文:太田安治、オートバイ編集部/写真:赤松 孝
ホンダ「ADV160」インプレ(太田安治)
排気量、装備ともにプラスアルファが嬉しい
スクーターは手軽に近距離移動する道具。世界的に見れば、小柄な車体に排気量110〜150cc程度のエンジンを組み合わせた実用性重視モデルが主流だ。だが近年はアジア市場を中心に需要が多様化し、走破性やファッション性といった付加価値を持つ車種の人気が高まっている。アドベンチャーの要素を採り入れたADV150もそうした「プラスα」の魅力で人気だが、2023年1月にフルモデルチェンジ、ADV160へと進化した。
注目はボア×ストロークともに変更され、4バルブのシリンダーヘッドを備えた「eSP+」エンジンが発揮する加速力。約3200回転から遠心クラッチが繋がって穏やかに動き出し、フル加速では6000回転以上を保ったまま一定の加速感で速度を乗せる上、全回転域で力強い出力特性とストリートユースに適した変速設定の組み合わせで、スムーズな加速/減速フィールを生んでいる。
排気量126cc超の軽二輪区分なので、必要があれば高速道路を走行できることもADV160の魅力。最高速は115km/hくらいまで伸びるが、追い越し加速の余裕を考えると現実的なクルージング速度は90km/h以下。この速度域では不快な振動が一切出ず、長時間走行も苦にならない。
もう一つ大きく進化したのが乗り心地だ。新設計されたフレームに合わせてサスペンションセッティングも変更されたようで、前モデルで感じた、車体全体がパツパツに張っているような硬い感触が消えた。路面ギャップを越えたときの突き上げが抑えられ、減速帯のように凹凸が連続する場所での前後タイヤのバタ付きも減った。長いサスペンションストロークと減衰力を効かせたダンパー設定はオフロード走行を視野に入れた装備だが、市街地でも威力を発揮してくれる。
装備面の注目はトラクションコントロールの新採用。オフロードや濡れた路面での不意なスライドを抑止してくれるから、特に扱いに不慣れなビギナーには心強いだろう。可動式スクリーンは大型化され、高い位置にセットすると胸元から下の風圧を軽減してくれる。ただし横幅が狭いので腕や肩には風を受ける。冬場の防寒性や雨に対する効果はあまり期待しないほうがいい。
スクーターの利便性、実用性に加え、高速道路を走れてオフロードにも踏み入れられるオールラウンダー。通勤通学からキャンプツーリングまでこれ一台でOKだ。