※本企画はHeritage&Legends 2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。
ユーザーの不安を減らし次の安心を作るメニュー
愛車のリフレッシュをいつやるか。気がついた時、ツーリングをした時、不調を感じた時……。走行距離や時間で決める方法もあるだろう。でも、具体的に何をするのか。そんな漠然とした不安を持つ向きに注目してほしいのが、バグースモーターサイクルの「車検バイクドック」だ。2年に1度受ける必要のある車検のタイミングで、上に示したような人間ドック的な検査メニューを施す。
「元々は車検で入庫する車両に“ここも交換/整備した方がいい”という箇所が見られる。それを“次でいいです”と言われることが多かったんですね。そこを作業しておけばいい状態になるのになあという気持ちになって。それでセットにして、ここに入れた作業は削らない、必ずやると。それで10年くらい前から行っています」
バグース・土屋さんは言う。車検では継続検査や保険の延長といったことが行われるのは周知としても、それ以外はある意味、お店次第。ちょっと突っ込んでお客さんに聞いていくと、「車検で入庫したけれど、車検場に持っていくのと書類の手続きだけだった」というケースもあるという。
「考え方はいろいろあるんでしょうけど、せっかくの整備タイミングをお店もお客さんも逃がしていることになるし、バイクのことをよく知らないお客さんにももっと安心してほしい。車両も預けてもらうわけですから、ただ預かるだけでなく、その間にできる作業をやればこちらも無駄がない。
始めてからは問い合わせも多いですし、人気があります。お客さんにも車検の時に整備をしたいという考えの方は多くて、でも何をすればいいかはまとまっていないので、これを受けようと考えていたんだと思います。その背中を押してあげる感じになったんでしょう」
車検で車両を預かるのを整備のタイミングにする。メニュー化されたざっと12のチェック/作業は、どれも簡単そうに見えるけれど、プロによる確実な内容で、受けたいと思える重要項目ばかり。
個別には劣化の症状が出れば行いたいけれど、その判断も難しい(ホイールベアリングはその筆頭だろう)作業もある。それを2年に1度行えるなら、車両の好調維持にもなるし、安心度も高くなる。それがこの作業例に挙げたようなゼファー750や1100、GPZ900R、ZRXシリーズや油冷といった絶版車を主な対象としている点も、支持される要因だ。
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ドックをきっかけに追加の整備やカスタムも進む
車検バイクドックにかかる期間は1週間。車検を通し、ここで見せてくれたような作業を行うが、現行車ならまだしも、こうした絶版車対象に車検費用込みで15万4000円(水冷16万5000円)という価格は、大サービスだ。
土屋さんは「車検バイクドックをきっかけに、来店のための入り口的にお客さんがお店に来てくれればいいです」と言う。なかなか行き場がなくなってきた絶版車オーナーが、気軽に作業を依頼したり、パーツの相談や購入を出来る場としてのショップとして。
逆にショップ側としては、このドック入庫をきっかけに、個々の車両にもっと施してほしい作業も出てくるという。実際にメニューをこなす中でオーナーの希望と、バグース側の要望が重なって、ワンステップ、またはその先に進んだ作業に進む車両の例も多い。
例えばステムベアリングの交換で外したフロントフォークをオーバーホールする。リヤショックも合わせてオーバーホール、セッティング。ピボットやアクスルなどシャフトを外すなら、この際だからクロモリシャフトに換えてみたいという要望に応える。ドックの作業がユーザーのやりたかったことのきっかけ作りになる。
お店側でも、作業の中で見つける劣化パートをお客さんに報告する。プラグ交換時に分かるオイルのにじみ。ゼファー750の前期型だとシリンダー横に入るオイルライン用Oリングの潰れが原因で起こるから、相談した上でシリンダーベースガスケットを交換。1100ならシリンダーヘッドガスケットを。報告を受けたお客さんもどうせなら、と対策やスープアップメニューに進むことも多い。
ブレーキパッドの点検でキャリパーを外して見つかるキャリパーピストンからのオイルにじみも報告して追加で対処する。「ついつい見つけてしまうから」と土屋さんは笑顔で言うが、それはただドックの対象部分だけでなく、周辺まできちんと見ながら作業しているからだ。本来の整備とは、こういうことだと考えさせられる。
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長く愛車を楽しむ入り口となる提案
バグースのリフレッシュへの考えを反映したオリジナルパーツも、続々新作される。土屋さんが「売れなかったら自分が一生乗る分で使い切るつもり」と製作したブレーキディスクは、次ロットを製作中。エンジンまわりも、再利用が出来ないケースが増えたこと(オーバーサイズ品がなく圧入しろが取れない)等から、焼結合金製オーバーサイズバルブガイドを製作した。
合わせてゼファー750用ビッグバルブを製作、ゼファー1100には弱点とされてきたミッションのクリアランス調整用シム(一部純正廃番)を製作。「ゼファーオーナーでもある自分が困るから」と土屋さんはパーツを次々考え出して作るのだが、同じ思いを抱くユーザーやショップがそれを知り、使ってくれることを考えれば、この路線は当たりだ。
バグースが先頃確立したゼファー・コンプリートも同じ考えにある。写真のゼファー750はここまでに説明してきたバグース・車検バイクドックのメニューを施すとともにエンジンもオーバーホール。さらにカスタムメニューを加えた、いわばコンプリート車として製作されたもの。それが一度納車した後、内容を気に入ったオーナーが改めてメーターの変更など、好みを深めた追加カスタムを行うために入庫したものだ。各部にはバグースオリジナルパーツも効果的に使われる。
使用中の車両なのに、驚くほど押し引きが軽い。土屋さんは「組み付けの順番やドライブチェーンの520化なども効いていると思います」とも教えてくれるが、この軽さは特筆。まさにリフレッシュの効果ありといった部分だ。
パーツからでも、車検バイクドックからでも。リフレッシュ/カスタムの効果がこういう具合に効いてくるなら、そのきっかけとなる車検バイクドックは受けてみたくなる。バグース/土屋さんが言う「お店に来るための入り口」。それは、愛車を復調させた上でより発展させて、長く楽しむための入り口ということ。まず入って、愛車との付き合いをより深めたい。
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他パートのリフレッシュや性能アップにつながる作業もあり
エンジンオイル交換
エンジンオイルはバグースで使用推奨するアッシュFSを指定量交換。走行距離や時間での管理もいいが、車検というタイミングでリセットしておけば次回交換時期も分かりやすい。汚れ方で異常が分かることもあるし、新しいオイルはとにかくいい。
オイルフィルター交換
オイルフィルター(エレメント)もこの機に交換。取付ボルト(写真右側、フィルターカバー/スプリングに刺さった状態)に右写真のように入るワッシャが左写真のようにフィルターに密着して一見ないように見えることがあるが、きちんと正規の位置にする。
フロントブレーキフルード交換
フロントブレーキフルードも交換。本来ほぼ透明だが、使用による熱や湿気の影響で色が付いていく。そうなるとタッチや効きが落ちていくので、これも車検のタイミングで交換だ。
リザーバータンクのボルトは+ヘッドでなめやすい。こうした配慮のもとに作業してもらえるのも安心だ。
純正やリザーバータンク一体式マスターで通常なら点検窓から見えるフルードの色を目視して交換タイミングを判断する。
リヤブレーキフルード交換
リヤブレーキフルードも新品交換。ゼファー750の純正はシートレールが始まるところの右側に半透明樹脂製の別体リザーバーがある(ゼファー1100も同じ)ので、シートを外しキャップを開けて作業する。
クラッチフルード交換
ゼファー750はワイヤ式クラッチだが、ゼファー1100やGPZ900R、ZRXシリーズは油圧式のため、合わせてクラッチフルードも交換。クラッチの切れやタッチが取り戻せるし、これも必要なリフレッシュ
前後ブレーキパッド点検
前後のブレーキは純正でも写真のブレンボなど社外品でもパッドの残量や当たりを点検する。残量が少なかったり異常があればオーナーに連絡した上で交換する。キャリパーピストン周部にフルードにじみが見つかった場合は別料金で修理の追加も。
エンジンのオイル漏れや周辺の劣化対策依頼も多い
オイル漏れはゼファー1100ではシリンダーヘッドに見られ、ヘッドガスケット交換へ進む。開けるついでにヘッド見直しやオーバーホール、750では810~850cc化などに進むケースもある。インシュレーターの硬化やヒビから交換、配線類硬化→折れ(左、ゼファー750のパルサーコイルからのものが硬化しやすい)等の対策も行いたい。
点火プラグ交換
点火プラグは交換。
ゼファー750は前期型でシリンダー横からのオイル漏れが見られることがあるが、オイル通路のOリング(指示部)のつぶれが原因で、Oリングとシリンダーベースガスケット交換必須になる。
外したフロントフォークの同時オーバーホールも有効/ステムベアリング交換
軽快で確実なステアリングの動きを保つステムベアリング交換は作業のひとつの目玉かも。トップブリッジ下に入るアッパー、アンダーブラケット上に付くロアとも交換してグリス塗布して組む
上写真は上が取り外したアッパーステムベアリングの下側レース(受け皿)とローラーベアリング本体。奥はロアの上側レース。レースにはベアリングが強く当たった跡の縦溝が見えるので要交換だ。
ステムを外す際にフロントフォークも外すから、合わせてフォークオーバーホールを別途依頼されるケースも多いという。オイル漏れを発見することも多く、しっかりした足まわりを狙うなら当然頼みたい。
新品やクロモリ品への交換もあり/アクスルシャフト点検&グリスアップ
フロントホイールをフロントフォークにつなぐフロントアクスルシャフト、同じくリヤホイールをスイングアームにセットするリヤアクスルは抜いて点検、大丈夫ならグリスアップして組み付け。曲がりや重いサビがあれば交換(別料金)。正しい組み付けも分かるし、好みでこの際にとクロモリシャフトに換えるのもいい
フロントホイールベアリング交換/リヤホイールベアリング交換
フロントホイールおよびリヤホイールのベアリングは交換。シール付きで保つものだろうと考えがちだし、一見スムーズに見えても内部が壊れていてゴロゴロしていたり、意外とダメージを受けているパーツでもある。これもありがたいリフレッシュメニューだ。
ピボットシャフト点検/グリスアップ
スイングアームをマウントするスイングアームピボットシャフトも点検&グリスアップして組み付け。ナットの逆側から同じシャフトを入れて押し出しながら確認。写真のようにサビが出たり曲がっていたりすることもあるので、状態により交換に進む(別料金)。抜いたついでという部分もあるが、動きによってはスイングアーム側のピボットベアリング交換もあるという。
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リフレッシュの役に立つオリジナルパーツも続々と追加中
「ここがこうなるといい」「こうすると便利」という視点で作られるバグースのオリジナルパーツ群。経年対応しつつ機能向上というものが次々出てきているので近作を紹介しよう。
Bagus! テンプメーターステー“まるみえ君”はヨシムラ・プログレスメーターをバグースステムキットのセンターに置けて、絶妙な角度設定で油温がいつも見やすいマウント。プログレス1用、2用あり、各4620円。
スロットルキット(仮称)は巻き取り部の飛び出しを抑えたデザインにスロットルワイヤがメーターに干渉しにくいレイアウト、適度な開閉レスポンスを狙った新パーツ。開発進行中。
ゼファー1100ミッションシムセット(t1.0/t1.6/t2.3)は、ゼファー1100のミッションでスムーズな回転やシフトのための適正クリアランスを得るのに必要な厚みのもの(一部純正廃番)を製作しセットで販売。要問い合わせ。
右はBagus! 汎用バルブガイド0.5mmオーバーサイズ 8本セット。純正にないオーバーサイズ品で圧入しろを取った。焼結合金製ですぐ使える。ゼファー1100/750、Z系用。1万7380円。右はゼファー750用ビッグバルブ(要問い合わせ)。
Bagus! テールランプブラケット GPZ900R用 TypeA“ツライチ”はGPZ900R純正の少し飛び出たテールランプをカウルと面一にするステー。写真左側のパーツ。廃番のラバーダンパー付属で1万780円。右に見える2枚のプレートはシートロックカバーで、純正の樹脂が割れた際に交換できる。5280円。