※本企画はHeritage&Legends 2022年5月号に掲載された記事を再編集したものです。
ポイントを抑えレストアして純正新車に近くする
白×赤の塗色やブーメランコムスターホイールから、1982年のCB750FCと分かる車両。ブレーキラインがステンレスメッシュ化(ブラックの被覆でノーマルルックになっている)されたり、リヤショックがYSS製になっていたりもしている。だが、それは生産当時から40年を経る中で現れた、純正のように見えながら性能を高められるという手法の取り込み。タイヤも同様で、その方が安心できることにもなる。
安田商会の安田さんはこの車両の成り立ちをこう説明してくれる。
「この車両は、割と長いこと放置されていたんです。屋内でしたから、ぱっと見には今とあまり変わらないようにも思えたんですけど、結構あちこち傷んでいました。それでレストアしていったんです。
CB-Fのお客さんは純正スタイルが好きな方が多いですから、そこにもマッチするでしょう。それに、どこがどうダメになっているかを把握すれば、似たような車両に出会ったときに何をすればいいかも分かりやすい。そんなことも考えながらやりました」
安田さん自身もCB750FCカスタムに25年以上乗っている。しかも多くのCB-Fを手がけてきたから、エンジンやフレームの状態は現物で十分分かるだろうし、ストリートからサーキット仕様まで、また17インチも18インチもというカスタムプランも提案できる。
今回のレストア車製作には、それだけではまかなえない、良好な車両維持のための気づきという部分も含まれているようだ。
「これから乗っていこうとするときに、一番大事なのは足元かなと思います。ホイールやブレーキまわり。ここがきれいでしっかり機能することですけど、CB-Fノーマルホイールのアルマイトは汚くなると何もできない。そこに経年でポツポツしたシミが出てきて、それも取れない。メタルコンパウンドで優しく磨く程度まで。いい状態ならまめに手入れするくらいしかできない。
ホイールはむしろ社外品の方がいいでしょうけど、ノーマルにこだわるなら注意。ブレーキは、マスターやキャリパーがブレーキフルードにじみというか、変質して出てきているのを清掃か交換。キャリパーはこの車両のようにオーバーホールして塗り直しできますし、ディスクをクラフトさんのものにしたりという手は出てきていますね。とにかく、そんな部分が多いというのは、意識して作業してはっきり分かりました」
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今出てきつつある手法をきちんと精査し取り込む
手が打てないわけではないが、劣化を早期発見し、進行を抑えることは大事だとも安田さん。次に挙げたいのは、キャブレターと燃料タンクだという。
「どっちも、日本では多い“サビ避けでガソリンを入れて保管していました”という車両でのネガが多いようです。キャブレターは不要物がフロート室なんかに溜まるし、フロートバルブの受け側、バルブシートの真鍮もサビる。それで燃料落ちが悪くなるんですけど、バルブは廃番。なのでここは今後のためにウチ経由でパーツをリリースするかリペアサービスをするかという話を進めています。
燃料タンクは、やはり塗装のシミ。白いところに黒いにじみのようなものがあったりして、それは塗り直し。また溶接の合わせ目や、エクボ(小さな丸穴)ができてから燃料が漏れるようになったりします。それに、見た目がきれいでも鋼板が薄くなってしまって、指で押しただけでベコベコになってるようなものが多いんです。
サビ取りをしようと薬剤を入れたりして、それが裏目に出て鉄板が薄くなる場合もあります。その意味では、海外でガソリンも入れてなくてカラカラの状態で保管されていたものの方が状態はいい。ですから、見た目よりも実際に触ってどうかを見た方がいいかもしれません。私も参考にとオークションで探したりしますけど、写真では分からない。アルミの新品にするか、皆さんが間違いなく買ってくださるなら作るか……とも考えます。タンクももうないですし」
意外にも、良かれと思ってやっていることが逆の結果を招いているということのようだ。ただ、キャブレターについては安田さんの言葉のように補修は可能。FCRなどに変更(年数が経っていれば新品に)するのももちろん有意だという話もこれまでに聞いてきた。ほかの部分はどうだろうか。
「この車両で言うと、フレームは塗り直し。マフラーもやっぱりサビていたので、ここではショート管に換えています。
今回、こういうふうに純正に寄せてレストアしたのは、どんな劣化があって、それがどう戻せるかを知りたかったからです。純正スタイルに近い状態かな。よく走るという部分を優先するなら、さっきも言ったように、社外品を活用していけばいいと思います」
安田さんは、幅広いCB-Fユーザーの視点をひとつに決めず、いろいろと探ることで対応力も高めようとしている。このような純正レストア車は、近々もう1台作る予定があるとも言う。
「ショップのショールームにずっと、おそらく40年級で置いてあったものです。新車なのにサビがある。つまり、コンクリート床からも湿気が上がるし、ウインドウガラスを通して日焼けしたり、気温差の影響を受けているということ。その辺ももっと知りたいですし、どう戻せるかも分かるかな」
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機種特有のトラブルも原因と解決策を知っておく
劣化の過程や結果が分かれば、どう戻すかも分かるし、純正スタイルへのヒントも生まれる。赤い車両は、安田さんがロケットカウルでの旧車スタイルの提案で作ったものだ。
「当初はマイナスな反応が多かったんですけど、まとまるにつれて高評価になってきました」とは安田さんの感触。確かにカウル/シート以外は、ストレートな18インチスタイルで、むしろこれは安田商会でもお勧めの内容としてまとまっている。時代感をどう捉えるかという好バリエーションだ。
ほかにも安田さんは、CB-Fに起きうる細かいトラブルを多く知り、対応してくれる。例えばCB1100Fでのシリンダー/スタッドボルト固着。始動不良の遠因になる、ガバナーのツメ折れ。TRAC装備フロントフォーク車は、パーツは出ないけれども等外部のシールは出るから、折りに触れてシール交換しておけば作動不良を起こさない(フォークオイル交換だけでは起きうる)など。
こうした“CBあるある”も駆使して、CBユーザーを助けてくれる安田さん。今回のような純正レストアによって、“あるある”は強化され、さらにCB-Fを楽しめるようにしてくれるのだ。
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CB-Fの“あるある”注意点
機種特有で出がちな症状や弱点、“あるある”。CB-Fにもいくつかあり、それは分かりにくいところで増えてもいるが、原因を探ることで、症状から解決法を導ける部分もある。安田さんはそんな箇所を多く把握している。
燃料タンクは外観OKでも注意点多し
給油口や燃料コック部から見て分かるようにサビが厚く溜まりがち。
下縁あたりで、このサイズのエクボ≒小穴が空くことも増えている。現状はアルミ製への換装くらいしか手がないが、対策を考えたいと安田さん。
海外経由エンジンは開けてないことも有利に
CB750Fはさておき、輸出仕様のみのCB900/1100Fを購入対象とする際は“開けてないエンジン”を選ぶのも選択肢としてアリとのこと。下手に開けられているよりは対処の幅が広がるという。
CB1100Fの場合、エンジンを開ける際に直面するのがシリンダー、シリンダースタッドボルトの固着。ボルト穴への砂落ちも注意箇所だ。
難しい時はタジマENG.に依頼することも多いとのことで、安田商会でもスタッド外し(下写真、油分塗布→浸透)の容易化を模索中。
悪い部分はないのにエンジンがかからない、回転不良……は、クランクエンド左に付くガバナ(スパークアドバンサー)を確認する。スプリングが不良の場合(同店で対策品を用意)や、ツメ折れが原因の場合(良品を探す)もある。頭に入れておこう。
CB1100Fのシリンダーヘッドで「海外で開けられていた」もの。2番気筒のエキゾーストスタッドボルトがヘリサート加工されているが、コイルが残っている。このような、とりあえず動けばいい、後は不明という作業の確率が高いので避けたいところだ。
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今使えるCB-Fパーツも展開中
安田商会ではCB-Fに使えるオリジナルパーツも用意している。ロットごとの生産量は少数なことや、アップデートを加えることもあるので、気になったらまず連絡するのがお勧めだ。
オリジナルステップキット/CB-F現役当時のパーツの雰囲気を持たせつつ、純正より少し後ろで少し上にバーが来る設定で6位置が選べる。YSDロゴも入る。
CB-F用オリジナル手曲げチタンマフラー(ノーマルステップ)/フルチタンの4-1マフラーでφ42.7mmエキパイ、ノーマルステップ対応。別売りのUPテールパイプでバックステップにも対応。
オリジナルステムキット/CB-Fシリーズを前後17インチ化する際に多く使われるXJR1200用φ43mmフォークをクランプし、適正オフセットにできるステム(写真は装着例でハンドル等は別)。