文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行/モデル:葉月美優
ホンダ「CL250」インプレ(濱矢文夫)
見た目も排気音にもこだわった、アップタイプサイレンサー採用!
ホンダCL250は小さすぎない。堂々としている。1485mmのホイールベースは空冷直列4気筒エンジンを積んだビッグバイク、CB1100EXとほぼ一緒だったりする。このモデルのベースとなったレブル250は前後16インチホイールを履いていたけれど、こちらはフロントが19インチ、リアが17インチと車輪が大きい。単気筒エンジンによるスリムな車体にアップライトなポジションで気軽に乗ることができるとっつきやすさがありながら、250ccクラスらしからぬ存在感がある。
実車を前にしてみると、スタイル、ディテールの表情が想像以上に豊かなことに気がつく。スマホやパソコンのモニターで観た写真から平面的で退屈な造形だと勝手に思っている人は少なくなさそう。陽の光をあびて3Dで目の当たりにすると、燃料タンクは柔らかな丸みをおびたピーナッツ型をして、斜め後方から見るとアップされた太いサイレンサーと相まって表情が豊かだと感じた。
走り出すといい音を奏でる。アクセルを開けていくと乾いた歯切れの良い排気音がライダーの耳に届いて心地いい。昨今のバイク開発ではどういう音にするかこだわってチューニングするのが当たり前だが、これは「いいね」と素直に言えるできばえだ。ダイヤモンドタイプのメインフレームはレブル250と共通。でも、デュアルパーパスモデルの要素が強いスクランブラーでホイールサイズが違う。ローライドなクルーザーのモデルと同じままは難しい。大きく異なるのは新設計したシートレール。必要な剛性を持たせつつ、これでフレーム全体のしなやかなさに貢献しているという説明がされた。
そこだけに注目して具体的なものを語ることはできないけれど、ライダーの気持ちに従順に動いてくれる素直なハンドリングになっていることは乗ればすぐにわかる。クセらしいところはない。おっとりと鈍重なところもない。気遣いすることなく意のまま。間違っても高性能なサスペンションと表現はできないが、ドタバタやふわふわとしていることはなく誰が乗っても困らないバランス。
好調な販売が話題になっているバイクを下敷きにして、ちゃっちゃっと手軽に作ったと思っていたらそれは間違いだ。太さΦ41mmのインナーチューブを使ったフォークピッチは、レブル250より狭く、当然それをクランプするトリプルツリーも合わせオフセットも変え、キャスターやトレールも共通ではない。レブル250ベースといいながらも多くのところで異なっている。
もう一つ、ハンドルロックまでの可動域が広いことも見逃せない。左右38度と切れ角は大きい。おかげで狭い場所で方向転換するのにも困らない。Uターンは楽ちん。フロント19インチホイールでホイールベースが長いことを意識させないほど使い勝手がいい。ちょっと買い物にでかけたり、ちょっと旅先で迷ってみたり、ちょっと林道に入ってみたり、多様なシチュエーションで一緒に走り出すことをためらわない。
4ストローク水冷DOHC4バルブ単気筒エンジンは、CRF250Lのカムシャフトを使いより低中回転域のトルクを感じられるようにした。日常領域でもどかしくなく前に進む力を取り出せる。ドリブンスプロケットをレブル250の36Tから1丁増やした37Tにしつつ、異なるリアタイヤ外径に合わせて最適化。いろいろな場面で実用的で乗りやすい。
ホンダがCLの名を初めて使ったのは1962年に誕生したCL72からだった。スクランブラーとは、まだオフロードに特化した機種がなかった頃に、ロードスポーツ車をベースにアップハンやアップマフラーなどでオフロード仕様に仕立てたものをいう。ただ、この新型CLは、ダート走行を考慮して進化をしていった初期の続きというより、1990年代前半に盛り上がったストリート系カスタマイズではやったスクランブラースタイルと同じ流れ。性能だけにこだわらず、カスタマイズしても楽しめるファッション的側面がある。
もちろん、デュアルパーパスなスクランブラーとしての機能を無視したわけではい。サスペンションのストローク量はフロントが150mmでリアは145mm。バーハンドルの幅は広く外乱をおさえこみやすいのもあって、ちょっと荒れた林道くらいなら覚悟することなく走り抜けられるものだ。最低地上高は165mmあって、前後のホイール外径が同じアドベンチャー、400Xの150mmより余裕がある。ちょっとした段差やガレ場でも行く気にさせる。
そう、冒険は遠いところにあらず、必要なのはその気になること。アバンチュールに排気量は関係ない。むしろ排気量が小さい方が一歩を踏み出すことに躊躇しなくていい。だから、CL250は身近な冒険者である。
ホンダ「CL250」カラーバリエーション
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