『ミスター・バイクBG』もこれだけ続けていれば飽きもする。
32年間、ずっと共に生きてきたCB-F。
モーターサイクルへの情熱はまだ持続しているのか、
それを確かめたかった。
文:鈴木広一郎/写真:鈴木広一郎、山口銀次郎
※この記事は、『ミスター・バイクBG』2024年9月号に掲載したものを一部編集して公開しています
最東端は再確認である!
個人的な嗜好として、ロングツーリングが好きではない。正確には長距離走行に適した改造は、愛車CB-Fに施してこなかった。セパハン、バックステップ、集合管……。32年前に購入し、20代の頃は週末の夜に第三京浜、休日は箱根か奥多摩へ仲間と走りに行った。どこへでも出掛けていたが、バイクに快適さを求めたことはない。
21歳の若者が53歳の2児の父親になっているのだから、32年の時間は長く、重い。大事故やエンジンOHのタイミングで乗り換える機会は何度もあった。その度に思い止まったのは、少年の頃の憧れと、愛車に染み付いた「何か」を手放したくなかったからだ。
ちなみにフェリーも苦手である。寒くて移動距離が長い北海道には、苦手なものがしっかり詰まっている。しかし、新編集長・山口銀次郎の強い意志表明は「リアルを求める」という。仕事なら、どこまでだって走る。「好きではない」が「できない」ということではない。
北海道をそれなりのペースで1800キロ移動すれば、これはハードライディングだ。バッテリーやタイヤ、オイル管理などを怠ると、走行不能に陥る。各パーツのトルク管理が重要だ。甘い締め方の改造パーツは間違いなく脱落するだろう。マフラーのフランジ、ステップ、ハンドル周り。お世話になっているメカニックが、マーカーで締結チェックをしている意味を「絶大なる安心感」として理解できる。ヒグマが闊歩する地帯でスタックしたくはない。都合よく量販店もバイク屋も、ガソリンスタンドすら見つからない北の大地。「現地調達」は恵まれた本土に住む人間独特の甘い考えだ。
北海道ツーリングはライダーのスキルを向上させるのだと、苫小牧への帰路、延々と降り続く雨の中で思い知った。ヘルメット、グローブ、レインウェア。「ちょっと寒い」も400キロ続けば苦痛に変わる。まさか7月にインナーダウンを着ることになろうとは。
中標津から根室へ入り、納沙布岬へ。休憩という概念が抜け落ちている体力無限男がペースメーカーだから、のんびり景色を眺めている時間はない。思い返せば、北海道お決まりの海鮮物は、何ひとつ食べなかった。
しかも快晴に恵まれたのは行程中、たった1日だけ。バイクで同行するツーリング撮影は必ず過酷になる。CB-FもZ1-Rも当時は完全なる「スーパースポーツ」に分類されていた。パフォーマンスやスタイリング重視のフラッグシップモデルに、機能的収納などの便利グッズは装備されていない。
カメラ機材をずっと背負って走るのは愚の骨頂。カメラマンは創意工夫で身体に負担を掛けず機材を守らければならない。クセが染み付いている自分の愛車だから、日本一周もできないことはない。でも、同じような距離と行程を再び走るなら、別のマシンを選択したいと思っている。
条件は航続距離が300キロ以上の燃費性能か、十分なタンク容量。時速120キロ未満での防風性。ケツが悲鳴をあげない快適なシート。リラックスできるポジションなど。これは単純にアメリカンが良いとか、ツアラーモデルが最適という話ではない。そんなバイクを探すのも、カスタムするのも何だか楽しそうじゃないか。
オトコ飯を探せ!
旅の演出のために、男らしいメシを探し求めた。
まず宿泊先の中標津の街中にあったラーメン屋。周囲の飲み屋街が男心をくすぐる。これでもかと肉を入れる味噌チャーシューメンがいい。
上の写真は納沙布岬の花咲蟹ラーメン。ワイルドだろう? どうやって食べるのか。食堂の女将さんが丁寧にバラしてくれるのさ。
標津羊羹は中標津で作っている。中標津に宿泊しながら、標津で羊羹を見付けてご満悦。あっさり味は疲れた体に丁度いい。
ちなみに納沙布岬には昆布もちという絶品もちがある。両方共に、お茶を片手に召し上がれ。
旅の道中、思わぬ出会いも──
15、6年前にお世話になった佐藤真吾さん。皆がガンダム佐藤と呼ぶリアルライダー。わざわざ取材先に訪ねてくれた。思いもよらぬ再会に珍しくテンションが上がる。絶対に忘れられない人が北海道にただひとり。またきっと会えるはず。
文:鈴木広一郎/写真:鈴木広一郎、山口銀次郎
※この記事は、『ミスター・バイクBG』2024年9月号に掲載したものを一部編集して公開しています