※本企画はHeritage&Legends 2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。
絶版樹脂パーツを再現! 夢のプロジェクトが始動した
3Dプリンターでの製作物を最終製品として世に送り出そうというのは、m-techでのそれが2輪業界では初めてのことだろう。まずはその経緯を、同社代表の松本圭司さんに聞いてみた。
「そもそもアフターマーケット、それもウチが進める油冷車向けのような絶版車向けリプレイスパーツは数が見込めませんから、金型や射出成形による樹脂パーツの大量生産は見合いません。例えば、オイルシールが作りたい場合、1度に4個抜ける金型の製作費が仮に100万円として、ウチが在庫できるのはせいぜい100個単位でしょうから1個の価格に1万円の金型代が乗る。そんなオイルシール、誰が買うかって話ですよね。
でも、純正部品が廃番になり、困っているお客さんを思えばなんとかしたい。模索する内に3Dプリンターに辿り着きました。最新プリンターを使えば、当時と遜色ない樹脂パーツが多品種少量生産できる。そう確信して、今回のプロジェクトを立ち上げました」
使うのは米国・ストラタシス(stratasys)社製。工業用3Dプリンターを販売した世界初の企業だ。
「私が謳う〝リバースエンジニアリング〟は最新のスキャナーを使い元パーツを計測して、3Dプリンターで製品に落とし込む作業。 よくある家庭用3Dプリンターは粉体樹脂素材を使ったFDM(熱溶解積層)方式ですが、弊社で使うのは紫外線で液状樹脂素材を固めて造形するDLP(光造形)方式。DLPは精度が良いとされ、寸法精度の高いモノ、表面粗さを綺麗に整えたいモノの造形に適します。一般に強度はFDMに分がありますが、弊社が使うストラタシス社のOrigin-oneは最適素材を駆使して最終製品造形の高速化、量産化に適応するシステム。高強度、高い衝撃耐性、弾性、耐候性に優れた素材を使い、従来のDLP方式の3Dプリンターの常識を覆すものなんです。
ただし、用途はバイク用。屋外での耐候性や耐熱性、耐油性が必要で、現在は次々と試作品を作り、試験を繰り返している最中です。
製品化に関して言えば、油冷車のハーネスに使うカプラーをまず作りたい。GSX-R750RK用のメインハーネスはすでにラインナップして販売中ですから、それ以外。油冷前期型の750/1100と後期型のそれ、乾式クラッチのRR用の、4種のハーネスを早期に揃えたい。
ユーザーへの直接対応はまだ壁が高いのですが、まずは同業の皆さんからもパートナーを募りたいですね。データ制作料は金型代の半分程度になりますし、あとは材料費だけ。大幅なコスト圧縮が図れます。3DのCADデータが作れるなら、データ制作料も圧縮できますよ」
実際に、すでに4輪のショップからの依頼も複数ある。m-techではレジンメーカーともバイク用に適した素材開発も進め、データと経験の集積で純正リプレイスパーツの領域の拡大を狙う。遠くない将来には、インシュレーターのようなゴムパーツも、少量生産が実現できるかもしれない。入手できなくなったパーツをDプリンターで再現する……。その取り組みは、絶版車ファンに朗報だ。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
W:200㎜×D:300㎜×H:600㎜に収まる立方体なら、多様なレジンを駆使して形状再現可能な最新3Dプリンター
▲最上段の写真が3Dプリンター内部。コネクターの試作品が足(サポート)付きで完成してレジン槽(写真では見えないが)から引き上げられた状態だ。量産となれば、コネクター程度のサイズのものなら何層もぶら下げて一挙に生産できるという。中段はレジン例。左は耐熱性、右は絶縁耐力が高いもの。ほかにも高靱性や柔軟性に富むものなど、現状でもレジンのバリエーションは豊富に揃えられる。後は使い方、と松本さん。下段は製作用のCADデータだ。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
複雑な造形のカプラーを製作できればメインハーネスもラインナップ拡充可能というわけだ!
▲カプラーの試作例。ツメ部分など、細かな再現性に注目したい。メインハーネスは耐熱性が必要な箇所もあるからと、現在は屋外放置など耐候性も含めてテストの真っ最中だ。
▲m-techで販売中のGSX-R750RK用メインハーネス。RK用は汎用性の高いカプラーが使われていたのでぐに製品化できたが、以外の油冷GSX-R用は製作できなかった。3Dプリンターの導入でカプラー製品化に目処が立てば、一気に油冷機向けバリエーションは拡大するはずだ。
▲「油冷GSX-R用メインハーネスをすべて揃える取り組みも、いよいよ実現します」と松本圭司代表。これが完成すれば、メーカー問わず多くの絶版車向けハーネス類は同様に再現可能になるはずだ。ユーザー個別の対応(ワンオフ)の壁は高いが、BtoB(企業間取り引き)は現実的なもの。お困りのショップさんがいれば相談してほしい、と松本さん。
▲上写真の2点は’80年代の名車、ルノー5ターボⅡのリヤウィンドウノブ製作例。こちらは4輪ショップからの依頼品で現在テスト中という。ともに左上側が経年劣化した純正部品で、右下がm-techによる新作品だ。
▲試作品のグリップも見せてくれた。よりゴム素材に近い、柔軟なエラストマー系樹脂でプリントすれば、実際のグリップと感触は変わらないものが出来上がるそうだ。