時代の波に消えた4気筒400ccモデル
CB400FourのルーツとなったCB350Fourがデビューしたのは1972年6月。1969年デビューのナナハンこと、CB750Fourで採用された「並列4気筒」エンジンを、500ccのCB500Fourに続いてミドルクラスにも、と投入されたモデルだった。
当時のミドルクラスは、まだ「400cc」以上と以下に分類されておらず、その区分けは1975年に自動二輪免許が「中型」と「大型」に区分けされてからだ。
そのミドルクラスは、当時2ストロークモデルが多いクラスだった。よく知られているように2ストロークエンジンは小排気量で出力を出しやすく、エンジン構成部品も少ないことから、シンプルな構造とすることができて、メーカーも開発、製造、販売をしやすかったためだろう。
そこにホンダが4ストロークモデル、しかも並列4気筒という当時の超ハイメカエンジンを投入したのは、まさにホンダの技術屋魂の現われだろう。60年代の世界グランプリレースを4ストロークのRCシリーズで制し、さらに2ストロークエンジンが当たり前の世界グランプリ500ccレースに、4ストロークエンジン車NR500で挑み始めたのは、ナナハン発売の約10年後のことである。
そのCB350Fourは、営業的に成功したとは言い難いものだった。
「排気量が中途半端でエンジンパワーが足りなかった。フィメールバイク(=女性のバイク)なんて言われて思うように売れなかったんです」と言うのは、当時CB350Fourのデザインを担当したデザイナー、佐藤允弥(まさひろ)さん。(※出展:日本出版 Honda DESIGN 以下同)
そこで排気量を上げよう、と開発をスタートしたのがCB400Four。免許制度の改正前だったため、排気量はボアを4mm広げて408ccとして、ロングタンクを備えたカフェレーサースタイルで登場したヨンフォアは、350Fourから一転、大人気で市場に迎え入れられたのだ。
「ナナハンスタイルの350Fourはコストがかかって儲からないと言われて、400Fourはコスト面に制約があった。集合マフラーにしたのはコストが理由のひとつで、こうすれば4本出しマフラーの4分の1で済みますからね。燃料タンクは通常3ピースで構成されていたんですが、400Fourでは2ピースに、タンクやサイドカバーにエンブレムなどの飾りがなく、文字や車名もステッカーにしました」(佐藤允弥さん)
しかしCB400Fourも、これも営業的に成功したモデルとは言い難く、398ccのCB400Four1/2も、わずか2年ほどしか販売されないものだった。販売台数は、398cc化されたCB400Four1/2で6000台強。人気はあったものの、決して「売れた」モデルではなかったのだ。
ちなみにCB350Fourの国内登録台数は1万1000台強で、CB400Fourの不振は、ホンダが懸念したコスト高による高価な車両価格も原因のひとつだっただろう。なにしろCB400Fourの発売時販売価格は32万7000円。同クラスのライバルであるヤマハRD350は23万円、カワサキ350SSは23万8000円、スズキGT380は24万5000円だったからだ。
そのCB400Fourが生産終了した後、ホンダが77年5月に発売した400ccモデルがホークⅡ、CB400Tだ。ホークⅡは、400Fourの並列4気筒から2気筒エンジンに変更。マルチシリンダーというハイメカがなくなるかわりに、ボア×ストローク=70.5×50.6mmの超ショートストロークエンジンを採用。吸気2バルブ/排気1バルブというSOHC3バルブエンジンを採用し、400Fourが37ps/8500rpmだったのに対し、ホークⅡは40ps/9500rpmをマーク。4気筒よりパワフル、4気筒より速い2気筒、さらに価格も400Fourより安い31万9000円に仕上げていた。
完全新設計のニューモデルで、350Fourをベースとした400Fourを下回る価格としたのが、コスト高で生産終了したと言われる400Fourの教訓を活かした、ホンダの意地だったのかもしれない。
「加速性能と最高速に関してなら、2ストロークも含めて、ホークⅡがクラス最速なのは間違いない。マシン全体の設計の良さもあって、あらゆる道路を平均して速く、疲れずに走ろうとするライダーに向いた車である」(月刊オートバイ78年5月号より)
この頃の400ccは、74年デビューのカワサキZ400、76年デビューのスズキGS400、77年デビューのヤマハGX400と空冷4ストローク並列ツインの時代。CB400Fourを最後に、4気筒マシンなきあとの高性能競争が始まっていたが、ついに1979年、ライダー待望の4気筒モデルが復活する――それがカワサキZ400FXだった。
<つづく>
写真/モーターマガジンアーカイブ 文責/中村浩史