※本企画はHeritage&Legends 2021年10月号に掲載された記事を再編集したものです。
正しい状態に近づけば、まだまだ楽しめる2スト
2ストロークエンジンは部品点数が少ないことや構造が簡素なこと。エンジン積み下ろしが難しくないことなどもあって、プライベートでメンテナンスやチューニングを行うというケースは比較的多い。多くのパーツも存在する。
ただ、そうした親近感と手軽さが逆に、動きはするけれど正しい状態から離れてしまうという傾向を生んでしまいがちだ。そんな状態を払拭し、正しい作業でいい状態のバイク、エンジンを知る。それが結果的に2ストロークを長く楽しめる。トシテックは、その“いい状態”を、2ストオーナーに提供する作業メニューやパーツを多数用意している。
パーツでは、ピストンはTKRJ製をRZ/RZ-R/TZR各車用で扱い、RZ系にはシフトシャフトサポートを。YPVSを備える車両には左右バルブをつなぐボルトに、ホルダープレート。520チェーンコンバートキットなども用意される。
このパーツ群、どれもが必要とされるもの、そしてより良い状態を作るように考えられている。ピストンの場合は、単に適合機種用があるだけでなく、サービス加工メニューが用意される。スカートやポート穴縁の面取り、シリンダーとの当たりを緩和して焼き付きを回避する当たり取り、同様にオイル溜まり穴をサイドに設けるディンプル加工(IN/EX側)に、重量合わせ等が設定されている。このあたりは後述する作業メニューとオーバーラップしてくる。
「今2ストロークを買う、あるいは持っているという人がいやになってしまったり、降りてしまったりすることを避けたいんです」
トシテック・佐藤さんは言う。佐藤さんは’80年代初頭にTZでレースを始め、長くレース活動もしてきた。30年前にトシテックを開き、TOTで蛍光イエローのRZ350R改レーサーを走らせ(ライダーは芦崎泰子さん)、自身とレーサーのノウハウを、こうした思いとともにパーツに作業にとフィードバックしてきたのだ。
「2ストでは焼き付いたりした時に“古いから、2ストだからこんなもの”なんて言われることが多いですが、そうではありません。適切に扱われているかどうかです。組み方や使い方で、壊すようなことをしていないか。
ピストンなら、アブラと当たり。アブラは潤滑で、当たりは文字通りにシリンダーとの当たり。スカート部が当たるのは皆さんも知っているかと思いますが、それ以外にもありますし、ポートのひっかかりもあります。そうした部分の対策も、各種加工に入ります」
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基本の測定から進め、後で使いやすいように
前述の作業メニューはピストンだけでなく、これと対となるシリンダーの加工=ボーリングに再めっき、YPVS脱着・洗浄。ポート加工にクランク芯出しといった具合に並んでいく。そのどれもが単なる加工ではなく、その手前の段階から、そしてユーザーの手に届く段階までが考えられている。
手前の段階は測定だ。それもただ計るのでなく、基準をきちんと作り、それに合わせて計る。作業写真でその様子が分かるが、ピストンも、シリンダーも、クランクシャフトも、測定のための定盤に、測定器具、そして測定する対象の位置を揃える。
それがあってこそ、質の揃った作業と精度の維持が可能だからだ。ピストンは計測データを揃え、レースで出たトラブルとも合わせて、メーカーによるサイズの違いをアナウンスできた。ヤマハ純正のオーバーサイズ品とTKRJ製のオーバーサイズ品ではTKRJ製の方が同じ呼びサイズでもわずかに小さく作られている。
だからオーバーサイズピストンを組む場合はピストンクリアランスを確認し、TKRJ製に交換するなら純正より1サイズ上を選んだ上でボーリングするようにと推奨してくれる。
シリンダーも下面の歪みから計り(測定・確認のメニューもある)、平面出し。並列2気筒で左右気筒に高さの違いがあればシリンダーヘッドが歪んだりと他に影響が出るから、揃える。上面の歪みや傷も圧縮や冷却水の漏れにつながらないようにラッピング加工する。
その上で使用ピストンに合わせたクリアランスを取ってボーリングや再めっき、ポート加工を行う。ボーリングによってポートのボア側に出来るバリやエッジは落とし、排気タイミングも合わせる。メニュー上に描かれる作業内容以上と思える内容が、ここにある。
クランクも芯押し台で両軸先端と、Vブロックでセンターベアリングを支持する、ふたつの測定で基準値内に入るようにすることで真っ直ぐになるようにし、測定数値は記録され、ユーザーに渡される。
こうした手順を経て、作業済みパーツは洗浄等の仕上げを行い、梱包も開封時の向きまで分かるように行う。“製品が到着したら開けてすぐ使えるようにです”と佐藤さんは言うが、そのまま使える状態での供給はそうあることではない。
「趣味として自分で作業されるのもいいですが、その際には車両ごとのサービスマニュアルが必須。そしてそこに書かれている以外の内容、例えば工具の使い方なども正しく知っておきたいですね。今はリプレイスパーツが増えてありがたいです。でも、純正に置き換えられるかどうかを見極めるような目は持ってほしいですね。力のかかる部分にその形や素材は無理とかいうものもありますし。
あとはノーマルでいい状態にある車両のことを知った上で、作業した後がそれを維持しているのかそうでないのか知ってほしいとは思います。RZを含め、もう新車がないですから、それも難しいとは思いますけど。せっかくお金を使うのなら、いいものをしっかり選んで、いい結果を得てほしいです」
佐藤さんのこの言葉は、大いに共感できる。いい2ストを長く楽しみたいなら、この言葉を参考にし、トシテックに作業やパーツを依頼するのがいいだろう。
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正しく測り、加工することで確かな性能と延命化を狙うエンジンメニュー
●PISTON(ピストン)/滑らかな回転を得て干渉や焼き付きを予防
潤滑をしっかり行い、密閉性を保ちつつ干渉は防ぐ。トシテックではTKRJ製ピストンの販売を行いつつ、必要に応じた加工メニューを用意して施すことで、滑らかに回り焼き付きなどのトラブルを極力回避する。
写真は加工メニューのひとつとなるピストン当たり取りを施したもので、中央部の上から下にかけての当たりが考えられる箇所にごく薄い削り込みを行っている。
ピストンはこのように定盤の上に計測治具を組み、ブロックゲージで径の基準、敷板で高さを決め(純正指定値は下から5mm)、ダイヤルゲージで径をひとつひとつ計っていく。測定位置が変われば寸法も変わるし、量産の製品自体にも公差もあり、呼び寸法と計測寸法がそのまま同じと限らないから、必須の作業だ。
ピストンスカートの縁を面取り加工あり(左)/なし(右)で比べたもの。2ストではシリンダーのポート穴が引っかかる可能性があり、それを抑える。ポート側のリブ逃げ加工やピストン/リング/シリンダーへのWPC、WPC+MOS2加工メニューもある。
ピストンピンの面取りや、WPC加工でのスムーズ化も可能。左のピンはレース用に両端をDLC加工した例で、中央部分は施工するとベアリングが滑るために非施工としている。
︎レース用1本リング仕様ピストンの例で、WPC処理が行われている。
レースで使用したピストンクリップの例で、右側は使用距離なりの摩耗だったが、左は異常摩耗している。ピンボスの磨耗やピンで過度に押されたことなどの複合的要因によると思われる。こうした例からも、ピンの面取り/WPC加工やピンボスへの溝加工が有効と思える。
●CYLINDER(シリンダー)/ゆがみを排してリブ逃げ加工や再めっきも行う
クランクが正しく回る、ピストンが滑らかに上下する。そのためには歪みがなく真っ直ぐで、ボアも滑らかで、きちんとした寸法と性能を持った機能パーツとしてのシリンダーであること。定盤+治具に置いて上下面の歪みから測定・確認し、ダミーヘッドも使ったボーリングや再めっき加工はトシテックの本領が発揮される得意メニュー。ポート加工やポートタイミング変更もこの測定=診断から始まり、データは上述のようにシートに記入され記録として残される。
一見きれいに見えるシリンダーだが、上面には荒れが見られる。この荒れが冷却水漏れ、並列2気筒なら左右気筒での高さ違いを招いてシリンダーヘッドのひずみを呼んでしまう。これを防ぐ。
●CRANKSHAFT(クランクシャフト)/千分台のゲージで芯出し組み替え・抜け止め加工も
クランクシャフトはRZ/RZ-R/R1-Zについては純正新品が出る(2021年取材時点)ため、エンジンオーバーホール時にはそちらを使うことを推奨する(他の純正パーツについても同じ)。修正の際は写真上のように両軸先端を支持と、写真中のようにVブロック/センター支持での固定(中古の場合ならVブロックとサイド固定=写真下)の2種類の方法を用いてふたつとも基準値内になるよう修正する。
気筒間の左右のずれを確認するためには、千分台のゲージで1/100または3/100mm以内の精度で行ったのち、ピンの溶接or接着抜け止め等も行う。作業終了後には全体にエンジンオイルを塗布し、到着すればひと拭きしてそのまま組み込めるように配慮している。
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ヤマハ2st各車に精通するからこそ効いてくるオリジナルパーツ群
RZ/RZR スチールクロスチャンバー(350/250)耐熱クリア塗装済
RZ/RZR チタンクロスチャンバー(350/250) 受注生産
ともに複数のピースから製作、各ピースはつないだ後にスムーズなラインで性能が出るように板金加工を施し、溶接も裏ビードを出し丁寧に行ったチャンバー。バンク角を考えたクロスタイプでスチールは耐熱クリア仕上げ。チタンは軽量で、レーシングチャンバーとしての性能(素材特性も相まって、全域でかなりパワーアップ、と佐藤さん)を持ち、美しくサビの心配もないファクトリースペック。
チタン・カーボンサイレンサー
チタン・カーボンショートサイレンサー
アルミサイレンサー
左3点はカーボンシェル以外オールチタンで左端は275mm長、隣のショートは235mm長で334g/本。左2点はストリート用3穴タイプ、右から2本目は接続部にくぼみのある“TZタイプ”で、TZ用チャンバー対応。取り付けも2穴。右端はヘアライン仕上げ筒長275mmアルミシェルで重量462.7g/本。消音効果のある成形ウールを使用。なお写真はいずれも左側用だ。
TKRJ TZR250(3MA)ピストンKIT
限定品の3MA用、国産ピストンでピン/リング/Cクリップ/小端ベアリング同梱。TKRJではメーカーで販売終了となったピストンを多数販売、トシテックではRZ系は0.5mmオーバーサイズまでなら常時在庫し、重さが近いものをセットにして提供している。WPC+面取り加工ピンも在庫している。
樹脂1枚リードバルブアセンブリ
樹脂1枚リードバルブ&ストッパーKIT
リードバルブをノーマルの金属製から樹脂製1枚+ストッパーに変えることで全域のピックアップが向上しもたつきも解消。キャブレターセッティングはノーマルでOK。RZ/RZ-R/RD各車用。RZV500Rは2セット使用。
EXACTII RACING10 フルアルミ鍛造ホイール
アドバンテージとトシテックのコラボレーションによる、中排気量車用フルアルミ鍛造ホイール(マグ鍛造もあり)。リム部が軽量でジャイロ効果を軽減でき、取り回しや旋回性が軽くなる。フロントは3.00-17または3.50-17サイズでストリート用はメーターギヤ対応、リヤはは4.00-17~5.50-17サイズでストリート用は今後ハブ部のシール性を高めるカバー構造を採る予定。TZR250全年式、R1-Z(3XC)、RZ250R(3HM)、NSR250R、VTR250用ほかあり。足まわりを換装したカスタム車に合わせて寸法指定ができるセミオーダーでの製作が可能なことも特筆。ホイールで困っている方は相談してみるといい。
YPVSホルダープレートKIT
YPVSジョイントボルトKIT 1台分 RZR/TZR/R1-Z/RZV500R
気がつかないうちにガタが出たりプレートが割れたりして、不調やトラブル、摩耗でシリンダーが使えなくなることがあるYPVS。そのホルダープレートを形状/素材(ステンレス)とも見直してホルダーにジャストフィットするよう設計したプレート。RZ350R用、RZ250R用(販売終了品)、TZR250(1KT/2XT/3MA)/R1-Z/RZV500R用あり。左右分割のバルブをつなぐジョイントボルトと位置決めピンは交換することでバルブ曲がりを対策できる。
RZ/RZR ウォーターポンプ チタンハウジングカバープレート
RZ250/350、RZ250R/350R純正では鉄製のウォーターポンプカバーをチタン製に変えることで、純正時にプレートが錆びることに起因するポンプ回転軸オイルシール摩耗からの冷却水漏れやサーモスタット固着/作動不良、冷却系詰まりを予防する。
RZ250・350 チェーン520コンバートKIT
RZ350ホイール(左上)/RZ250ホイール(左下)/RZRエンジン・RZ350ホイール(右上)/RZRエンジン・RZ250ホイール(右下)
RZ250/350純正の530サイズチェーンを520サイズにコンバートし、重量とフリクションを低減し相対的に後輪出力を高め駆動系の耐久性も高める。左上RZ350ホイール用は前後スプロケットのみ、左下RZ250ホイール用はアルミリングとカラー4点が加わる。右上はRZ-Rエンジン搭載+RZ350ホイール用で前後スプロケット+アルミリング、右下はRZ-Rエンジン+RZ250ホイール用で前後スプロケットと必要パーツが含まれる。
520ドライブスプロケット16丁/17丁 RZ(右2点)
5mmオフセット ドライブスプロケット16丁/17丁 RZ/RZR(中2点)
10mmオフセット ドライブスプロケット16丁/17丁 RZ/RZR(左2点)
いずれもリヤスプロケット同様にisa製で、SCM調質材を歯形に至るまでNC加工で製作。浸炭処理後にショットピーニングすることで高い精度/耐久性/耐摩耗性を実現。右2点は520サイズでフラット(オフセット0)、中2点はそれぞれオフセット5mm/10mmとなっている。
R1-Z 超々ジュラルミン リアオフセットスプロケット 44丁/45丁(上2点)
R1-Z isa製 フロントスプロケット 14丁/15丁(下2点)
純正で520サイズを採用しているR1-Z(3XC)用で、トシテックオリジナルデザイン/isa製。リヤはアルミ7075材ハードアルマイト仕上げで純正スチールの777gから374gに軽量化、フロントはSCM調質材焼き入れ+ショットピーニング。リヤスプロケットは同芯加工により真円に近い回転が望める。以前別体リングを使っていた箇所も一体成形として精度を高め、ホイールのインロー(中心の凸部)に収まることで真円で回るようにし、ナット側は座繰り加工することで確実にナットが噛むようにした。
RZR シフトシャフトホルダプレート/プレート用カバー加工/カバーセット
樹脂カバーで支持されるRZ-Rのシフトシャフトのたわみによるシフトミスやオイル漏れを予防する。6mm厚アルミプレート+非接触シールベアリングによりカチッとしたシフトタッチに変わる。