文:濱矢文夫、アドベンチャーズ編集部/写真:柴田直行
ロイヤルエンフィールド「ヒマラヤ」インプレ(濱矢文夫)
思いのままにコントロール出来るということは、正義である!
威圧感を感じてたじろぐ大きさではなく、でもライダーの上半身も下半身も窮屈にならず、幅の広いバーハンドルを掴むライディングポジションにストレスはない。このヒマラヤの魅力はこのちょうどいいサイズ感である。フロントに21インチサイズというオフロードでの走破性でメリットがあるホイールを履いていながら、シート高は800mm。同カテゴリーのバイクとしては低くおさえられているのも味方してくれる。
シングルカム2バルブの空冷4ストローク単気筒エンジンが発揮する、最大出力24.3PSと最大トルク32Nmという数値は飛び抜けたものじゃない。けれど、ロングストロークユニットらしいアイドリング付近からトコトコと前に進んでいけるトルクがあって困らない。
いや、その低中回転域でスルスルと進む感覚が心地いい。高回転まで引っ張って走るより、その心地よいところをキープしつつギアを上げていくとスムーズに速度が伸びる。正直にいえば "速い"という感想は出てこない。でも、やきもきするようなひ弱さはない。
このサイズ、ライディングポジションのちょうどよさとエンジンのちょうどよさとのバランスで構成された世界は十分だと納得させるもの。走らせているときの気分は、自分でも不思議なくらい高まった。シンプルに駆け抜けていくのを堪能できる。数値だけでバイクの魅力は判断できないという典型的な事象だ。二輪車に乗ることをおもしろいと感じさせる大きな要素に自由自在に操れているか否かというのがある。
「難しい」とか「大変だ」とか「怖い」とか思わせずに、ライダーの思いのままに動かせることが正義。いいに決まっている。舗装路のみならずいったいろんなシーンで頼りになるアドベンチャーなら特に大切だ。もちろんライダーの経験、運転テクニック、体格によってとらえかたは変わってくる。このヒマラヤには特別な電子制御技術などは使われていないけれど、より多くのライダーがそう感じさせる、多くの人が冒険に一歩踏み出してみようと思わせる、優しさがある。
走り抜けて初めておとずれた土地で、自分の好きな景色を探してウロウロするとき。ちょっと買い物に行こうというとき。狭い温泉街の道で方向転換するとき。目的地が林道の先にあるとき。このサイズと扱いやすさによって、さまざまな用途で躊躇することなく行動することができる。
カーブが連続するワインディングではたおやかなハンドリングで、素直にリーンする安定したコーナリング。インドのタイヤブランド、CEATのデュアルパーパスタイヤは、ブロックタイプでも、グリップしている感覚が掴みやすくコーナーリングスピードを上げてサスペンションに荷重をかけていってもすぐに破綻せず粘る。フロントに300mm、リアに240mmのディスクを使ったブレーキの制動能力は控えめながら足りないとは思わない。調節機構のないフロントフォークとプリロード調整が可能なリアサスペンションは当たりが柔らかい。適度なダンピングでクルーザーのようなしっとりとした乗り心地。
アクセルを大きく開けても、ドカっとトルクが出てくるのではなく、なだらかに加速を強めていくおだやかな所作。だから薄氷を踏むような気持ちになることなくトラクションをかけてイージーに前へと進ませられる。スーパースポーツならば評価は難しいが、デュアルパーパスツアラーには実に相性がいい性格。メーターパネルにあるボタンを押せばリアのABSが簡単にキャンセルできるので、積極的にダートを走りたいならそうしたほうが御しやすい。
前後の重量バランスがよく、滑りやすいダートでフロントタイヤがあっけなく外へ逃げていかず、21インチフロントタイヤを軸にリーンさせやすいのでダートでも積極的に走る気持ちになる。車重は199kgと軽くはない。しかしながらネガティブに感じさせないコントロール性の良さ。
ヘッドライトを保持するフレームマウントしたパイプガードや、二重になっているフロントフェンダーなどエキゾチックなスタイリングで、遠くからみてもすぐにロイヤルエンフィールドのヒマラヤだとわかる個性の強いルックス。それに反して乗ってみると特異だとか特別なところはない。そして大きく苦手なところもない。これが肝心だ。
プレートが備わり、リアシートと大きく段差にならないリアラックとリアシートにまたがり大きな荷物を乗せて、長い旅でもしたくなるまとまり。実用性も高い。これと並ぶくらい気軽にアスファルトだろうがトレイルだろうが走りたくなるアドベンチャーモデルはそんなに多くない。
いろんな機種があるなかでどれとも似ていないところがいい。ヒマラヤは誰が乗っても寛容で、初めてのライダーでも便利に使えて困らない。ゆえにパートナーとしておもしろい選択だ。