文:山口銀次郎/写真:柴田直行
アプリリア「RS660 エクストリーマ」インプレ(山口銀次郎)
走り出して直ぐに気づくハイポテンシャル
アプリリアのアッパーミドルスポーツモデルのエンジンは、あえて高出力化を追わず、並列2気筒というレイアウトを選択してテイスティかつ官能的なフィーリングを重視している。扱いやすく日常的なスペックに落ち着かせている様に見えるものの、車体造りはレーシングスペック&テクノロジーを駆使し、高次元のライディングに対応する意欲的なパッケージとなっている。
オーバー600ccのスーパースポーツモデルとしてはやや控えめな100PSの最高出力とし、ハイエンドでのパフォーマンス競争に重点を置いたのではなく、ストリートで扱いきれるパフォーマンスにフォーカスしたキャラクターなのかもしれない。当初はスーパースポーツモデル然としたスタイルから、サーキットに持ち込もうかと思ったものの、やはりメインユースとなる街乗りから峠のワインディングといったストリートにて試乗することにした。
シート高は820mmと高い設定で、引き締まった前後足回りと合わせると腰高感のある、最新スーパースポーツモデルらしい車体姿勢となっている。積極性溢れる足回りの設定に、「ストリートでの乗りやすさ」という点ではイメージとの乖離が激しく、少々慄いてしまった。ただ、セパレートハンドルの高さは低すぎず、ゆるい前傾姿勢に落ちついているので、窮屈感もなく長時間走行でも苦になら ないライディングポジションとなっている。
スタイリッシュかつスポーティに仕上げている車体(試乗車はSTDと比べさらに軽量化されたエクストリーマ仕様)は、ハイステップを踏むのに相応しいストイックなまでの軽量化が図られている。強靭な足回りでまとめ上げられた車体はとても軽く、まさにスーパースポーツモデルそのもの。ストリートでの走行性能だけでなく、さらに上の次元までカバーするクオリティであることは、走り出してから直ぐに感じることができた。
スペック上では控えめに感じる最高出力値であったが、低回転域からパンチの効いた押し出し感があり、元気溢れるエンジンだという印象。ワイルドにスロットル操作をしようものならフロントがポンポンと軽くリフトするほどの獰猛さを備えている。また、どんなエンジン回転数からでも強力に吹け上がる様は、強大なトルクと合わせ、元々軽量に仕上げている車体をさらに軽く感じさせるほどだ。
ガンガンにスロットルを煽るような峠のワインディングでは、「ここまで穏やかにいられるのか?」と疑うほど、 車体が外乱や衝撃に対し何事もなかったかの様に収束させてくれることに驚く。出力に対して許容ある足回りの仕事がきめ細やかであり、高負荷にもビクともしない強靭さをみせ、ハイレベルなステップワークを可能にしている。
頼り甲斐のある車体に身を委ねワインディングを走行していると、実にスマートであり落ち着いている事に気がついた。操作にラフさが出ようとも、最低限のアクションでイメージ通りのラインに修正することが可能な一体感も格別。高いポテンシャルを秘めた車体にも関わらず、手足の様に扱える小排気量車の様な従順さは、ストリートスポーツモデルの枠を完全に脱した存在と言っても過言ではないだろう。