文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
BMW「R 1250 GS アドベンチャー」インプレ(濱矢文夫)
インパクト大! 30Lタンクで圧倒的存在感!
このバイクがこのカテゴリーの王者としてリスペクトされている理由はなんだろうか。アドベンチャーモデルを代表する存在。様々なメーカーがこの分野に進出し、魅力的な機種が多数生まれている。その中でフラッグシップモデルを開発する上で、これを意識しなかったものはどれだけあるだろう。評価されるゆえんを乗らせてもらうたびにいつも考えて答えを探してしまう。
バイク単体でみると車体の迫力に畏怖を感じる。トップモデルのGSにはR1250GSとR1250GSアドベンチャーの2種類がある。キャストホイールを履いたR1250GSより、R1250アドベンチャーの燃料タンクは10Lも増やした30Lの容量があり、それゆえに幅の広がりが視覚的に強調される。だがシートに腰をおろし、スターターボタンを押してエンジンを始動させ、走り出してしまうと、大きさに不安だった気持ちをあっさりと置き忘れる。
歩くような速度でも前進していれば、抜群の安定性だ。スロットルオフでグラっと倒れ込むようなそぶりがない。このマジカルな事実を体験したことがない人から見れば、よくそんなに大きなバイクに乗っているね、なんて感嘆するかもしれない。いや、特別な運転技術はあまり必要ないんだ。決してパニアケース、トップケースとフル装備のバイクが軽いとは言わない。エンジンをとめた状態で坂道を押し上るのはなかなか大変。
しかし進行していれば身長170cmのライダーが足つきも含めて扱いに困らない。狭い場所で向きを変えるのでさえ押すより、エンジンをかけて走って小さくターンすることを選ぶほど。これには端が手前に絞られているバーハンドルの恩恵もある。短めの腕でも自然体で届きグリップを保持できる。
始動するとブルッと身震いするように車体をゆらすボクサーエンジンは、進み出してしまえば歯切れのよいビートと鼓動をともないながらトルクで転がしていくようで心地よい。アクセルを大きくひねると可変バルブタイミングのBMWシフトカムが切り替わって平穏無事な空気に支配されていた空間を破って鋭く加速をはじめる。この切り替えはどのシーンでもシームレスであり、どの回転域からでも右手の動きに素早くレスポンス。極端な言い方をすれば難しく考えずにアクセル操作だけで欲しい加速がいつでもどこでも手に入る。
その感覚を支えるのはシャシーと前後サスペンションでもある。試乗車は電子制御のダイナミックESAサスペンションが装備されていた。エコ、ロード、レイン、ダイナミック、ダイナミック・プロ、エンデューロ、エンデューロ・プロという走行モードとリンクし、ストロークなどを検知して状況に合わせたダンピングを調整してくれるもの。ダイナミックモードを選ぶとハードになったサスペンションとなりワインディングでペースを上げて走り回るのが楽しい。
またフロントブレーキ具合が好きだ。単純に利きというより、利かせ方が巧み。レバーを握る力に比例して制動力が強まるから、深いところまで減速しながら入っていける。サスペンションは普通のテレスコピックではなくテレレバーで、リアはシャフトドライブのパラレバー。この存在もある。つんのめるみたいに前だけノーズダイブをせずに車体全体が沈み込むような印象で、減速力がフラットにかかるような感覚。そこからブレーキをリリースしつつターンイン。倒し込んでいく場合にフロントにかかった荷重が抜けにくく、タイヤグリップを得て無理のないコーナーリングができる。向きを変えつつ脱出しする場合も、優れたトラクション能力から早めにアクセルを開けていける。この体躯とフル装備の重量だとは思えないほどフットワークは軽快だ。
ダート林道を抜けるならエンデューロモード。そこでアクティブにコントロールしたかったらエンデューロ・プロにするのがオススメ。リアのABSが解除されてブレーキでリアタイヤを滑らすことも、ウイリーコントロールが解除されてステアケースをフロントアップして乗り越えていくことも可能。高速道路では圧倒的なスタビリティでリラックスした巡航を続けられてウインドプロテクションも申し分ない。実に快適な世界がおとずれる。いろんなシチュエーションを朝から晩まで移動し続けて給油を1回もしなかった長い満タン航続距離にも感心した。
"万能" という言葉を軽々しく使いたくはないが、それがR1250GSアドベンチャーを表すもっとも適当な単語なのだからしかたがない。「なぜ王様なのか?」の答えは、予定調和のごとし。わかっちゃいるけど、自分を納得させるためにも接すると確かめないわけにはいかない。走る道を選ばず、操作しやすく、快適で、運転をしたくなるおもしろさ。そして築いてきたブランド力もある。広い守備範囲を高レベルでまとめているのだから当然なのかもしれない。
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