まとめ:オートバイ編集部/写真:南 孝幸
タイヤに求められる「4大基本機能」とは?
オートバイは「走る・止まる・曲がる」の基本動作で成り立っている。そしてこの3つの動作に深く関わっているのがタイヤだ。そのタイヤは「4大基本機能」によって構成されているのをご存知だろうか。役立つタイヤの知識を紹介する前に、少し基本に触れておこう。
タイヤには 「車両を支える」「駆動力、制動力の伝達」「方向の転換・維持」「衝撃の緩和」という4つの基本機能が必要になる。最初の「車両を支える」とは、タイヤの中の空気量と圧力を使って車体や乗員、荷物などの重量を支えることを意味する。
2つ目の「駆動力、制動力の伝達」とは、車両が進んだり、止まったりするために、タイヤはゴムの摩擦力を利用してエンジンやブレーキの力を路面に伝える役目をしている。
3つ目の「方向の転換・維持」は、ライダーが行きたい方向にオートバイを旋回させたり、直進を維持したりすること。最後の「衝撃の緩和」とは、乗り心地のことで、路面の凹凸によって発生する衝撃を緩和することを意味する。つまりタイヤは、空気の量と圧力、ゴムの弾性、タイヤ構造の弾性によって機能している。
タイヤはただのゴムの固まりではないのだ。4つの基本機能を最適なレベルにまで引き上げるために、タイヤは常に進化を続けている。そしてその最前線で不可能を可能にするために戦い続けているのが開発者だ。今回はブリヂストンタイヤの開発者に「タイヤの基礎知識」をうかがった。
【Q&A】タイヤに関する10の質問・疑問
Q.1 タイヤの構造と使用されている素材を教えて
A.タイヤはゴム、配合剤、構造材で構成されている
タイヤの構造
❶トレッド
直接路面に接する部分でカーカスを保護するとともに摩耗や外傷を防ぐ。トレッドの表面にはトレッドパターンが刻まれ、ウエット路面で水を排除したり、駆動力・制動力が作用した際にスリップを抑制してくれる。
❷サイドウォール
走行中にもっとも大きくたわむ部分で、タイヤの屈伸運動がスムーズに行えるように設計されている。タイヤ内部のカーカスも保護する。
❸べルト/ブレーカー
剛性を高めるためにトレッドとカーカスの間に入れる補強コード層、ラジアルにはベルトが、バイアスにはブレーカーが使われる。
➍ビード
タイヤをホイールリムに固定する部分。ホイールリムとの摩擦損傷を防ぐために補強コード層やゴム層などで補強されている。
❺カーカス
タイヤの骨格を形成するコード層の部分。タイヤの受ける荷重、衝撃、充填空気圧に耐える役割を持つ。タイヤの種類・サイズ等によりポリエステル、ナイロン、レーヨンコード等を使用。
❻ビードワイヤー
強度な高炭素鋼束ねたワイヤーでカーカスコードの両端を固定する。同時にタイヤをリムに固定させる役目を負っている部分。
タイヤに使用されている素材
配合剤
カーボンブラック
ゴムの強力や硬さ、耐摩耗性などを向上させる炭素からできた粉体。
シリカ
二酸化ケイ素からなる白い粉体は転がり抵抗を下げ、ウエット性能を向上させる。
オイル
混ぜるとゴムを軟らかくし加工しやすくさせる。
樹脂
ゴムを硬くする性質を持ち、耐カット性が向上。
老化防止剤
ゴムが劣化するのを抑制する特性がある。
硫黄
黄色で無味無臭だが、点火すると青色の炎を出し特異臭を発する。ゴムに強度や弾性を与える。
加硫促進剤
生ゴムに「硫黄」の加硫剤を混ぜ合わせ加熱・加圧することで起こる化学反応を促進させる薬品。
亜鉛華
加硫促進剤の働きを助ける薬品。
ステアリン酸
亜鉛華と同様に加硫促進剤の働きを助ける。
ゴム
天然ゴム(NR)
パラゴムノキの樹液を固め、燻製して作られたシート状のゴム。強度が高いのでタイヤ各部に使われている。
天然ゴム(NR)
パラゴムノキの樹液を固め、ドライヤーで乾燥させたブロック状のゴム。タイヤのあらゆる部位に使われている。
イソプレンゴム(IR)
天然ゴムに似た性質を持つ合成ゴム。弾性率は天然ゴムに劣るが、耐候性、耐老化性は勝る。
ブタジエンゴム(BR)
タイヤのトレッド、サイドウォールなどに使用される合成ゴムで耐摩耗性、優れた柔軟性、高い反発弾性を持つ。
スチレンブタジエンゴム(SBR)
タイヤのトレッドに使用される合成ゴムで、耐摩耗性、弾性、強度のバランスに優れる性質を持つ素材だ。
ブチルゴム
耐候性などに優れた合成ゴムで空気を通しにくい性質を持つ。
構造材
ナイロン
バイアスタイヤのカーカス材やタイヤのキャップ材に使用される。
ポリエステル(PET)
タイヤのカーカス材に用いられる。
PEN
タイヤキャップ材に使用される。
スチール
ビード及びスチールラジアルタイヤのベルトやカーカス材などに使用される。
アラミド
オートバイ用タイヤのベルトに使用される。
レーヨン
タイヤのカーカス材に使用される。
Q.2 タイヤが黒いのはなぜ?
A.強度を高めるカーボンブラックが含まれているから
タイヤが黒い理由は、黒色の着色材として印刷インキやトナーなどにも使われている「カーボンブラック」と呼ばれる黒い炭素の粒が含まれているからだ。これは単にタイヤを黒くするだけでなく、強度を飛躍的に向上させる性質も持っている。タイヤを黒色以外にすることも可能だが、課題は多い。
Q.3 ラジアルとバイアスは何が違うの?
A.カーカスを貼り合わせる方向が異なる
バイクのタイヤには、「バイアス(斜め)」と「ラジアル(放射線)」の2種類がある。 バイアスタイヤは、カーカスを中心線に左右から斜め30〜40度の角度で交互に貼り合わせている。これに対しラジアルは、カーカスがタイヤ側面から見て放射線状(ラジアル)に並んでいる。つまりバイアスとラジアルの違いは「カーカスの向き」なのだ。しかし、構造がシンプルなバイアスと複雑な構造のラジアルとでは、それぞれメリットが異なることも知っておこう。
ラジアルタイヤ
●軽くて高性能なタイヤが作れる
●コーナリング時の剛性感は非常に高い
●転がり抵抗が低いので燃費性に優れる
●高速走行時の乗り心地が良い
バイアスタイヤ
●剛性が高いので悪路走行に適している
●空気圧を抜いてもタイヤが潰れすぎない
●低速走行時の乗り心地が良い
●構造がシンプルなので低コストですむ
Q.4 ツーリングタイヤとスポーツタイヤの違いは?
A.ミゾ比率はスポーツタイヤの方が数値が低い
タイヤの構造はどちらも変わらないが、スポーツタイヤはグリップに優れたコンパウンドを使用することでドライグリップ性能やハンドリング性能が重視されているのに対し、ツーリングタイヤは長距離を走ることを前提とし、耐摩耗性能とウエット性能が重視されている。最近よく耳にするツーリングタイヤの重量車用「GTスペック」は、通常のタイヤよりも補強部材としてブレーカーを一枚多く使用するなど内部構造が異なっている。重量車向けタイヤ「GTスペック」を作ったのはブリヂストンのBT-023が初となる。
Short break❶ 過酷な耐久レースで得た技術を市販品に投入
現在、ブリヂストンはEWC(世界耐久選手権)用のタイヤ開発に取り組んでいる。スプリントレースとは異なり、24時間レースなど、昼夜を通して使用されることを考慮する必要があるので、温度に対してロバスト性(幅広い温度範囲で安定した性能を発揮する性能)の高いタイヤが求められる。
そのなかでも過酷なレースが真夏に開催される鈴鹿8時間耐久レースだ。灼熱のアスファルト地獄の中を長時間走り続けられる耐久性が求められるので、8耐向けにはより耐久性が高いスペックが用意されるそうだ。このような特殊環境でも最大限の性能を発揮するタイヤを開発することで、そこで培った技術を市販タイヤにフィードバックするためにEWCに挑戦している。
Q.5 二輪用のランフラットタイヤは発売されないの?
A.空気圧ゼロで安定走行するための課題が多い
四輪用に開発された「ランフラットタイヤ」は、空気圧ゼロでも所定の速度で一定距離を走ることができる画期的なタイヤだが、二輪用のランフラットタイヤはいまだに発売されていない。その理由は、四輪は4つのタイヤで車体を支えているのに対し、二輪は2つのタイヤで車体を支えている。よって、4輪と比較して、2輪は車両そのものの安定性が劣るため、空気圧ゼロで安定走行するための課題が多い。