文・写真:西野鉄兵
昼前の出発、引き返したくなる強風
いつになったら目的地にたどり着くのだろうか。お昼前の首都高で渋滞にハマりながら、後悔し反省する。
「朝方は雨だから、やんだら出発しよう」昨夜そう思い、6時にアラームをセットしたつもりだったが、起きたら10時40分だった。
外に出ると予報通り雨はやんでいた。というか路面が乾ききっていて、本当に降ったのかどうかも分からない。ツーリングする日の朝に起きられず、お昼を迎えたときの絶望感は、電車に忘れ物をしたときにも匹敵する。
とはいえ延期ができる旅でもなく、行かなきゃならん。誰にも迷惑をかけないソロツーリングだということだけが救いだ。新宿の自宅を出発した。
猛烈に風が強い。表面積の大きなフォルツァは、もろに風を受ける。同じように怖いと思うドライバーが多い様子で、幸い首都高はいつもよりだいぶスローペースだった。
東名に入った。大和トンネル手前で再び渋滞にハマる。久々にフォルツァに乗って最初に驚いたのは足つきがぎりぎりなことだった。シート高は780mm。数値だけ見るとむしろ低い部類なのだが、シートの幅がある。身長175cm・体重75kgで脚が短く太い私の場合、両足を着こうとするとつま先ツンツン。だから渋滞でもなるべく足を出さずに粘り続ける。足つきは不安だが、極低速での安定感は素晴らしく、時速1kmでも走れる。
それにしてもいつ着くんだ。早起きしていれば今頃もう愛知県だ。でもいつかはたどり着くだろう。向かっているわけだからな、違うかい、フォルツァ。
大和トンネルを抜けると、ここまで溜まったストレスを発散させるかのようにペースが上がる。私もついていきたいが突風が怖い。
風速の目安となる吹き流しは、食品サンプルのナポリタンでよく見る空中に浮いているフォークのようにビタッと真横を向いていた。
葉っぱやビニール袋、マスクやダンボール、長靴、トラックの積み荷にかぶせるカバーまで、道に落ちているあらゆるものが舞い、転がる。見つけるたびに後頭部に鳥肌が立ち、冷や汗をかく。
ただ桜の花びらだけは幸せな気持ちになる。桜吹雪はどんどん来い。それ以外は来るな。
フォルツァには電動スクリーンが備わっている。可動幅は18cm、無段階で調整可能。走行中でも動かせる。これが効果てきめんだった。低い位置から出発したが、すぐに最高まで上げ、とりあえずそのままにして走り続けた。
それでも揺れるときは揺れる。突風に煽られた瞬間は、チャラチャラしたビッグスクーター乗りが蛇行運転している、と捉えられたかもしれない。違うんだ。乗り手は白髪交じりのアラフォーで顔面蒼白、真剣そのもの。許してほしい。
フォルツァの快適な巡航速度
13時10分に神奈川県から静岡県に入った。道は新東名高速道路に変わる。箱根を越えたら雨が降り出してきた。
ヘルメットのシールドと、フォルツァのスクリーンに水滴が付きだした。最悪だ。
しかし数分走って気づく。ヘルメットとスクリーン以外、全然濡れていない。走行風がダイレクトに当たらないから、寒くもならない。おしっこも行きたくならない。
しばらく走ると風がおさまってきた。3車線の一番左側で80~100km/h巡航していたが、少しスピードを出したくなった。横風を受けないトンネルで手始めに加速してみる。
100km/hからでもぐいぐい加速した。100km/hは約6000回転、110km/hは約6500回転、120km/hは約7000回転。レッドゾーンは9000回転からで、余裕はたっぷりある。いま乗っているのは560ccの2気筒マシンなんじゃないかと疑いたくなる。……FORZAとメーターに記されているので、やっぱりフォルツァだ。120km/hが80km/hくらいに感じる。大型ツアラーでよく錯覚する、あのときの感覚にそっくりだ。120km/hでも快適、フォルツァすごい。
風は吹いたりおさまったり、雨も降ったりやんだり、新東名は快適でフォルツァの運転にも慣れてきた。ヘルメットに仕込んだBluetoothスピーカーで『イケナイ太陽』とか『粉雪』とかパフィーを聴いていると、緑看板に浜松の表示が。浜松!?
だいたいいつも神奈川県の中井PAか鮎沢PAで最初の休憩をとっている軟弱な私が浜松だとっ? 身体は全然疲れていない。ガソリンメーターはまだ半分、ヘルメット内のスピーカーからはご機嫌な音楽、ひとり移動カラオケボックス状態。ビッグスクーター、ビッグスクーター今夜は♪ ビッグスクーター、ビッグスクーター朝まで♪ イエーイ♪
全然関係のない話だが、ノリノリで走りながら歌っていたときに電話がかかったきたことがあった。今使っているBluetoothスピーカーは電話を受けることもできるようで、ひとりカラオケボックス状態だったときに、突然「にぎやかですね、鉄兵さん」と耳元でささやかれて飛び上がりそうになった。電話の主は年下の友人だった。絶句している私に「サンボマスターとか歌うんですね」と一言残し、通話は終わった。あのときの恥ずかしさは、たぶんずっと忘れない。
はじめて止まる。愛知県のNEOPASA岡崎だった。
青いモンスターエナジーを飲み、フォルツァには赤い持ち手のガソリンを補給する。約306km走り、消費した燃料は約8.9L。実測燃費は約34km/L。荷物満載なのに、すごいぞフォルツァ。
NEOPASA岡崎を出て、伊勢湾岸自動車道を少し走り、知多半島道路へスイッチ。
沿道には菜の花が咲いている。土のにおいに、ドラム缶で焚き火でもしていそうなかおりが混じる。知多半島まで来たんだなあ、と実感する。
それにしてもここまで、一台もバイクを抜かず、抜かれていない。明らかにバイク日和ではなかった。フォルツァでよかった。フォルツァすごい。
99%高速道路で367km走行、この旅の目的地は?
中部国際空港連絡道路の橋を越えると、この旅の目的地に着いた。
愛知県国際展示場(Aichi Sky Expo)だ。
明日(4月7日)、この場所で第2回名古屋モーターサイクルショーが開幕する。
走行距離は、367km。暗くなる前に到着できてよかった。くたくたの状態で開催初日を迎えるのは嫌だなあ、と思っていたのだが、むしろ昼に出たときよりハイになっている。
お尻の痛さはまったくない。腕も脚も疲れていない。肩も凝っていない。フォルツァすごい。フォルツァすごいしか言っていない。
心残りは名物を何ひとつ食べていないことくらい。空港島にはホテルはたくさんあるが、空港内まで行かないと食事処がない。コンビニのアメリカンドッグをかじりながらこの原稿を書くことになってしまった。
まあ、こんな旅もある。帰りは矢場とんに寄りたい。
文・写真:西野鉄兵