以下、文:ノア セレン/写真:南 孝幸
ヤマハ「XSR900 GP ABS」VS ヤマハ「XSR900 ABS」|比較インプレ
バイクを買って、それで「何をしたいか」が大切
先日ヤマハの関係者と話をしていたら、XSR900 GPは発売する予定はなかったらしく、欧州市場からの要望で実現したそうだ。エンジンの888cc化は重量のあるナイケンをもっと元気に走らせるためだったとか、MTシリーズのこぼれ話が聞けて面白かった。SPやトレーサーも入れたらなんと6機種展開のMTシリーズ。同じエンジンや車体を使って多機種展開って、作る方も色んな味付けを試せて楽しそうだなぁ!
そんな中でのXSRとGPの2台。XSRは先代が正統派ネイキッド的な味付けだったのに対し、このバーエンドミラーの型になってからはずいぶんテイスティにチェンジしている。ハンドル幅が広くしかも昨今のストファイとは違ってタレ角があって、シートは後ろの方に座らせるような設定。ライポジは自然と腰を引いて後輪に荷重するようになり、それによってそこはかとない「旧車感」が生まれているのだ。
モダンなバイクなのに「何だこの旧さは! 」と、ルックス以上にその乗り味はクラシカル。今のバイクで育った層には最初ちょっとした違和感があるかもしれないし、旧くからのバイク乗りにとっては懐かしい感覚を呼び覚ますだろうけれど、どちらにしても後輪にドシッと乗っている感覚は一定の安心感をもたらしてくれるから、個性的ではあるもののマイナスではないかな。
そして良く動くサスペンションもXSRの特徴だ。ダンピングが少なくストロークは早いから、特に細かい峠道ではブレーキのチョン掛けでピッチングが作り出しやすく、先代よりはかなり大柄に感じる車体でもピッピッと振り回せるのが楽しい。この特性と浅めのバンク角などから、スピードの乗るワインディングやサーキットよりも舗装林道的なシチュエーションの方が得意な特性だ。
対するGPは、バイクブーム世代がマルボロカラーで盛り上がっているけど、その世代ではない僕としては、グレーカラーの方が好ましい。こういったレトロモデルはその世代の人に響く代わりに、それ以外の人を置き去りにするきらいがある。しかし、ヤマハはバイクブームやマルボロカラーを知らない世代でも素直にカッコイイと思えるカラーバリエーションを設定してくれたのは嬉しい。
GPは前傾が強くなって当然よりスポーティなセットアップなのに加え、サスもグレードアップされタイヤも最新となるなどXSRに対して明らかに上位版という位置づけ。またシート前方がしっかりとタンクに接続していることで自然と着座位置やバイク乗車時のライダーの重心位置も現代的なものとなり、個性的なGPルックスに反してXSR特有のクラシカルな乗車フィールは皆無と言っていいだろう。今のスポーツバイクとして普通に接しやすいのはGPだと思う。
また今回はサーキットも走れたことで気づいたのだが、かつてのレースシーンを連想させるスタイリングながらGPは優しさも併せ持っていた。YZF-R1やYZF-R6のような緊張感を強いられることもなく、FUNを第一にサーキット走行も楽しめたのは嬉しかったポイント。バンク角も深くなり、XSRよりスピード域の高いシーンで楽しみやすい設定なのだ。
6機種展開のMTシリーズだけに、選ぶとなるとこの2台以外にも目移りしまくってしまう! MTシリーズの中でもかなり個性に振ったこの2台。乗り味を含めて「変わったものに乗りたい」という人はXSR、サーキット走行会を含めよりスポーティな楽しみ方をしたいという人、あるいは「もうルックスに完全にヤラれました!」という人はGPを選べば間違いない。
どのMTシリーズを選んでも、ヤマハの名機へと育った「CP3エンジン」の魅力は不変なのだから。
やはり大柄だな〜と実感させられる2台
いずれも200kg以下の車重のため取り回しは難しくないと思いきや、これは2台ともかなりのウイークポイントと言わざるを得ない。車体がかなり長く大柄なのに、ハンドル切れ角が少なめで、押し引きで向きを変えようとしたら、写真のように意図的に車体をバンクさせないと小回りはしにくい。またXSRはハンドル幅がやたら広く、GPは低いというのもプラスには働かない要素。