XSR900 GPは、2022年デビューのXSR900の外観違いのモデル…と捉える人は多いと思うが、GPは単なるカウル付きのモデルではない。この2台が誕生した背景には、ヤマハのレーシングヘリテージに対する、開発陣の熱い想いが詰まった“ストーリー”があるのだ。この記事から5回に分けて、XSR900とXSR900 GPの開発メンバーの皆さんにお話を伺いながら、その想いに迫っていく。
写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部

開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(1/5)

画像: 橋本直親氏 ヤマハ発動機株式会社 PF車両ユニット PF車両開発統括部 SV開発部 2005年入社。車体設計として2009年、2015年のYZF-R1等を担当、2009年から2012年はMotoGPマシン・YZR-M1の空力面を担当。その後は、イタリアでMT-07、トレーサー700、テネレ700などの開発に携わり、帰国後にXSR900系のPLとなる。

橋本直親
ヤマハ発動機株式会社
PF車両ユニット PF車両開発統括部
SV開発部

2005年入社。車体設計として2009年、2015年のYZF-R1等を担当、2009年から2012年はMotoGPマシン・YZR-M1の空力面を担当。その後は、イタリアでMT-07、トレーサー700、テネレ700などの開発に携わり、帰国後にXSR900系のPLとなる。

安田将啓
ヤマハ発動機株式会社
クリエイティブ本部 
プロダクトデザイン部

2008年入社。XMAX、トレーサー9GT、NIKEN、2代目と先代のMT-09などのデザイン企画を担当。XSR900は初代から携わり、2022年に登場した2代目(現行モデル)も担当している。

武田知弥
ヤマハ発動機株式会社
ランドモビリティ事業本部 MC事業部 
グローバルブランディング統括部 企画推進部

2020年入社。MT-07、MT-09、MT-10のほか、2023年登場のXSR125の商品企画や、商標関連の業務に携わる。

ブランドの「原点」を追求する中でたどり着いた「レーシングヘリテージ」

「初代のXSR900は、お客様の評価がとても良いモデルでした。デビューした2016年当時はヘリテージというジャンルのブームが広がる直前の時期で、初代XSR900はちょうどそんなタイミングで出たモデルでしたが、その後各社からかつてのバイクをオマージュしたモデルがたくさん出るようになり、群雄割拠の状態になったことで『僕ら(ヤマハ)が過去から受け継ぐヒストリーやストーリーの強い部分って何だろう?』というところに立ち返ることになったんです」

そう語ってくれたのはデザイナーの安田氏。

現在では押しも押されぬ人気カテゴリーのひとつになったヘリテージであるが、各社が往年の名車をモチーフにしたモデルをリリースしてくる中で、2代目となる現行型のXSR900を開発するにあたり、開発陣は自分たちのブランドの中にある「原点」を追い求めることから始めていった。そうして、彼らがたどりついた答が「レーシングヘリテージ」だった。

画像: YAMAHA XSR900 ABS 2024年モデル 総排気量:888cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 シート高:810mm 車両重量:193kg 発売日:2024年5月20日 税込価格:125万4000円

YAMAHA
XSR900 ABS
2024年モデル

総排気量:888cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
シート高:810mm
車両重量:193kg

発売日:2024年5月20日
税込価格:125万4000円

「レースというのは、自分たちのマシンの性能を証明していくためのものだけではなく、技術の進化を追求するためのレースであったり、ある意味ではエンターテインメントとしてのレースであったりもするわけです。そんなレースに、ヤマハはずっと挑戦し続けている。このレースという『文脈』は、僕らでないと表現しきれないことなんじゃないか、と考えたわけです(安田氏)」

こうして、2代目XSR900のマシンコンセプトは「レーシングヘリテージ」に決まった。そのインスピレーションの源となったのは、ケニー・ロバーツ、クリスチャン・サロン、ランディ・マモラ、エディ・ローソン、ウェイン・レイニーなど、錚々たる顔ぶれが揃い、WGPのトップカテゴリーである500ccクラスにおいて栄光の座を欲しいままにしたヤマハ黄金期・1980年代のWGPレーサーであるYZR500である。

「デルタボックスフレームに代表される、勝つための試行錯誤や人機官能の追求が実を結び始めた1980年代のものづくり、開発思想を現代の技術で再現したいと考えました(武田氏)」

こう聞くと、XSR900の開発はスムーズにスタートしたように感じるかもしれないが、実はその道のりには、かなりの苦闘と試行錯誤があったようだ。

開発陣は2代目XSR900のコンセプトを「レーシングヘリテージ」に定めてはいたのだが、実はクレイモデルを見て、デザインの見直しをすることになったのだという。

「実はそのとき開発していたモデルのスタイリングは、最終的に2022年にデビューを果たしたスタンダードのXSR900に比べるとレースの『文脈』が弱いもので、ともすればおしゃれなバイクとも取れるレベルに調整してしまっていたんです。一旦スケッチではそれでいこう、とはなったのですが、クレイモデルを造り、それを見て『やっぱり、そうじゃないよね』となったんです。普通におしゃれなだけのバイクだったらヤマハじゃなくても造れるし、単におしゃれなだけでは味のないモデルになってしまう。初代XSR900はものづくりとして間違っていないと今でも思っていますが、これから出す新しいモデルが初代とあまり変わらないようにも取れるコンセプトでは、ヤマハがお客様に届けたい、自分たちの『誇り』が表に出せないのではないか、と思ったんです(安田氏)」

開発作業が進む中でのスタイリング変更。当然ながら大きな反発もあったが、それでも、一度頭をもたげてしまった「想い」にフタをすることなど、もうできなかった。

「もちろんすぐに理解してはもらえませんし、設計の方たちからすれば大迷惑だったりするわけです。当然意見もぶつかりましたが、たくさん話し込んでいくうちに想いはひとつになりました(安田氏)」

最新技術で造られたモダンなシャシーに、時代を超えたタイムレスな外装を組み合わせる、という、初代からの「文法」は継承しながら、そこに1980年代…ヤマハがレースシーンでまばゆいきらめきを放っていた頃のレーシングヒストリーをエッセンスとして加える。

そのために、開発メンバーは往年のレーシングマシンが保管されている倉庫を訪れ、そのディテールをつぶさに観察するなど、往時のレーシングスピリットを吸収するための作業も急ピッチで行われた。


インスピレーションは1980年代のYZR500から

2代目となるXSR900が登場したのは2022年。1980年代のWGPで大活躍し、レースシーンを彩ったワークスマシン・YZR500にインスピレーションを得て、当時を思い起こさせるスタイリングを採用。往時の雰囲気をエッセンスとして取り入れながら、スポーツヘリテージファミリーに新風を吹き込んでいる。デビュー当初は往年のWGPライダー、クリスチャン・サロン氏を欧州のプロモーションに起用、初代のカラーリングもゴロワーズ風だった。

画像: 発表当時のイメージカット。ガレージにYZR500とXSR900が並び、サロン氏が登場するプロモーションムービーも制作された。

発表当時のイメージカット。ガレージにYZR500とXSR900が並び、サロン氏が登場するプロモーションムービーも制作された。

画像: 開発メンバーは当時のワークスマシン・YZR500が保管されている倉庫に赴き、当時の設計思想やスタイリングを検証している。 出典「ヤマハ発動機 新型XSR900 デザイン開発思想」 www.youtube.com

開発メンバーは当時のワークスマシン・YZR500が保管されている倉庫に赴き、当時の設計思想やスタイリングを検証している。
出典「ヤマハ発動機 新型XSR900 デザイン開発思想」

www.youtube.com
画像: XSR900のイメージスケッチの一部。テールカウルを兼ねる、独特なシート形状はYZR500のテールカウルを連想させる。 出典「ヤマハ発動機 新型XSR900 デザイン開発思想」 www.youtube.com

XSR900のイメージスケッチの一部。テールカウルを兼ねる、独特なシート形状はYZR500のテールカウルを連想させる。
出典「ヤマハ発動機 新型XSR900 デザイン開発思想」

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画像: 車両と同時に、カスタムした際のイメージスケッチも展開して、XSR900の将来の拡張性も検討。GPもこの流れの中から生まれた。 出典「ヤマハ発動機 新型XSR900 デザイン開発思想」 www.youtube.com

車両と同時に、カスタムした際のイメージスケッチも展開して、XSR900の将来の拡張性も検討。GPもこの流れの中から生まれた。
出典「ヤマハ発動機 新型XSR900 デザイン開発思想」

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ヤマハ「XSR900 GP」「XSR900」|スペック・価格・燃費・製造国

XSR900 GP ABSXSR900 ABS
全長×全幅×全高2160×690×1180mm2155×790×1155mm
ホイールベース1500mm1495mm
最低地上高145mm140mm
シート高835mm810mm
車両重量200kg193kg
エンジン形式水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
総排気量888cc888cc
ボア×ストローク78.0×62.0mm78.0×62.0mm
圧縮比11.511.5
最高出力88kW(120PS)/10000rpm88kW(120PS)/10000rpm
最大トルク93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
燃料タンク容量14L(無鉛プレミアムガソリン指定)14L(無鉛プレミアムガソリン指定)
変速機形式6速リターン6速リターン
キャスター角25°20'25°00′
トレール110mm108mm
タイヤサイズ(前・後)120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)
ブレーキ形式(前・後)ダブルディスク・シングルディスクダブルディスク・シングルディスク
燃料消費率 WMTCモード値21.1km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時20.4km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
製造国日本日本
メーカー希望小売価格143万円(消費税10%込み)125万4000円(消費税10%込み)

写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部

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