写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部
開発者インタビュー|「XSR900」から「XSR900 GP」へ(3/5)
誰にも真似のできないヤマハらしさに満ちた意匠
ヤマハのマシンがWGPで大活躍した「あのころ」を思わせるスタイルでありつつ、当時を知るベテランライダーをも満足させる、上質なものであること。開発のハードルは高く、苦労も多かったようだ。
「正直、外観に関しては、コストをかけていいのであればいくらでもいいものを造れますし、品質を上げることも難しくありません。ただ、ベースとなったスタンダードのXSR900の価格が125万4000円ですから、ものすごく価格の高いバイクになってしまうのは、GPの立ち位置としては違うわけです。そこで、限られたリソースの中で、しっかり『本物感』を感じていただけるものづくりをしよう、と考えました。ナックルバイザーを別体式としたカウルだったり、ヘッドライトをなるべく小さくして、灯火器を目立たないよう工夫したり…あと、最近のバイクではもう付いていない、タンクの前からカウルを留めにいく形状のカウルステーを採用したり、昔のレーサーで使われていたベータピンをなんとか市販車にも入れられないか…とか。苦労はしましたが、そういった細かい要素のところにもこだわりました(橋本氏)」
XSR900 GPのスタイリングを決定づける、往時をしのばせる印象的なデザインのハーフカウルをはじめとしたスタイリングは、こうして形づくられていった。
「当初はスタンダードの丸目ヘッドライトを活かした、ロケットカウルのようなデザインを考えたりもしていたんです。ただ、純正アクセサリーとしてワイズギアでもスタンダード用のビキニカウルを用意していますし、ロケットカウルもサードパーティから出ています。『ヤマハが造るレーシングヘリテージとしてそれでいいのか』と言うことで、メンバーで議論を重ねました。我々が過去のヘリテージの部分、レガシーの部分を出せるのは何だ、ということと、誰もやっていない、ヤマハじゃないとできないものって何だ、と考え、ベースはハーフカウルですが、ナックルガードを付けて、1980年代のレーシングマシンの雰囲気を感じていただけるようなスタイルに落ち着きました。ヤマハが出す、XSR900から続く『ストーリー』としてはこういったスタイルがいいんじゃないか、と決まったのです(橋本氏)」
もうひとつ、開発陣がこだわった重要な要素が走りのフィーリング。セパレートハンドルを採用することははじめから決定していたが、ここも苦労は多かったようだ。
「操縦性もきちんとしたものに仕上げたいと思っていましたが、基本的に骨格はスタンダードのXSR900がベースとなるわけです。ただ、アップハンドルのXSR900に対して、ハンドルをセパレートに変えるだけでは全然成り立たない。XSR900のスタンダードはすでに完成されている乗り味を持ったバイクですが、そこから強引にライディングポジションを変えるだけでは、スタンダードがもともとアップハンドルですから、バランスを崩してしまい、操縦性で比べるとマイナス方向にしか行かないわけです。『たとえ見た目が良くても、これでは目の肥えたお客様に納得していただけない』ということで、そこからかなりの試行錯誤が始まったのです(橋本氏)」
市販車では初となるベータピンの採用
XSR900 GPのカウルステーは、1980年代のレーサーを思い起こさせる形状で、メインフレームのネック直後から前に向かって伸びる、堅牢な形状のものを採用。固定に関しても、3XV(TZR250R)の樹脂製ナット形状をアルミナットで復刻し、丸パイプをかぶせるようにしてベータピンで留めている。レーサーでは定番のベータピンだが、市販モデルで採用したのはヤマハとしては初めてのこと。
「GPコンセプト」の初公開はイギリス・グッドウッド
2023年7月、イギリスで開催された「グッドウッド・スピードフェスティバル」にヤマハが急遽送り込んだコンセプトマシンの名は「XSR900 DB40」。1982年のYZR500で初採用されてから40周年を迎えたデルタボックスフレームを記念したネーミングのマシンだったが、これがXSR900 GPのプロトタイプそのもの。ちなみにGPという名前のほかにも「XSR900R」や「XSR900RR」など、いくつか候補もあったようだ。
ヤマハ「XSR900 GP」の主なスペック・燃費・製造国・価格
全長×全幅×全高 | 2160×690×1180mm |
ホイールベース | 1500mm |
最低地上高 | 145mm |
シート高 | 835mm |
車両重量 | 200kg |
エンジン形式 | 水冷4ストDOHC4バルブ並列3気筒 |
総排気量 | 888cc |
ボア×ストローク | 78.0×62.0mm |
圧縮比 | 11.5 |
最高出力 | 88kW(120PS)/10000rpm |
最大トルク | 93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm |
燃料タンク容量 | 14L |
変速機形式 | 6速リターン |
キャスター角 | 25゜20′ |
トレール量 | 110mm |
ブレーキ形式(前・後) | ダブルディスク・シングルディスク |
タイヤサイズ(前・後) | 120/70ZR17M/C(58W)・180/55ZR17M/C(73W) |
燃料消費率 WMTCモード値 | 21.1km/L(クラス3・サブクラス3-2)1名乗車時 |
製造国 | 日本 |
メーカー希望小売価格 | 143万円(消費税10%込) |
写真:赤松 孝、山口真利、南 孝幸/まとめ:オートバイ編集部