パーツのひとつひとつにまで徹底して追求した高い質感と、1980年代のレーサーのテイストを強く感じさせるディテール、そしてベテランライダーをもうならせる上質さ…。XSR900 GPは、ヤマハだから、開発陣の情熱とこだわりがあったから実現できたたモデルなのだ。
写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部

開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(3/5)

画像: 橋本直親氏 ヤマハ発動機株式会社 PF車両ユニット PF車両開発統括部 SV開発部 2005年入社。車体設計として2009年、2015年のYZF-R1等を担当、2009年から2012年はMotoGPマシン・YZR-M1の空力面を担当。その後は、イタリアでMT-07、トレーサー700、テネレ700などの開発に携わり、帰国後にXSR900系のPLとなる。

橋本直親
ヤマハ発動機株式会社
PF車両ユニット PF車両開発統括部
SV開発部

2005年入社。車体設計として2009年、2015年のYZF-R1等を担当、2009年から2012年はMotoGPマシン・YZR-M1の空力面を担当。その後は、イタリアでMT-07、トレーサー700、テネレ700などの開発に携わり、帰国後にXSR900系のPLとなる。

安田将啓
ヤマハ発動機株式会社
クリエイティブ本部 
プロダクトデザイン部

2008年入社。XMAX、トレーサー9GT、NIKEN、2代目と先代のMT-09などのデザイン企画を担当。XSR900は初代から携わり、2022年に登場した2代目(現行モデル)も担当している。

武田知弥
ヤマハ発動機株式会社
ランドモビリティ事業本部 MC事業部 
グローバルブランディング統括部 企画推進部

2020年入社。MT-07、MT-09、MT-10のほか、2023年登場のXSR125の商品企画や、商標関連の業務に携わる。

誰にも真似のできないヤマハらしさに満ちた意匠

ヤマハのマシンがWGPで大活躍した「あのころ」を思わせるスタイルでありつつ、当時を知るベテランライダーをも満足させる、上質なものであること。開発のハードルは高く、苦労も多かったようだ。

「正直、外観に関しては、コストをかけていいのであればいくらでもいいものを造れますし、品質を上げることも難しくありません。ただ、ベースとなったスタンダードのXSR900の価格が125万4000円ですから、ものすごく価格の高いバイクになってしまうのは、GPの立ち位置としては違うわけです。そこで、限られたリソースの中で、しっかり『本物感』を感じていただけるものづくりをしよう、と考えました。ナックルバイザーを別体式としたカウルだったり、ヘッドライトをなるべく小さくして、灯火器を目立たないよう工夫したり…あと、最近のバイクではもう付いていない、タンクの前からカウルを留めにいく形状のカウルステーを採用したり、昔のレーサーで使われていたベータピンをなんとか市販車にも入れられないか…とか。苦労はしましたが、そういった細かい要素のところにもこだわりました(橋本氏)」

画像: YAMAHA XSR900 GP ABS 2024年モデル 総排気量:888cc エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 シート高:835mm 車両重量:200kg 発売日:2024年5月20日 税込価格:143万円

YAMAHA
XSR900 GP ABS
2024年モデル

総排気量:888cc
エンジン形式:水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
シート高:835mm
車両重量:200kg

発売日:2024年5月20日
税込価格:143万円

XSR900 GPのスタイリングを決定づける、往時をしのばせる印象的なデザインのハーフカウルをはじめとしたスタイリングは、こうして形づくられていった。

「当初はスタンダードの丸目ヘッドライトを活かした、ロケットカウルのようなデザインを考えたりもしていたんです。ただ、純正アクセサリーとしてワイズギアでもスタンダード用のビキニカウルを用意していますし、ロケットカウルもサードパーティから出ています。『ヤマハが造るレーシングヘリテージとしてそれでいいのか』と言うことで、メンバーで議論を重ねました。我々が過去のヘリテージの部分、レガシーの部分を出せるのは何だ、ということと、誰もやっていない、ヤマハじゃないとできないものって何だ、と考え、ベースはハーフカウルですが、ナックルガードを付けて、1980年代のレーシングマシンの雰囲気を感じていただけるようなスタイルに落ち着きました。ヤマハが出す、XSR900から続く『ストーリー』としてはこういったスタイルがいいんじゃないか、と決まったのです(橋本氏)」

もうひとつ、開発陣がこだわった重要な要素が走りのフィーリング。セパレートハンドルを採用することははじめから決定していたが、ここも苦労は多かったようだ。

画像: 開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(3/5)

「操縦性もきちんとしたものに仕上げたいと思っていましたが、基本的に骨格はスタンダードのXSR900がベースとなるわけです。ただ、アップハンドルのXSR900に対して、ハンドルをセパレートに変えるだけでは全然成り立たない。XSR900のスタンダードはすでに完成されている乗り味を持ったバイクですが、そこから強引にライディングポジションを変えるだけでは、スタンダードがもともとアップハンドルですから、バランスを崩してしまい、操縦性で比べるとマイナス方向にしか行かないわけです。『たとえ見た目が良くても、これでは目の肥えたお客様に納得していただけない』ということで、そこからかなりの試行錯誤が始まったのです(橋本氏)」


市販車では初となるベータピンの採用

画像1: 開発者インタビュー「XSR900」から「XSR900 GP」へ(3/5)|ヤマハでなければできない「本物感」のあるものづくり
画像2: 開発者インタビュー「XSR900」から「XSR900 GP」へ(3/5)|ヤマハでなければできない「本物感」のあるものづくり

XSR900 GPのカウルステーは、1980年代のレーサーを思い起こさせる形状で、メインフレームのネック直後から前に向かって伸びる、堅牢な形状のものを採用。固定に関しても、3XV(TZR250R)の樹脂製ナット形状をアルミナットで復刻し、丸パイプをかぶせるようにしてベータピンで留めている。レーサーでは定番のベータピンだが、市販モデルで採用したのはヤマハとしては初めてのこと。

「GPコンセプト」の初公開はイギリス・グッドウッド

画像3: 開発者インタビュー「XSR900」から「XSR900 GP」へ(3/5)|ヤマハでなければできない「本物感」のあるものづくり

2023年7月、イギリスで開催された「グッドウッド・スピードフェスティバル」にヤマハが急遽送り込んだコンセプトマシンの名は「XSR900 DB40」。1982年のYZR500で初採用されてから40周年を迎えたデルタボックスフレームを記念したネーミングのマシンだったが、これがXSR900 GPのプロトタイプそのもの。ちなみにGPという名前のほかにも「XSR900R」や「XSR900RR」など、いくつか候補もあったようだ。

画像: 特徴的なカウルはそのまま市販型に継承。フレームはスタンダードのブラックではなく、アルミ素地のシルバー仕上げだった。

特徴的なカウルはそのまま市販型に継承。フレームはスタンダードのブラックではなく、アルミ素地のシルバー仕上げだった。

画像: 特徴的なカウルステーは既に完成。この段階では、スイッチボックスやメーターはスタンダードのXSR900のままとなっている。

特徴的なカウルステーは既に完成。この段階では、スイッチボックスやメーターはスタンダードのXSR900のままとなっている。

ヤマハ「XSR900 GP」の主なスペック・燃費・製造国・価格

全長×全幅×全高2160×690×1180mm
ホイールベース1500mm
最低地上高145mm
シート高835mm
車両重量200kg
エンジン形式水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒
総排気量888cc
ボア×ストローク78.0×62.0mm
圧縮比11.5
最高出力88kW(120PS)/10000rpm
最大トルク93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
燃料タンク容量14L
変速機形式6速リターン
キャスター角25゜20′
トレール量110mm
ブレーキ形式(前・後)ダブルディスク・シングルディスク
タイヤサイズ(前・後)120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W)
燃料消費率 WMTCモード値21.1km/L(クラス3・サブクラス3-2)1名乗車時
製造国日本
メーカー希望小売価格143万円(消費税10%込)

写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部

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