※本企画はHeritage&Legends 2024年9月号に掲載された記事を再編集したものです。
エンジンは良好ならば今後を考えて予算組みを
「頑丈で、いいエンジンオイルを定期的に交換するなど、正しく大事にされてきたエンジンは極端なトラブルを起こしていない。何km走ったら必ず開けるではなく、異音がするとか煙が出るとか、不良の予兆が出たら開けるでいいですけど、それなりのコストはかかります。消耗パーツ交換でも費用は登場当時のままではなく、上がっている。そんなことも考えながら、予算を含めて余裕をもって付き合うべきなんだと思いますよ」
油冷エンジン車について、テクニカルガレージRUN・杉本さんはこう言う。いや、もう20年以上、言い続けてきた。その20年前の時点でバンディット1200などの一部車両こそ生産されていたが、GSX-R750/1100は既に生産終了から10年が過ぎた、10~20年選手のモデル。現役当時は先鋭のレースベースだったとは言え、経年の影響はエンジンのみならずあちこちに出ていた。
「これも何度も言いますけど、油冷車は、ノーマルそのままでは今楽しむことが難しいバイクになっています。まず抜けているリヤショック、能力不足のブレーキ。操安に関わる部分は最低でも新品、性能はそれ以上でないと乗れないし、周囲に危険が及ぶことになります。当時すごくても今では能力が足りないのは明らかなんです。ですから当時のまま何も変えていないという状態は、歴史的価値はあるでしょうけれど、走るのはNG。そのくらいに考えましょう。
リヤサスとタイヤは今のハイグレード品に交換、フロントフォークはオーバーホールしてブレーキはマスター、キャリパー、ディスクとシステムごと交換が推奨。電装も見直しましょう。前後しますが、消耗品の交換は当然です。これは補足ですが、今後使う大物パーツを確保しておくことです。合わせてフレームのリフレッシュや、初めに言ったようなエンジン見直しも加えればよりいいでしょう」
不足のパートに手を入れること。そして油冷の本質を生かしながら完調で楽しむこと。いくつかのアップデートも取り込めれば、より油冷車の魅力を生かしたくなる。そんな手の入った例が、RUNによる“ヴァージョンアップコンプリート”と言える。紹介してくれたGSX-R1100は、その油冷車での代表例と言っていい1台。カタナで言うTG-RUN“ハガネ”と同じ位置づけをして良さそうだ。
油冷車のスタイルと素性を現代に楽しむべく作られるコンプリートカスタム車で、各部の上質化とスープアップが軸に行われる。このヴァージョンアップコンプリートの手法は、杉本さんの油冷に対する目が反映され、旧車となった油冷各車にも有効な見本となる。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
現状を正しく認識して信頼できるショップと良い付き合いを
快調油冷の例となるコンプリート。でもそれがすべてでもないと杉本さんは続ける。
「どんな車両にしたいか、どう使うかで変わってくるんです。コンプリートは、オーナーさんそれぞれに合わせた“当て書き”(演劇や映画で、役者を決めて脚本を書くこと)なんです。長距離コンフォートで使う方、サーキット走行を楽しまれる方でセットアップや使うパーツも変わりますから、それを反映して、サーキットを走らないのにクロスミッションを入れる選択はないように、内容や使うパーツも大きく変わってきます。
紹介した車両は17インチ仕様で、油冷ならではの走り味を楽しめる。前期R1100純正に同じ18インチ仕様もたくさん作っていますし、これも結構いいんです」
何でもしたいし、使いたいと考えそうなところだが、ちょっと振り返って、自分がバイクにどう乗ってきたかを書き出すだけでもこれは分かってきそうだ。作業を依頼するときにそれも合わせて相談すると、分かりやすくなる。
油冷車の現状を認識をし、使い方や希望を明確にする。そんな準備をした上で、いいお店を見つけるべきだとも杉本さんは言う。
「共通の言葉や方向性でお付き合いの出来るお店、主治医ということです。油冷はエンジンもシンプルで、今の車両に比べれば手を入れやすい利点もあります。でも、手を入れやすいがゆえに間違いを起こしたり、バランスを崩しがちになったりすることもあります。
パーツもなくなる、高騰するというのもずっと言ってきましたが、それも当たり前なんです。生産終了から何年経っているか。今までが環境が良すぎたとも言えます。それらのコストや手間を理解して付き合えることも大事です」
独りよがりにならないこと。ただ、プロのノウハウはタダではない。そこを理解して、作業等の依頼をする。オークションなどで車両を入手して自分でやって、分からないからただ聞く……は、普通の仕事で考えれば、ない話だ。
新車販売も整備もして、TOTにもGSX-R1100やGSF1200、GS1200SSで参戦してきて、油冷のいろんな引き出しを作れたからこその、大事なアドバイスだと取っていい。
「油冷は自分も大好きですし、心から名車なんだなあと思います。販売車両やTOTなどレースを通じてお店も育ててくれたバイクですし、その恩もあります。ですから油冷に強い点を当てにしていただけるのは嬉しくもあります。ですが、時代変遷も含め、何でも簡単にできるわけではないことは意識してほしいですね」
要は現状をきちんと理解し、余裕を持っていいお店と付き合うこと。車両探しからでもいい。それが填まれば、テクニカルガレージRUNは強い味方になってくれる。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
ベースの履歴と状況を知って必要な手を入れる
上はGSX-R1100(’88年型J)、下はGSX-R750(’89年型RK)のストリップ。この年式の車両でももはや35年が経っていて、登場当時最新で形はきれいでも、時代は変わっていることを意識して手を入れたい。アップデートを図るために換えたいのはブレーキシステム一式(フロントマスターシリンダーにブレーキキャリパー、ディスク)と前後サスペンション(フロントは少なくともオーバーホール、リヤも現代の製品に換える)。これらで現代の性能を得るべきということだ。
▶▶▶ヘリテイジ&レジェンズが取材した最新のカスタム・バイクはこちら!
油冷車を支えるオリジナルパーツ群もオンラインショップで販売中
TG-RUN トップブリッジ GSX-R750RK/GSX-R100(89)用(5万600円)/高強度アルミ削り出し品。
TG-RUN 43φフォーク用ステアリングステムKIT GSX-R1100(86~88)用(18万7000円)/φ43mmフォークを18インチでも17インチでも楽しめる。
TG-RUN バリアブルステップキット GSX-R1100(89-92)/GSX-R750(88-91)/RK用(7万1500円)/ステップが上気味の車両を前/下(9ポジション、最大で前に25mm、下に25mm)にバー移動できる。
TG-RUN 車高調整リンク SUZUKI GSX-R1100(86-88)用( 6万9300円)/シムの枚数で最大5cm車高が変えられ17インチ、18インチにも対応。
TG-RUN×OVER Classics 油冷エンジン用オイルクーラー(16万5000円)/17段コアで冷却性能向上する。詳細はこちらのグッズ・フロントラインでも紹介!
TG-RUN 5SPEEDクロスミッション SUZUKI 油冷エンジン用(38万5000円)/ストリート&サーキットで最適レシオ。油冷1200エンジン車全機種適合。
TG-RUN エンジン マウントカラー SUZUKI GSX-R750(85-87)用 3個SET(1万1000円)/純正で割れの不安がある鋳造品に換えて使うカラー。
TG-RUN & マジカルレーシング シートカウル&シートセット(ダクト穴有) SUZUKI GSX-R750RR(86)(10万4500円)/シートとベースを新設計。
※これら以外のパーツもあり、詳細はオンラインショップ確認を!