写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部
開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(1/5)
ブランドの「原点」を追求する中でたどり着いた「レーシングヘリテージ」
「初代のXSR900は、お客様の評価がとても良いモデルでした。デビューした2016年当時はヘリテージというジャンルのブームが広がる直前の時期で、初代XSR900はちょうどそんなタイミングで出たモデルでしたが、その後各社からかつてのバイクをオマージュしたモデルがたくさん出るようになり、群雄割拠の状態になったことで『僕ら(ヤマハ)が過去から受け継ぐヒストリーやストーリーの強い部分って何だろう?』というところに立ち返ることになったんです」
そう語ってくれたのはデザイナーの安田氏。
現在では押しも押されぬ人気カテゴリーのひとつになったヘリテージであるが、各社が往年の名車をモチーフにしたモデルをリリースしてくる中で、2代目となる現行型のXSR900を開発するにあたり、開発陣は自分たちのブランドの中にある「原点」を追い求めることから始めていった。そうして、彼らがたどりついた答が「レーシングヘリテージ」だった。
「レースというのは、自分たちのマシンの性能を証明していくためのものだけではなく、技術の進化を追求するためのレースであったり、ある意味ではエンターテインメントとしてのレースであったりもするわけです。そんなレースに、ヤマハはずっと挑戦し続けている。このレースという『文脈』は、僕らでないと表現しきれないことなんじゃないか、と考えたわけです(安田氏)」
こうして、2代目XSR900のマシンコンセプトは「レーシングヘリテージ」に決まった。そのインスピレーションの源となったのは、ケニー・ロバーツ、クリスチャン・サロン、ランディ・マモラ、エディ・ローソン、ウェイン・レイニーなど、錚々たる顔ぶれが揃い、WGPのトップカテゴリーである500ccクラスにおいて栄光の座を欲しいままにしたヤマハ黄金期・1980年代のWGPレーサーであるYZR500である。
「デルタボックスフレームに代表される、勝つための試行錯誤や人機官能の追求が実を結び始めた1980年代のものづくり、開発思想を現代の技術で再現したいと考えました(武田氏)」
こう聞くと、XSR900の開発はスムーズにスタートしたように感じるかもしれないが、実はその道のりには、かなりの苦闘と試行錯誤があったようだ。
開発陣は2代目XSR900のコンセプトを「レーシングヘリテージ」に定めてはいたのだが、実はクレイモデルを見て、デザインの見直しをすることになったのだという。
「実はそのとき開発していたモデルのスタイリングは、最終的に2022年にデビューを果たしたスタンダードのXSR900に比べるとレースの『文脈』が弱いもので、ともすればおしゃれなバイクとも取れるレベルに調整してしまっていたんです。一旦スケッチではそれでいこう、とはなったのですが、クレイモデルを造り、それを見て『やっぱり、そうじゃないよね』となったんです。普通におしゃれなだけのバイクだったらヤマハじゃなくても造れるし、単におしゃれなだけでは味のないモデルになってしまう。初代XSR900はものづくりとして間違っていないと今でも思っていますが、これから出す新しいモデルが初代とあまり変わらないようにも取れるコンセプトでは、ヤマハがお客様に届けたい、自分たちの『誇り』が表に出せないのではないか、と思ったんです(安田氏)」
開発作業が進む中でのスタイリング変更。当然ながら大きな反発もあったが、それでも、一度頭をもたげてしまった「想い」にフタをすることなど、もうできなかった。
「もちろんすぐに理解してはもらえませんし、設計の方たちからすれば大迷惑だったりするわけです。当然意見もぶつかりましたが、たくさん話し込んでいくうちに想いはひとつになりました(安田氏)」
最新技術で造られたモダンなシャシーに、時代を超えたタイムレスな外装を組み合わせる、という、初代からの「文法」は継承しながら、そこに1980年代…ヤマハがレースシーンでまばゆいきらめきを放っていた頃のレーシングヒストリーをエッセンスとして加える。
そのために、開発メンバーは往年のレーシングマシンが保管されている倉庫を訪れ、そのディテールをつぶさに観察するなど、往時のレーシングスピリットを吸収するための作業も急ピッチで行われた。
インスピレーションは1980年代のYZR500から
2代目となるXSR900が登場したのは2022年。1980年代のWGPで大活躍し、レースシーンを彩ったワークスマシン・YZR500にインスピレーションを得て、当時を思い起こさせるスタイリングを採用。往時の雰囲気をエッセンスとして取り入れながら、スポーツヘリテージファミリーに新風を吹き込んでいる。デビュー当初は往年のWGPライダー、クリスチャン・サロン氏を欧州のプロモーションに起用、初代のカラーリングもゴロワーズ風だった。
ヤマハ「XSR900 GP」「XSR900」|スペック・価格・燃費・製造国
XSR900 GP ABS | XSR900 ABS | |
全長×全幅×全高 | 2160×690×1180mm | 2155×790×1155mm |
ホイールベース | 1500mm | 1495mm |
最低地上高 | 145mm | 140mm |
シート高 | 835mm | 810mm |
車両重量 | 200kg | 193kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 |
総排気量 | 888cc | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5 | 11.5 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm | 88kW(120PS)/10000rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm |
燃料タンク容量 | 14L(無鉛プレミアムガソリン指定) | 14L(無鉛プレミアムガソリン指定) |
変速機形式 | 6速リターン | 6速リターン |
キャスター角 | 25°20' | 25°00′ |
トレール | 110mm | 108mm |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク | ダブルディスク・シングルディスク |
燃料消費率 WMTCモード値 | 21.1km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時 | 20.4km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時 |
製造国 | 日本 | 日本 |
メーカー希望小売価格 | 143万円(消費税10%込み) | 125万4000円(消費税10%込み) |
写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部