以下、文:横田和彦/写真:南 孝幸
ヤマハ「XSR900 GP ABS」VS ヤマハ「XSR900 ABS」|比較インプレ
ネオレトロかレプリカ風味かこんなに違うなんて、マジ!?
XSR900に搭載されている並列3気筒エンジンは、低回転域からトルクが発生しつつ中〜高回転域では鋭く吹け上がる特性でエキサイティング。シッカリとしたメリハリが感じられる走りを提供してくれる。
またタンクやシートなどの造形が往年のヤマハ・レーシングマシンの流れを汲んでいて、そのスピリットが感じられるのも新鮮。自分が影響を受けた時代のモノだけにハッとさせられた。そんな80年代の雰囲気を色濃く感じられたXSR900が、本当に80年代のレーサーレプリカを彷彿とさせる姿になったときは驚いた。
アッパーカウルはTZR250に似た雰囲気でドキッとさせられたし、シングルシート風のリアの処理もマッチしている。……でも 「それっぽい」だけじゃなぁ。なんだか露骨にオッサン世代をピンポイントで狙ってきた感もあるし。80〜90年代はメーカー同士が本気で競っていた熱い時代だ。それを肌で感じてきた世代はカンタンじゃない。見た目だけじゃコロッとはいかないぞ、と思いながら試乗開始した。
XSR900は以前のジャッジメントでも取り上げたのだが、ライダーが操っている感が得られるフィーリングに好感を持っている。ワインディングでは大柄に感じる車体を、アップハンドルを駆使してねじ伏せるようにコントロールする感覚がとても楽しいバイクなのだ。
対してセパハンを採用したXSR900GP(以下GP)は、ガソリンタンクを抱えるようなどこか懐かしい前傾ポジション。バイクと一体になりやすい設定だ。ハンドルが低いという声もあったが、セパハン大好きなボクにとってはちょうどイイ感じ。そしてコーナーでは身体全体を使ってバイクを倒していく。実にスポーティな挙動だ。サスペンションが前後ともに専用セッティングのフルアジャスタブルに変更されているのが効いているのだろう。
公道走行にあわせて最適化されているので、峠道でしなやかな挙動が得られ、切り返しもキマる。そこそこのペースで走っても「スポーツ走行したぞ」という満足感が得られた。なかなか絶妙なセットアップだぞ、これは。
高速道路ではやはりカウルがあるGPのほうが快適。ハンドルが低いという声もあったが、セパハン好きにしてみればこれでも十分にイケる。ロングツーリングもこなせるよ。実際に昔はレーサーレプリカで北海道まで行ったしね。乗り方を工夫すればGPでも十分に行けるんじゃないかなぁ。丸一日乗り回してそう感じた。
そして今回、2台をサーキットに持ち込んで乗る機会を得た。オモシロイのはそこでの印象が峠とちょっと違ったこと。GPはサスが思ったより柔らかく、ペースを上げるとステップのバンクセンサーがすぐに接地してしまう。少しフラつく感じもあったけど、同行していたノアセレンがリアのプリロードを3ノッチ締め込むとリアが落ち着きフロントに重心が寄って格段に走りやすくなった。フルアジャスタブルサスのメリットだね。
サスペンションの仕様にも違いがあるぞ!
前傾ポジションとキャラクターにあわせたハンドリングを実現するため、GPは前後とも専用開発のKYB製フルアジャスタブルを採用。スポーツライディング時のリセッティングの楽しみも加えてくれた。またステムシャフトをアルミ化したり、フレームの剛性を微調整するなど細部まで煮詰めてハンドリングを完成させている。
バイクと一体になるフォームで左右にバンクさせながら走ると、若い頃に見たWGPライダーのような気分に浸れる。これならノーマルのままでサーキット走行会に参加しても得られる満足感はかなり高いはず。
XSRはアップハンドルを操っての走りが爽快。コーナーの進入では前輪を路面に押し付けるようなハードブレーキングができる。目線が高いのでペースが上がっても怖さを感じにくい。ライダーの姿勢が起きているので、高い位置から倒し込むような気持ちで重心移動し、鋭くバンクさせるというモタードのような走り方ができる。ブレーキ解除時のフロントフォークの戻りが少し早いのが気になったけれど、コーナーリング中の姿勢は安定。ラインの自由度はGPより高いくらいだ。
まったく違ったハンドリング特性をみせる2台の3気筒モデル。ルックスどおり、乗り味の個性もかなり強烈だぞ!