文:大屋雄一/写真:渕本智信
ホンダ「CRF1100L アフリカツイン アドベンチャースポーツES(DCT)」インプレ(大屋雄一)
フロントの接地感がアップ、DCTの特性もさらに進化した
個人的に、フロント19インチのバイクを好ましく感じることが増えている。近年のホンダで言えばCL500やCL250、400Xが挙げられ、フロント21インチを採用しているモデルよりも、19インチのモデルの方が圧倒的に好みだ。オンロード8割、オフロード2割という使い方ならば、フロント19インチは理に適っているように思う。
そんな私に、突然朗報が舞い込んだ。アフリカツインのビッグタンクの方、アドベンチャースポーツのフロントホイールが19インチに小径化されたのだ。そもそもアフリカツインは、フロント21インチでもオンロードの走りに関して不満はなく、それが19インチ化されたとなれば、これはもう鬼に金棒という予感しかしない。
果たしてその想像は、決して間違ってはいなかった。走り始めてすぐに気付くのはフロントからの接地感の高さだ。ホイールが小径化されただけでなく、タイヤ幅は2サイズも太くなり、さらに構造がバイアスからラジアルへと変化しているので、その効果は想像以上だ。加えて、フロントの舵角の付き方もオンロードモデルのようにナチュラルになり、峠道での走りが断然スポーティになった。
一方で、ハンドリングがオンロード寄りになったのは確かだが、アフリカツインのフレームとエンジンをベースとして派生したスポーツツアラー・NT1100ほど完全なオンロードモデルになったわけではない。引き締まったダートなら難なく抜けられるほどの悪路走破性は残されており、アドベンチャーツアラーの現実的な使われ方に即した進化と言えるだろう。
270度位相クランクを採用する1082cc水冷並列2気筒エンジンは、圧縮比のアップやバルブタイミングの変更などで、低中回転域でのパワーとトルクを向上。最高出力102PSは変わらないが、最大トルクは約7%増えている。加えて、DCTは発進特性と極低速域のコントロール性を高めるために、制御を変更したとのこと。
試乗したのはそのDCTモデルだ。標準となるDモードでは、2000rpm付近でポンポンとシフトアップし、60km/hで6速までシフトアップしてしまうのは相変わらずだ。一方で、MT車なら半クラを使いたくなる場面、具体的にはUターンなどの小回りにおいて、クラッチの接続が従来型よりもスムーズになった印象だ。
プリセットされているライディングモードは4種類。ツアー、アーバン、グラベル、オフロードがあり、パワーやエンブレ、サスの減衰力、ABSの設定が連動して切り替わる仕組みだ。なお、ユーザーモードは二つあり、オンとオフロードで使い分けも可能だ。
電子制御サスのEERAは、プリセットされているモードがミッド、ハード、ソフト、オフロードの4種類あり、切り替えると特性の変化が体感できる。フル積載を想定したツアーモードではハードに設定され、1名乗車かつ空荷で乗ると明らかに動きが硬い。これを標準的なモードであるアーバンにすると、EERAはミッドに切り替わり、荒れた舗装でもサスの動きはスムーズに。そして、そのままワインディングロードを走っても不満を感じないので、電子制御サスの進化に感心しきりだ。
スクリーンは両手を使わないと上げ下げできないとか、スイッチが多すぎて一日や二日では操作を覚えられないなど、いくつか不満はある。だが、DCTは唯一無二の機構であり、AppleカープレイやAndroidオートが使えるのも大きな魅力だ。ビッグタンクゆえに大柄に見えるが、足着き性がいいのも美点のひとつ。気になる方はぜひショップでお試しを。