※本企画はHeritage&Legends 2021年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
“ユーザーが困らない”を車両作りから考える
いわゆるスペンサーカラーのシルバー×ブルーラインですっきり仕立てられた17インチ仕様のCB750F。安田商会による車両だ。
「入庫してからフロントフォークをオーリンズRWUにして、塗装し直して……というところでお客さんが付いてくれた車両です。全体的には今どきのスタイルになってますよね。17インチでチタンマフラー、ホイールやブレーキも今どきといった感じ。エンジンは900Fをオーバーホールした上で載せ替えていて、こうした換装車で困らないようにしっかり公認も取っています」
安田商会・安田さんはこう車両の内容を教えてくれる。安田さん自身ももう25年以上CB750FCをいじり続けながら乗り、サーキットもストリートも走ってきた。しかも、CB-Fだけでなく、安田さんの“何とかする力”を頼って、新旧メーカー問わずで多くのお客さんが作業を頼んできた。その中でのCB-Fの動きは?
「車種としては750Fと1100F/Rに人気があって、900Fはそこまでないという感じです。750Fは国内でも売ってたナナハン、1100は最大排気量のステイタスで人気というところでしょう。ただ、この車両のように750に900のエンジンを載せた車両は人気だったりします。全般的に車両価格は上がっているようです。今年は特にですね」
車両価格の上昇はCB-Fの得意な各ショップでも同様に言われている。それもあってか、ユーザーの間では手持ちの車両をどう維持するか、手を入れるかというところが注目されるようだ。その点についても、安田さんは定番となる作業メニューを考えている。
「エンジンは対策法が整ってきましたから、それを活用する。バルブシートを正しくカットしてやるのは、当然ですけど効きます。燃焼圧を逃さずしっかりとピストンに伝わるように。CB-Fは16個バルブがあって大変ですけど、エンジンを開けた時にやるべきメニューです。こうしたところからも変わります。
ほかには以前にもお話したような、カムチェーンテンショナー。エンジン(シリンダー)側のカムチェーンガイド軸受けの方を見ておきたいですね。ここが経年などで広がってしまっているとガイド自体が左右に揺れて支持軸のカバーが破損したり、ガイドそのものが折れたりします。するとガイドするもの=カムチェーンが切れるという結果につながります。ここは肉盛り再成形で対策します。
1100Fのシリンダーが外れないというのも見ます。力任せに叩いたりして壊すという例も聞きます。ここも外し方があります。説明するのは難しいですけど、外した後に次回の作業時に外しやすくするような加工を施すということもできますから、無理しないでできるお店に持ち込むのがいい。
CB-F向けのキャブレターは、FCRが相性がいいですね。しっかりできたエンジンならより良さも引き出せる。すでにFCRが付いていても、キャブ自体が10年超というなら、改めて新品に交換することも考えたいですね」
細かいことからさらさらっと有用な点を引き出す安田さん。こうした基本がしっかりしているから、車両も幅広く対応出来るのだ。
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ユーザーが困らないを車両作りから考える
安田さんも、他のCB-Fショップ同様、CB-Fを心配なく楽しむための方策を模索している。その範囲は先のエンジンだけでなく、実に広くに及ぶ。その一例が、燃料タンクだ。
「純正は鉄製ですから劣化も多く見られます。内部のサビや合わせ面からの燃料漏れ。それを何とかしようと内部コーティングしたものがやっかい。きれいにされているものはいいとして、処理がうまくなくて分厚かったり不均一な膜になっていたりしたものが経年で剥がれて、燃料系を詰まらせたりします。
ですから今は、これをきれいに剥がす方法を試しています。タンクの内部がきれいになれば、空いてしまった隙間はエアチェック後にハンダで漏れ防止して、外観もきれいにできる。CB-Fの純正タンクは貴重ですから、形だけでもあれば使えるようにしたい」
安田さんはこうした純正品の維持と同様に、カスタムで使いやすいパーツも思案中だ。
「TTRモータースの林さん、Craftの大嶺さんと合同で作ったトップブリッジ(φ39㎜用)に、もうすぐφ35㎜用が加わります(※現在は販売中)。CB-Fにバーハンドルが使いやすくなる。その上で、ステムやステップも作ろうと考えています。
ステムはオフセットも変えることでサーキット走行にも向いた感じになれば。ステップは、CB-F現役当時のような感じでいきたい。これらが出来れば、カスタムの幅も広がりますし、数字をひとつひとつ合わせなくても良くなりますから、車両製作が効率化できる。その時間で別の対策等が考えられていいかもしれません」
楽しそうにプランを教えてくれる安田さん。他と少し異なるアプローチ。でも、CB-Fを長く、楽しく乗りたい、乗らせたいという気持ちは同じ。これらの続報も楽しみに待っておこう。
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CB-F長寿化に向けて実になりつつある多彩なトライ
このCB750FCは安田さん自身がもう25年以上乗り続けている車両。車体は17インチ化される。エンジンもさまざまな仕様を試し、オリジナルのチタンエキゾースト(販売中)も開発。シートやハンドル位置などもこの車両でCB-Fに適したものを試し、パーツ自体の経年も確認してきた。
純正燃料タンクのサビ・漏れ・コーティング経年から回復を
純正燃料タンクの復活を試している個体。内部コーティングを剥がす薬品を投入して放置中で、現在経過は良好という。きれいに剥がれれば他は補修可能で、廃番となった純正タンクの寿命が延ばせる。
給油口から中を見るとサビ止めコーティングがウロコのようになっている。
右側の合わせ面は隙間がありこのままではガソリンが漏れる。
タンク表面にもところどころにサビを微妙に補修した跡がある。
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人気のトップブリッジに加えてステムやステップ等も開発中
トップブリッジ
快走仕様を提供しやすくするようにと各部パーツも製作を検討中。トップブリッジはT.T.RモータースとCraft、安田商会の3社合同プロジェクトで製作した「CB-F/R用バーハンドルキット39パイ」(写真)に加えて、φ35㎜用も現在販売中。
ステムキット
安田商会では前後17インチホイールのカスタムCB-F用に、サーキット走行も狙うステアリングステムキット(写真はイメージ)も検討中だ。
シート
シートはオーナーの好みや体格に合わせた形状変更を受け付けている。
ステップ
ステップもCB-F現役当時の雰囲気のものを検討中(写真は安田さんのCB-Fに素着されるO&T製で、このイメージが近い)。
マフラー
バンク角に拘ったもオリジナルチタン手曲げ4-1マフラーを販売中。マフラーを装着したままオイル&フィルター交換が可能だ。
スタータークラッチ
CB-Fの弱点のひとつ、スタータークラッチも改良リビルド加工を受け付けている。ノーマルでは内側に3個しかないロック機構を増やし、ワンウェイ機構の容量をアップ。固定ボルトも3→6個として位置を外側として安定性を高めている。写真は750F用だが900/1100もオーダーできる。
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ベースコンディション見直しでエンジンも長寿化
CB-Fシリーズでシリンダー前側に入るカムチェーンガイド。写真上に見えるガイド左右の軸が、写真下のシリンダーヘッド側に掘られた軸受けに入り、ガイドはカムチェーンの動きに応じて軸を中心に揺動する。
使用にともなってガイド軸のブレで軸受けが元々の半円から徐々に楕円、四角に広がり、軸を覆う樹脂カバーが破損して軸が露出する。そうなるとガイドのブレがひどくなってガイド折損、状況によってはカムチェーンも切れてしまう。
そのブレでカムチェーンがカムチェーントンネル左右を叩いた例。
このように安田さんは拡がった軸受け部を肉盛り→再成形してブレを抑える。有効なメニューだ。
CB1100Fはエンジン分解時にシリンダーが抜けないことが多く、スタッドボルトの固着も多い。他機種では通用するような叩いて抜く等の手法が通じず、破損にもつながりやすいが、安田商会では抜く方法も熟知しているから、依頼するのもありだ。