文:中村浩史/写真:中村浩史、スズキ

協力メーカーでも研究開発中のサステナブルアイテム
プロジェクトにGOサインが出て、3月のモーターサイクルショーで発表、それからスタッフを集めて、ヨシムラからマシンが来たのが4月後半。ゴールデンウイーク明けには、スズキの竜洋テストコースで初走行を済ませている。
「通常のスケジュールでは考えられないほど短いですよ。まったく新しい材料を使う、ガソリン&オイル、タイヤにブレーキは、レースでいちばん厳しい環境に置かれるものなのに」(佐原さん)
そこには、もちろん協力メーカーの情熱もあった。タイヤはブリヂストン、エルフガソリンにモチュールオイル、そしてサンスターのディスクローターとブレーキパッド。各メーカーとも、次世代のモータースポーツを睨んですでに開発していたアイテムを、このスズキCNチャレンジでお披露目できるのだ。

「ブリヂストンでは、2050年までにタイヤを100%サステナブルマテリアル化する、という目標があります。もちろん、そのタイヤも通常から研究開発しているので、スズキさんの今回のプロジェクトに協力できた。今回のタイヤについては、タイヤ構成材のうちのビードワイヤと熱分解由来のカーボンブラックを再生資源として使用しています」というのは、ブリヂストンの国内広報部・川本伸司主査。スズキにタイヤを提供する以前の段階で、従来製品と同等の性能になるまで、常に研究開発している製品なのだという。
「ウチに提供してくれる時点で、すでに各メーカーさんで研究開発済のパーツですからね。テストコースで2回テストがあったんですが、1回目に問題があって、20日後にはもう対策品ができた、ってケースもありました」(佐原さん)

CNチャレンジのマシンはいよいよ鈴鹿へ。公式事前テストでマシンを走らせた、ヨシムラの渥美心さんは「あんまり普通に走るんで、言うことなくて拍子抜けしましたよ」とコメント。「普通に走る」というコメントが、チームにとって、なによりも嬉しい言葉だっただろう。
竜洋テストコースで2回、鈴鹿事前テストで2回のテストを終えたCNチャレンジに、鈴鹿8耐の本番はやってくる。チームのテクニカルマネージャーを務めた田村耕二さんは、技術スタッフばかりではなく、チーム全体の動きを見ていたのだという。
「チームのコアメンバーとは別に、チームスタッフも必要です。ここに、100名以上の応募があって、希望者はそれ以上、その中から15人くらいを選出しました。彼らは、これまでレース業務の経験がなかったメンバーです。そのみんなも、ミスなくレースを終えてくれましたね」
マシンに触るメカニックばかりではなく、レース前後のスケジュール管理やライダーケア、ピットスタッフやヘルパーなど、数10人単位で動かしていくのがレース。そこに未経験のスタッフを集めたということは、スズキが今回のレースで新たに人材を育成した、ということ。これも、レースの重要な役割だ。

「レースは、びっくりするくらい本当に何の問題もなく進行できました。8回ピットで216周、トップから4周遅れですが、昨年の優勝チームと同じ周回数で8位です。きちんと走り切った、8位なら上出来だ、でも時間が経つと、もっとできたんじゃないか、8位じゃ物足りないなぁ、とも思うんです」(今野さん)
スズキCNチャレンジの目標のひとつは、もちろんレースを通じて実験と研究開発が進むこと、そしてレース結果で言えば、もちろん完走することだが、ゆっくり走っての完走なんて意味がないし、完走したいがために何かをセーブするのではなく、全力で走り切ることにCNチャレンジの意味があった。
「これで来年の課題ができたのも収穫だったと思います。順位はあくまで二の次ですが、まずはしっかりとした体制をつくって、サステナブルアイテムをもっと増やしていくこと。今回のCNチャレンジで、EWC自体のカーボンニュートラルに対する考えも進んだだろうし、スズキはもう一歩先を行くサステナブルな活動を続けていきたい」(佐原さん)
図らずも、プロジェクトリーダーの口から出た「来年」という言葉。もちろん、明言はしないだろうけれど、スズキは2025年の鈴鹿8耐に帰ってくるだろうし、もしかしてその一歩先に、もっと厳しい環境でテストができる、ボルドールやル・マンの「24時間耐久」があるかもしれない。
サステナブルとは持続可能な、という意味。スズキのCNチャレンジがサステナブルであり、世界のレースを一歩進める役割であってほしいと願う。

カウル材質も、通常のドライカーボンではなく、通常なら廃棄すべき部材を再利用して焼き固めるカーボン材を使用。MotoGP車的なウイングは、こういったGSX-Rの将来像もあるよ、というメッセージ。

ディスクローターは熱処理を廃止したスチールディスクで、ブレーキパッドはローダストパッド。最初の走行テストでは、やはり通常のローター+パッドのフィーリングが得られなかったのだというが、20日後のテストですぐに対策品が開発された。

前後フェンダーは天然亜麻繊維を使用した複合素材。表面は通常のカーボン材に見えるが、その裏地は麻素材が目立つ独特のつくり。タイヤもブリヂストン製の構成素材を再利用した再生可能資源を使用した製品。

前後フェンダーは天然亜麻繊維を使用した複合素材。表面は通常のカーボン材に見えるが、その裏地は麻素材が目立つ独特のつくり。タイヤもブリヂストン製の構成素材を再利用した再生可能資源を使用した製品。

世界耐久チーム「ヨシムラSERT MOTUL」のレギュラーライダーであるエティエンヌ・マッソンをレンタルされて起用。「マッソンのものすごい安定性を期待してお願いしました」とは佐原さん。

的確な車両評価と爆発力を評価されての起用となった濱原颯道。マッソンに合わせたポジションが影響し、レース終盤に腰痛がおきてしまった。

チームも8回のピットワークをミスなく済ませた。写真のライダーはレースでの出走はなかったものの、チームの柱となった生形秀之。
文:中村浩史/写真:中村浩史、スズキ