まとめ:横田和彦/写真:風の会、NANA-KO
障がいのある方と一緒に鈴鹿サーキットを走る「風の会」
鈴鹿8耐でサーキットを走ったタンデム集団「風の会」とは?
2024年7月20日、鈴鹿8時間耐久ロードレースのトップ10トライアルが終了したあとのこと。日がやや傾き始めたコース上にタンデムしたバイクの集団が現れた。普通のタンデムと異なるのは、ライダーとタンデマーがハーネスでつながっていること。彼らは「風の会」の一団だ。
風の会とは、身体が不自由で自分ではバイクに乗れない方をタンデムシートに乗せ「真夏の鈴鹿サーキットを走る」という普通では味わえない体験をリハビリの一環にしようとしているボランティア団体のこと。2001年にスタートして以降、20回以上の開催実績がある。
風の会を主催しているのは、元スズキワークスライダーの水谷勝さんだ。水谷さんといえば80年代にスズキのワークスレーサー・RG500ガンマを駆ってヤマハワークスの平忠彦選手らと熱いバトルを繰り広げ、日本のレースシーンを沸かせた立役者のひとり。その熱い走りから「東海の暴れん坊」というニックネームで呼ばれ、多くのファンに親しまれたレジェンドライダーである。
水谷さんがなぜ「風の会」を始めたのか。それはあるイベントで足の不自由な方をタンデムシートに乗せたことがキッカケだった。
「コーナーに入ると、彼の動かないはずの足がクックッと僕の腰を挟むようにするのを感じたんだよね」(水谷さん)
そこで水谷さんはタンデム走行がリハビリの一環になるのではないかと思い付き、医療従事者に相談。障がいがある方も交えて検討を重ねた。そして、そのコンセプトに共感してくれたバイクメーカーや用品メーカー、さらには鈴鹿サーキットの協力を得て、2001年に鈴鹿8耐の舞台でのタンデム走行が実現したのである。
当初は少数ではじめたが年々規模が拡大。ピーク時は30名以上がタンデム走行を体験したものの、台風や2021年のコロナにより8耐自体が中止になるなど困難に直面。それでもなお、この活動を諦めることはなく、翌2022年には規模を縮小して再開。徐々に参加人数を増やし、2024年の開催では9名の方が参加した。
準備・走行・写真撮影、参加者もスタッフも笑顔溢れる一日に!
医療関係者とボランティアスタッフを中心になって準備
障がいがある方をタンデムシートに乗車させるのは簡単ではない。というのも、参加者の症状や車種のシート形状がそれぞれ異なるため、乗せるときには臨機応変に対応する必要があるからだ。
パドックに集まった参加者たちは、医療従事者とボランティアスタッフたちの手によって慎重にタンデムシートに乗せられ、ハーネスによってライダーや車両に体を固定。その作業をスムーズに行うため、スタッフは事前に練習を重ねて準備していた。
そして出発するまでの待機時間中は、暑さにやられないよう扇風機や冷たいタオルなどで身体を冷やす。その間ずっとスタッフが声をかけ、笑顔で対応している。
先導車に導かれてコースイン、真夏の鈴鹿の風は格別だ!
時間がくるとセーフティーカーに導かれてコースイン。コースにはまだ夏の暑さが残っている。そんな中、スタンドにいる観客やピットロードのスタッフたちに一生懸命、手を振りながら走るライダーと参加者たち。
この「真夏の鈴鹿サーキットの風を全身に浴びる」という特別な体験が、彼らが新たな一歩を踏み出すキッカケになって欲しい。それが風の会の最大の活動目的なのである。
パドックに戻ってきたライダーとタンデマーは笑顔に満ちていた。ほかではできない最高の体験がそうさせているのだろう。水谷さんが感じたタンデム走行の可能性がはっきりと実感できる。
そして風の会の活動で何かを得るのは参加者だけではない。ライダーや医療従事者、ボランティアスタッフたちの心にも多くの思い出を残している。
「自分の意志で何もできない人が走行後に片言の言葉を発し少し腕を動かした。それを見た親御さんが感動で泣いて、横にいた自分も胸が熱くなった」(スタッフ)
そんな感動的なエピソードが数多くある風の会は、「バイクには人を元気にする力がある」ということを具現化した社会貢献活動だといえる。来年以降の開催にも期待したい活動だ。
まとめ:横田和彦/写真:風の会、NANA-KO