サウンドはズ太い。サイレンサーが排気音を充分に消しても、V4エンジンが発するエネルギーが音になって吹き出して、ゴロゴロゴロと決して静かではない。朝方、自宅から離れた場所まで移動してからセルボタンを押したくなる音量だ。
発進してみると、ローギアがハイギアードなため、半クラッチに気を使う。スロットルレスポンスが鋭く、気を抜いていては走り出せない。万が一にもエンスト立ちごけなんて避けなくてはならないもの。
いったんスタートしてしまえば、高いシートもハイギアードな1速ギアも気にならなくなるけれど、スロットルひと開けでドンとトルクが来るパワー、ブレーキ一発で前転しちゃうんじゃないかと思うような前傾ポジションに、街中ではギクシャク、すぐには上手く乗れない。
V4エンジンがスムーズに回るのは、3000回転くらいから。その後はズ太いトルクで難なく乗れるけれど、この領域まで到達するのに神経を使うのだ。ここが、イージーに乗れる国産モデルとの大きな違いだ。Vツインよりも低速トルクがあるから、V4の方が、街乗りの低回転域が快適だ。
この時のV4は、まずエンジンの発熱がハンパない。両モモ裏がガマンできるギリくらいまで熱くなるので真夏は大変だな、とわかる。渋滞路などもってのほか。エンジン水温よりも先にモモ裏が悲鳴を上げるだろう。
安心して乗れるのは、やはり高速道路。6速80km/hは3500回転、100km/hは4300回転くらいで、定速走行も思った以上に快適。そして、一瞬の合流などでの加速で、やはり世界最強のスポーツバイクが顔をのぞかせるから、これで強烈な前傾姿勢を気にしなければ、軽くて速い、快適なツーリングができるかもしれない。