新TIGER900シリーズは3パターンのバージョンモデルを用意。主に舗装路での走行をターゲットにしたフロント19インチ、リア17インチのキャストホイール仕様のGT。そのGTにプリロード&リバウンドを電子調整可能としたマルゾッキ製リアショックを装備したGT−Pro。最後に、ラフロードでの走破性を高めたRally-Proは、フロントで240mm(GT比:60mm延長)、リアで230mm(GT比:60mm延長)のホイールトラベルを確保する、ショーワ製ショックを採用している。
文:山口銀次郎/写真:岩瀬孝昌
トライアンフ新型「タイガー900ラリー プロ」インプレ
今回の試乗は、普段走行が許されない採石場と、一般公道の2パターンをそれぞれのシチュエーションに合ったバージョンモデルで行った。
まず、滅多に走行が出来ない採石場では、TIGER900Rally-Proを試乗。採石場という特殊な試乗コースは、主に砕石する現場ごとを結ぶ通路を使用。その通路は曲がりくねり勾配がキツイ上に、巨大な重ダンプが行き交いオフロードとはいえアスファルトばりに硬く締まったもので(轍も大いにあり)、更にその上に砂利や砂が蓄積しているといった、かなりリスキーでテクニカルな路面となっている。
試乗車となったTIGER900Rally-Proには、標準装備とは異なるオフロード走行を想定したタイヤがチョイスされていたが、土っくれを掴み掻き進むといった性能が発揮されるコンディションとはかけ離れ、試乗コースとの相性は良い様には思えなかった。乗り手は慎重な走行だけではなく、ボディバランス&ボディアクションはもとより、思いきりの良さも必要とする。怖気付いて消極的な走りでは、リアタイヤがスリップして坂道を登らなかったり。また、イイ気になってスロットルを開け気味にすると無慈悲にグリップ力を失い、惰性と車重の抑制が効かなくなることも。
「万人がハイテク機能フル活用で楽しく走破できる!」といった状況下ではないので、正直インプレどころではないな〜と思いながら走行をスタート。アッパーミドルクラスならではの重量感はあるものの、立ち気味のフロントフォークセットにより軽快なハンドリングと、エンジンの存在感が突出しない車体の一体感が新鮮である。つまり、なかなか攻めた車体姿勢と言っても良いかもしれない。前後共にストロークトラベルを大幅に確保したショックアブソーバー(以下:ショック)を採用し腰高感があるにも関わらず、意思と入力に対して淀みなく鋭く応えてくれる従順さを備えている。
解った様に記しているが、慎重に慎重を重ねたからこそ手応えであり、勢い任せで乗っていては感じ取れなかった部分かもしれない。実際にペースを上げての走行では、前後のショックが実に良い仕事をこなしてくれ、イケイケ気分になるというもの。水はけを考慮し左右どちらかに極端に傾斜しており、更に砂が覆う轍があったりする坂道のカーブも、キメ細やかかつ大胆なストローク運動で衝撃や外乱を収束させるのである。そのショックの仕事っぷりは、もはや一辺倒に柔らかい硬いといったものではなく、ショックストロークの深度によって求められるベストな作用により導き出されているとしか表現できない。その恩恵は、減速や推進力を生むベストな車体姿勢を保ってくれるので、繊細かつ機敏な操作にも落ち着き払い応えてくれるのだ。
ラフな操作は禁物の状況下で、シビアなタッチに応えてくれるエンジンのツキと、ブレーキの効きは格別と言えよう。むしろ、タフな環境での走行で輝きを放つ、この繊細に応えるコントロール系の進化こそ今回のモデルチェンジのハイライトだったのかもしれない。「リニア」という一言では済まない、それぞれの絶妙なタッチでコントロールするその先にある最大の効果を導き出してくれるのだ。ただ反応するだけなら驚きに値しないが、過度ではない「出力と抑制」「ダルさと滑らかさ」が、様々なシチュエーションで次の一手に求められる答えとして調度良い、調度良すぎるのだ。
しかも、競技車両の様に攻めの姿勢が強すぎるキャラクターで疲労に繋がるということがない、アドベンチャーモデルならではの重厚な車体にマッチした上質な乗り心地があるというのも特筆するポイントだ。走りはキビキビと応えつつ、根底にあるラグジュアリー感は揺るがない個性としている。国内では現実的ではないが、不整地を延々と長距離走行をするラリーでこそ真価が発揮するのかもしれないと妄想が盛り上がる、そんな試乗であった。
トライアンフ新型「タイガー900GT プロ」インプレ
車両を入れ替え、一般公道ではリアにプリロード&リバウンドを電子調整可能としたマルゾッキ製リアショックを装備したTIGER900 GT−Proを試乗。先に、せっかくの電子調整可能な贅沢なリアショックを装備していたのだが、試乗時間に限りがあり、その恩恵をじっくり堪能するには至らなかったとお伝えする。
自分好みや状況によって手軽に足回りをアジャストできるのは大きな魅力だが、採石場を走行したTIGER900 Rally-Proの足回りに対して絶大的な信頼と、高いパフォーマンスを体感した後だったために「自分好み」といった贅沢な意識がまるっきりなく、あるがまま、標準設定そのまんまで試乗することに。
当然、悪くない! Rally-Proの前後ショーワ製のショックに対し、GT−Proの前後マルゾッキ製だったとしても、また走行するメインステージが変わろうとも、作り手が新TIGER900に求める進化したイメージはブレることはなく、上質な走りを提供する仕上がりをみせていた。
フラッと走り出しただけでも、トライアンフのアドベンチャーモデルのフラッグシップと言っても過言ではない、重厚感とラグジュアリー感を湛え、すこぶるつきの快適空間を創り出しているのがわかる。兄貴分の1200を差し置いての出しゃ張り感と言えるほどの完成度だ。
少々お袈裟な表現と思われるかもしれないが、長距離走行をものともしない旅バイクのアドベンチャーモデルとして、ケチの付けようがないのが率直な答えだ。
足長化が図られたRally-Proに対し、ホイールトラベルは前後で60mmのショートストローク(とはいっても、フロント:180mm、リア:170mmを確保)となり、また19インチ化したフロントホイールを装備する。そんなスペック上ではロードスポーツモデル色を強めている様に思えるが、数値以上の重心の低さと、フロントフォークがより寝ているかの様な、路面に張り付く落ち着きっぷりに溢れているのだ。ロードモデルで言うところのスポーツモデル寄りフィーリングがRally-Proであり、ツアラー色が濃厚なのがGT−Proといったところ。キャストホイールで前後19インチなのにも関わらずなのに、不思議だね。
もちろん、問題は一切なし! あえて不等間隔点火のTプレーンクランクを採用し、不整脈パルスと蹴り出し感が楽しめる個性的なトリプルエンジンは、パワーもスケールアップし申し分なし。良い意味でも悪意味でも、重箱の隅を突く感想を捻り出すには、リッチに時間を使い距離を伸ばして堪能せねばと心得るのである。