文:中村浩史/写真:森 浩輔
スーパーカブがいちばん快適なトップギア4速60km/h
それにしても現行スーパーカブ110は、まったくストレスのない走りをする。エンジンのフィーリングもフリクションがなく、特に低回転から中回転のスムーズさがいい。「ロングストロークになって高回転が回らなくなった」という意見もあるけれど、僕はそうは思わない。だってスーパーカブで高回転を回すなんて、変わり者のすること(笑)。カブはゆっくり、のんびり、しかも110ccの排気量があるのだから、まわりの交通の流れにもきちんと乗れるのだから。
新たに液晶表示部が新設されたスーパーカブのメーターには、スピード表示の内側に、1~4の数字が刻まれている。これは各ギアの受け持ち上限回転数、タコメーターでいうレッドゾーンを表わすもので、これによるとローギアは30km/h弱、2速が50km/h弱、3速が70km/h強、そしてトップ4速が100km/h弱、と記されている。
これは、レッドゾーンまで回して100km/hはOKと言うこと。もちろんダメですよ、高速道路に乗れないスーパーカブ110は、上限は60km/h。けれど、100km/hまでOKだということは、それだけ余裕のある60km/h走行ができる、ということなのだ。
発進からガチャンガチャンとシフトペダルを踏んづけて、4速60km/hのカブクルーズ。これが、エンジン回転数も「凪」に入って、風切り音もそこそこに、ロードノイズも気にならず、めっぽう気持ちがいい瞬間だ。きっとスーパーカブのエンジニアたちも、このスピード域を念頭に置いてギアレシオを決定したのだと思う。
スーパーカブというと、やはり乗ったことのない人にしてみれば、ギアチェンジの楽しさもない、シートも小さな、非力で退屈なオートバイだと思うのだろう。けれど、それが間違いだということに、早く気づけばいいのに。
スーパーカブに待望のキャストホイールとディスクブレーキが採用された
現行のスーパーカブ110は、2022年4月にモデルチェンジされた型式JA59と呼ばれるモデル。ちなみに兄弟車クロスカブ110はJA60、モデルチェンジ前のスーパーカブ110はJA44と呼ぶ。2009年登場の初代スーパーカブ110がJA07、2012年にモデルチェンジしてJA10、新規排気ガス規制をパスしたJA44、そして現行JA59は、つまり四代目といえる。
このJA59で、歴史的フルモデルチェンジを遂げた。なんとスーパーカブのベーシックモデルがキャストホイールを装着したのだ!
スーパーカブの初代モデルC100(車名は100だけれど50cc)が誕生した昭和33年から60年間、初めてキャストホイールを装着したのは、2018年発売のスーパーカブC125。ただしC125は、スーパーカブファミリーのスペシャルバージョン、いわば特別なゴージャスモデル的な位置と捉えられたため、キャストホイールも「特別な」装備だと捉えられていた。
けれど、スーパーカブへのキャストホイール装着は、カブファン長年の夢だった。キャストホイールということは、つまりチューブレスタイヤを履くことができて、ファン待望の「パンクしないカブ」または「パンクしにくいカブ」が完成したのだ。
さらにキャストホイールとセットで新たに採用されたのがフロントディスクブレーキ。これは、市販車はABSを装備しなければならない、という現行ルールに沿ったもので、こちらの方がスーパーカブ史では安全、安心という意味で重要なポイントだろう。
ちなみにキャストホイールの採用は、走りにそう変化は感じられなかった。もちろん、走行スピード域によっては、走りのしっかり感や剛性感があるのだろうけれど、一般道の最高速度60km/hでは「言われてみれば、しっかり感が少し出た……かな」というレベル。もちろん、段差を乗り越えたときの硬質感ははっきり感じられた。
キャストホイールよりも効果をはっきり感じられるのは、ディスクブレーキの方だ。制動力は及第点だが、タッチがスポンジーでブレーキングの強弱をつけにくいドラムブレーキよりも、ディスクブレーキははるかに効きが良く、コントロール性も高い。ABSの装備よりも、スーパーカブにディスクブレーキが、という組み合わせの方が事件なのだといえる。
JA07でPGM-FI(=フューエルインジェクション)の110ccが登場して、JA10で海外生産となり、JA44で国内生産に戻ってエンジンオイルフィルターを初装着。そして現行JA59でキャストホイール装着と、スーパーカブ110は、目立たないながら、節目節目ごとに歴史的発展を遂げているのだ。これでもう完成、モデルチェンジの必要すらなさそうだ。
さらに現行モデルJA59では、排気量をそのままに、スモールボア×ロングストロークエンジンを新搭載。JA44まではボア50×ストローク55.6mmだったエンジンが、現行JA59で47×63.1mmに改められ、比較すると高回転パワー型から低回転トルク型を狙い、カタログデータでは最高出力は同じまま、高回転を使わなくていいからか、WMTCモード燃費(二輪用国際基準燃費のこと。これまでの低地燃費データよりも実際の使い方に近い数値)では、JA44の67km/Lから、JA59では67.9km/Lとわずかながら向上している。
その最新スーパーカブ110を乗り回してみた。自宅から編集部までの片道20kmほどで通勤に、少し遠乗りして片道50km、そして半日乗りっぱなしで往復200km。毎日のように、猛暑の日も気持ちのいい秋晴れの日も、雨の日も走った。
総走行距離400kmオーバー。もちろん、最高速度は60km/h。制限速度を厳守して、無駄なブリッピングをせずに走ったら、満タン計測で1回給油72.3km/Lを記録してしまった! その時の平均燃費メーター表示は84.2km/Lだったけれど、大きな国道をよろよろ走るような極端な燃費走行をせずに、1タンクをフルに使って70km/Lオーバーとは!
ただし困ったのは、燃費がいいのは素晴らしいんだけれど、燃料タンクが小さいこと。スーパーカブ110の燃料タンクは4.1Lで、これちょっと少ないなぁ、と思ったのだ。
のんびり走って、走行200kmが給油の目安とは、ちょっと給油回数が増えてしまう。モンキーやDaxも含め、ビッグタンクの125ccなんて、新しい魅力になると思うのに。
交通手段や道具じゃない。愛車にできるオートバイ
今回、スーパーカブで走り回って気づいたことがある。スーパーカブって、昭和33年に発売された当時からずっと、人びとの暮らしに欠かせない交通手段だったり、そば屋、銀行、郵便局の仕事や通勤・通学の道具というイメージがあるけれど、今では110ccのミニバイク、ひとつのスタイルだと認識されていると思う。ストリートバイクであり、あえてロングツーリングに出たいオートバイのひとつだ。
スーパーカブといえば50cc、というのが誕生から60年もの間、思われていたニッポンの常識。けれど今では、スーパーカブといえば、最大排気量の110ccがスタンダード。スーパーカブ110はもはや「カブの大きいやつ」ではなく、スーパーカブ50が「カブの小さいやつ」。それくらい、スーパーカブ110はスタンダードとなっている。
もちろん、クルマの免許があれば乗れるという大きなメリットはなくなってしまうけれど、現在の交通社会での50ccの生きづらさを考えれば、日本の免許行政は、スーパーカブが乗れる免許をボトムライセンスとすべき──これ、時代に合わせたルール変更として、大げさではない提言です。
1962年、アメリカで人気爆発!
スーパーカブは、1959年にアメリカでの販売をスタート。当時のアメリカは完全なクルマ社会で、バイクはレジャーやレースに使われ、日本でいう暴走族「ブラックジャケット」、アウトローたちの遊び道具というイメージだった。
そこでホンダは、スーパーカブを従来の「ワル」イメージでないことをアピール。発売から3年後、現地で「ナイセストピープル」キャンペーン、「You meet the nicest people on a HONDA」=「ホンダに乗っているのはイイひとたちだよ」というキャンペーンを開始。赤いCA100(下の写真)に乗るナイセストピープルのポスターは、スーパーカブだけでなく、ホンダの認知度さえ爆発的に上げてみせた。