文:宮崎敬一郎、オートバイ編集部/写真:赤松 孝、南 孝幸
ヤマハ「XSR900 GP ABS」インプレ(宮崎敬一郎)
峠が愉しくなる走りの絶妙なサジ加減が光る
この増設されたカウルは、最初期型のTZR250(1KT)を思わせる。純正アクセサリーのシングルシートカウルは1980年代中頃の耐久レーサーや市販レーサーのイメージ…その当時を知るオヤジたちが見ると、そんな懐かしい気持ちを抱いてしまう。
だが、XSR900 GPが持つ魅力はそんなルックスが醸し出す「古典的な勇ましさ」だけではない。
XSR900から大きくグレードアップされた、作動性のいい前後のサス。それにシャシーのチューニングや、カウルのお陰でフロント荷重が増えたことによるハンドリングの変化などで、17万6000円のプライス差以上の走りをしてくれるのだ。
まずフロントフォークだが、片側が伸び、片側が圧減衰になっているスタンダードに対してGPは両方に伸びと圧の減衰調整機構を持ち、圧側に関しては低速と高速をそれぞれ調整可能だ。リアショックは外部ダイヤルでプリロードが調整できて、圧側減衰もアジャストできる。もちろんスタンダードのXSR同様、伸び側も調整可能だ。
今時、スーパースポーツでさえ、低速、高速減衰を独立して調整できるサスを採用しているモデルは少ない。この調整が出来ることで、クイックなコースでの切り返しや高速コーナーでの接地力、それに常用域での乗り心地を大きく向上させることができる。
しかも、この前後サスは基本性能そのものがかなり良く、走り出せはすぐに分かるほど、ショックのスムーズな作動性が光っていた。つまり、乗り心地が段違いにいいのだ。
ヤマハはこのGPを「スポーツヘリテージ」というジャンルにまとめている。しかし、走りの実力はYZF-R7の上を行くスタンダードスーパースポーツだ。しかも無駄に尖ったところはどこにもない。使い切れる「程よさ」がエンジンにもシャシーにもある。
ベースであるMT-09の雑味の多いパワードライバビリティを想像してはいけない。XSRシリーズはスイングアームを少し長くして、落ち着きのいいコーナリング中の応答性(スロットルのオンオフに対し)を手に入れている。加えてGPはエンジンハンガーの板厚変更など、剛性バランスも見直され、カウルというウエイトまでついている。
キビキビと身を翻す軽快さはマイルドになっているが、峠道でのスタビリティ、強引な操作に対する許容の深さは格段に向上している。足まわりの完成度が高いので、サーキットで楽しみたいライダーにもこのGPは応えてくれるだろう。一方で、峠道を駆け足で流したいライダーには、MTやスタンダードのXSRよりずっと深堀りのきく走りを提供してくれる。
このクラスの中で、GPは特異な存在だ。レトロな出で立ちだが、その実は丁寧に作られた、程よいサジ加減のスポーツバイク。久しぶりに峠道が愉しいバイクだった。
ヤマハ「XSR900 GP ABS」カラーバリエーション
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