2024年9月19日、スズキは原付一種の電動モペッド「e-PO」(イーポ/公道走行テスト車)の試乗会をクローズドコースで開催した。パナソニックサイクルテックの折りたたみ式電動アシスト自転車「オフタイム」をベースとして専用の装備や制御を施すなど共同開発したもので、新たなモビリティとして期待されている。
文:スマートモビリティJP編集部/写真:赤松 孝
※この記事はウェブサイト「スマートモビリティJP」で2024年9月28日に公開されたものを一部編集し転載しています。

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開発進行中の新たな原付「スズキ e-PO」

自動車からバイク、船外機の開発、そして空飛ぶクルマの生産まで行っているスズキは近年、マイクロモビリティと呼ばれる原付一種よりもさらに小さな乗りものの開発、提案に力を入れているように感じられる。ジャパンモビリティショー2023(JMS2023)で特定小型原付「スズライド/スズカーゴ」を参考出品、2023国際ロボット展に農業や土木建設の補助を行う4輪ロボットを公開するなど活発化している。

スズキは1970年代に電動車いすのセニアカー(当初の名称はモーターチェア)のプロジェクトを発足させ、また1990年代には現在のパナソニックサイクルテック(以下、パナソニック)と組んで電動アシスト自転車「ラブ」を発売するなど、知ってのとおり旧来からマイクロモビリティを販売するとともに、市場からのニーズを製品としてカタチにしてきた歴史がある。スズキがJMS2023で公開した「e-PO」もまさにこうした活動から生まれたモビリティといえる。

画像: これまで原付に乗ってこなかった自転車ユーザーが親しみやすいフレンドリーな外観。ユーザーの裾野が広がることが期待されている。

これまで原付に乗ってこなかった自転車ユーザーが親しみやすいフレンドリーな外観。ユーザーの裾野が広がることが期待されている。

もうひとつ、e-PO開発の裏側には「50cc原付バイクの2025年問題」にともなって誕生するであろう、4kW以下125ccの新基準原付の存在も関連するはずだ。新基準原付の車両価格は現行原付一種より上昇するといわれており、その価格差を埋める役割も担うのではないだろうか。

e-POの販売時期や車両価格などはアナウンスされていないが、スズキの完成検査を受けてナンバーを取得した5台の車両で公道走行調査を行うなど、開発は順調に進んでいるように見える。今回クローズドコースでの試乗会に用意された車両も、浜松と大阪の調査で使用したものだという。

軽自動車に原付を積載できることの重要性

e-POはパナソニックの折りたたみ式電動アシスト自転車「オフタイム」をベースに、ミラーやブレーキランプといった保安部品、30km/h走行に対応した専用のモーターやブレーキなどを装備した電動モペッドだ。そのため見た目は「ほぼ電動アシスト自転車」で親しみやすく、これまで原付に乗ってこなかった電動アシスト自転車ユーザーが新規購入しやすい外観ではないだろうか。

もちろん折りたたみ機構が採用されているので、軽自動車の後席を倒すことなくラゲッジスペースに収納できるサイズ感(スズキ スペーシアで実演)はそのまま。現行の50cc原付一種では実現できなかった旅行先やキャンプ地での移動を可能にしている。クルマは滞在するホテルに駐車しておいて、e-POで観光地を巡るというような旅行計画を立てられるわけだ。

画像: 折りたたみ機構の魅力は外出先に持っていけるだけではない。駐輪場がなくても屋内に保管できるため盗難やイタズラ対策にもなる。

折りたたみ機構の魅力は外出先に持っていけるだけではない。駐輪場がなくても屋内に保管できるため盗難やイタズラ対策にもなる。

ほぼ電動アシスト自転車とはいえ、ベースモデルとの違いは数多い。走行性能にかかわる部分では、タイヤを太くして走行安定性と乗り心地を向上、フロントブレーキをディスク式にして制動力を強化している。ただ、開発中の現段階において、ボディ(フレーム)強化は行っていないという。

そもそもパナソニックの電動アシスト自転車は、歩道や縁石への乗り上げによる衝撃、立ち漕ぎ(ダンシング)による捻れに対応するためフレーム剛性を強く、また30km/h以上の速度域をカバーできる設計となっている。そのためボディ構造を変更せずとも、スズキの試験基準もクリアしたというのだ。

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e-POのアシスト走行モードが楽しい!

駆動用バッテリーはパナソニック純正で最大容量の25.2V×16Ah(ベースモデルは25.2V×8Ah)を搭載して、走行可能距離を約20kmとしている。

この距離は3つある走行モードのうち「フル電動モード」での数値だ。ハンドルの右側グリップにあるスロットルを捻るだけで加速を得られるモードで、定格出力250Wとは思えないスムーズで必要十分な発進を実現する。車両重量が一般的な原付一種のおよそ1/3にあたる23kgという軽量さ、専用に開発されたモーターの制御も大きな要因だろう。平坦な試乗コースを40km/h近くまで加速させていたので、ある程度の登り坂でも制限速度の30km/hを楽に維持できそうだ。

e-POはモーターと脚力によるハイブリッドパワートレーンで、走行可能距離もペダルを漕げば漕ぐほど伸びていくはずだ。この「アシスト走行モード」でのモーターアシスト比率は人力1:モーター3。人力1:モーター2を基準とする電動アシスト自転車より強力なアシストで、SHIMANO製7段変速機のトップギアにいれていても重さをまったく感じずに発進できる。

加速力が強いといっても、モーター駆動の立ち上がりの制御に気を配ったというe-POの発進時アシスト制御は絶妙。一般的な電動アシスト自転車ではモーター駆動の強さに戸惑うこともあるが、この感覚はなく穏やかな発進を実現、その直後からグイグイと後押ししてくれるから自然とスピードに乗っていく印象だ。試乗コースではムダに加減速を繰り返したくなってしまう、それほど楽しい時間だった。

フル電動モードは暑い夏季や疲れているときに嬉しいモードである一方、アシスト走行モードは腰を少し浮かせて立ち漕ぎしながらスポーティに軽快に走る、そんな楽しさを味わわせてくれる。季節や気候、気分や季節走行シーンによって切り替えながら走るのは面白そうである。

画像: ベースモデルと同様の7段ギアを採用するが、変速の必要を感じさせないほどパワフル。ただ、バッテリー残量を気にするなら変速したほうが効率的だという。

ベースモデルと同様の7段ギアを採用するが、変速の必要を感じさせないほどパワフル。ただ、バッテリー残量を気にするなら変速したほうが効率的だという。

ちなみに、バッテリー残量がゼロ(灯火器の点灯用に若干残る)になってしまっても、ノンアシストで走る「ペダル走行モード」もある。ただタイヤが太いこと、また重量もあるため平地であっても30km/hを維持しようと思うと、なかなかに体力を削られる。常用するのではなく緊急用、もしくはトレーニング用と考えておくのが良さそうだ。

電動アシスト自転車ベースのe-POはCO2を排出しないカーボンニュートラル時代にマッチした原付であり、ツーリングを楽しめる運動性能を持ち、また折りたたみ機構により移動やレジャーの幅を広げてくれるはずだ。スズキとパナソニックの国産ブランドによるコラボレーションという安心感もあって、普及していく可能性を予感させてくれる。

気をつけなくてはならないのは、どのモードであってもe-POは「原付一種」であり、間違っても歩道を走行してはならないということ。ユーザー自身が交通規則を遵守することは第一としつつも、実際に販売されることになればバイクショップでの周知活動も必要になるだろう。せっかくの便利で楽しいモビリティが、こうした違反により批判を浴びることになりかねない。

スズキ e-PO 主要諸元(公道走行テスト車)

●全長×全幅×全高:1531×550×990mm
●ホイールベース:1044mm
●シート高:780〜955mm
●車両重量:23kg
●モーター定格出力:250W
●バッテリー容量:25.2V×16Ah(403.2Wh)
●充電:交流100V/約5時間
●走行可能距離:約20km(フル電動モード)
●タイヤサイズ:前18-2.125/後20-2.125
●ブレーキ:前ディスク/後ローラー

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