入れ替えが多い2025年シーズン
2024年で契約満了を迎えた選手が多いこともあり、昨シーズンに比べ入れ替えの多かった今年。その中でも1番のトピックといえば最高峰クラスで6度の世界王者に輝いたマルク・マルケスのドゥカティファクトリー入りだろう。
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MotoGPクラスでは合わせて8度のタイトルを獲得した強力なタッグが誕生した。
最高峰クラスへのデビューから常に成功を共に収めてきたホンダを離れ、目下最強を誇るドゥカティ陣営に加入したマルケス。サテライトチームであるグレシーニ・レーシングで2024年シーズンを戦ったマルケスは3勝をマークし完全復活。そしてドゥカティ入りした当初からの目論み通りファクトリー入りを果たしてみせた。
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テストでは常に速さを見せたマルケス。ロッシの持つ通算9度目の世界王者獲得に向け視界良好だ。
マルティンに3連覇を阻止されたものの、現在最高のライダーの一人として君臨しているバニャイアと復活した絶対王者マルケスという強力なタッグとなる今年のDucati Lenovo Team。2台揃って優勝争い、そしてタイトル争いに加わってくることは間違いないが、問題はチーム内での争いをコントロールすることができるのかどうか。
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王者奪還を目指すバニャイア。近年マルティンとのタイトル争いだったが、2025年は最強のチームメイトが立ちはだかる。
チームとしては同士討ちしてライバルにタイトルが転がり込んでしまうことだけは避けたいはずだが、入ってきたのが「あの」マルク・マルケス。チャンピオンレベルの実力者ふたりが同じチームになれば一体どのようなことが起こるのかは歴史が証明している。今年はこの2人の戦いに注目が集まるところだ。
マルク・マルケスが抜けたグレシーニ・レーシングはアレックス・マルケスが残留し、Moto2からフェルミン・アルデゲルが昇格。マシンは昨年のチャンピオンマシンであるデスモセディチGP24を使用する。
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チームオーナーのナディア・パドバーニと写真に収まるアレックス・マルケスとフェルミン・アルデゲル。
www.motogp.comルーキーのアルデゲルは2021年にMoto2クラスから世界選手権にデビューし、翌22年からフル参戦を開始。23年には初優勝をあげると、シーズン終盤には圧倒的な速さを見せ4連勝を達成するなど印象的な走りを披露した。
この走りがドゥカティの目に止まり、2024年シーズンを前にドゥカティから最高峰クラスに参戦することが決定。発表から1年、ついにMotoGPクラスにデビューを果たすことになる。
アレックス・マルケスはMoto3、Moto2でタイトルを獲得しており実力は申し分なし。今季は念願の最高峰クラスでの初優勝を目指す。
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アレックスはセパン、タイともにテストで絶好調。型落ちとはいえ昨年のチャンピオンマシンのポテンシャルは今年に入っても健在だ。
www.motogp.com同じドゥカティ陣営のVR46 Racing Teamはファビオ・ディ・ジャナントニオが残留し、フランコ・モルビデリが加入した。ディ・ジャナントニオは一時シートを失う可能性があったものの、初表彰台や初優勝を挙げて実力を証明。昨シーズンも型落ちマシンながらコンスタントに入賞を重ねてた実績が認められ、今年はファクトリーマシンとサポートを獲得した。
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師であるロッシのチームに加入し復活を図りたいモルビデリ。ディ・ジャナントニオは表彰台に返り咲けるか。
プラマックから移籍したモルビデリは24年型マシンで今シーズンを戦うことに。2017年にMoto2クラスでタイトルを獲得し、2020年には最高峰クラスでランキング2位でシーズンを終えているモルビデリ。しかし、その後怪我の影響もあり苦しい時期が続くも、今季は師匠とも言える存在であるヴァレンティーノ・ロッシのチームに加入し復活を目指す。
2024年、悲願のタイトルを獲得したホルヘ・マルティンはゼッケン1を提げアプリリアワークスに移籍。これまで一貫してドゥカティで戦ってきたマルティンだったが、マルク・マルケスのドゥカティワークス移籍にともないアプリリアに移籍を決意した。
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Moto3でタイトルを争った2人がタッグを組むことに。両者ともドゥカティからのスイッチとなる。
親交の深かったアレイシ・エスパルガロのシートを受け継ぎ、新シーズンに挑むマルティンだったが、セパンでのテストでハイサイドを喫し右手と左足を骨折。開幕に向けてなんとか間に合わせたかと思われたが、レースウィークに入った今週、復帰に向けたトレーニング中に転倒を喫し、今度は左手を骨折してしまった。マシンへの適応など例年以上に走行時間が必要だっただけに厳しい船出となったマルティン。開幕戦ではゼッケン1の走りを見ることができなくなってしまった。
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圧倒的に走行時間が足りない上に開幕戦を欠場することになったマルティン。これがゼッケン1の呪いなのか・・・
そのマルティンの相棒を務めるのはVR46から移籍したマルコ・ベッツェッキ。マルティンとはMoto3でタイトルを争った仲で、こちらもドゥカティからのスイッチとなる。2023年にはランキング3位に入るなど速さには定評があり、ベッツェッキにとっては初のファクトリーチームでの戦いとなる。
そしてアプリリアのサテライトチームであるTrackhouse MotoGP Racingには、昨年日本人として15年ぶりに世界チャンピオンに輝いた小椋藍が加入。残留したラウル・フェルナンデスとともにアプリリアの最新型ファクトリーマシンでシーズンを戦うことになった。
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Trackhouse MotoGP RacingはNASCARチームと共同でローンチを行った。
Moto2タイトルを提げ最高峰クラスに昇格した小椋はテストライダーやルーキー、コンセッションを受けているチームが参加するシェイクダウンテストに参加すると、初日に2番手タイム、2日目と3日目に4番手タイムをマーク。後述するヤマハのレギュラーライダーやテストライダーがいる中でのこの結果に関係者も驚きを隠せなかったことだろう。
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シャエイクダウンテストでは関係者を驚かせた小椋。本人は着実に進めていきたいとのことだが、いきなり魅せてくれるかもしれない。
さらに、ルーキーでありながら驚異の走りを見せたペドロ・アコスタが、昨年シェイクダウンテストで出したタイムからわずか0.019秒遅れ。小椋のポテンシャルは想像以上のものだったようだ。長らく日本人が最高峰クラスで表彰台に上がっていないが、小椋のこの走りを目にしてしまうと、より高い期待をしてしまいたくなるものだ。
昨年から破産危機により撤退の噂が絶えなかったKTMはMotoGPへの継続参戦を発表。ファクトリーチームではエースであるブラッド・ビンダーが残留し、マルケス以来の天才と呼ばれるペドロ・アコスタがテック3から昇格した。
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KTMを押し上げたエースのビンダーに若き天才アコスタが加わったKTM。
ビンダーは毎年速さと安定感を誇っているものの、意外にも優勝からは遠ざかっている。(スプリントは含まない)今年も最新型のRC16を駆り、4シーズンぶりの優勝を狙う。
そして昨年鮮烈なデビューを果たしたアコスタがファクトリーチームに昇格。わずか3年でMoto3とMoto2でチャンピオンに輝いた才能は最高峰クラスでもその実力を遺憾無く発揮した。今年は初優勝、そしてタイトルを狙う。
KTMのサテライトであるテック3にはドゥカティワークスからエネア・バスティアニーニ、そしてアプリリアワークスからマーベリック・ビニャーレスが加入した。同チームはこれまで若手ライダーを起用してきたが、今年は実績のあるベテラン2名を起用。さらにGASGASからファクトリーと同じくKTMのデザインで統一された。
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実力派2人を揃えたテック3。ビニャーレスはKTMの株式を取得するなどやる気十分だ!
バスティアニーニはマルク・マルケスにドゥカティファクトリーのシートを奪われる形になったが、ファクトリーの名に恥じない走りを披露してみせた。ファクトリーチームではないものの、マシンは最新型を使用できるため、異なるメーカーでの勝利を狙う。
そして、昨年は最高峰クラスで異なる3メーカーでの勝利を挙げたビニャーレスも新たにKTM陣営に移籍。今年は前人未到の異なる4メーカーでの勝利を目指す。
苦戦が続くヤマハは1チーム2台体制から2チーム4台体制となった。ファクトリーチームのラインナップに変更はなく、ファビオ・クアルタラロとアレックス・リンスが継続参戦。エースのクアルタラロは2021年にヤマハでワールドチャンピオンに輝いて以降、苦戦が続いている。
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テストでは復活をアピールしてくれたクアルタラロとヤマハ。再びこのタッグが頂点に立つ日も近いかもしれない。
しかしながら、開幕前でのセパンテストでは行われた3セッションとも3位以内のタイムを残している。開幕戦の地であるタイでのテストでは勢いが失われた印象だったが、それでもフリープラクティス4ではトップ5にまで食い込んだ。
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ヤマハ2年目のリンス。乗ると手がつけられないライダーだけに怪我の完治と合わせ込みが重要だ。
ヤマハ2年目のリンスはスズキで活躍し、不調が続くホンダでも勝利するなど速さには定評のあるライダーだ。しかし、ヤマハ初年度の昨シーズンでは怪我もあり低迷。さらに、今もまだ怪我は完治しておらず、今年も厳しいスタートとなってしまった。
ヤマハはかねがねインライン4からV4に変更するのではないかと噂が出ている。昨今のライバル勢の躍進とヤマハの現状を考えると当然ではあるが、今年のマシンはインライン4ながらこれまでにないパワーが出ており、テストでも好調。
今だその姿を表さないヤマハのV4エンジン。今シーズン後半にはワイルドカードでV4を走らせるとの噂もあるが、果たして。
そんなヤマハに加わったのが前年マルティンを擁してチャンピオンに輝いたプラマックレーシングだ。長年ドゥカティからサポートを受けていたが、今年からヤマハに鞍替え。
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ヤマハブルーが差し込まれたプラマック。最新型マシンを使用し上位を狙う。
ライダーはジャック・ミラーとミゲル・オリベイラという経験豊富な2名を起用。ヤマハはプラマックにも最新式マシンを与え、マシン開発のスピードを高めるつもりだ。
ミラーとオリベイラはともに雨の荒れたレースでの活躍が印象的だが、両者ともスピードのあるライダーである。4台体制となり復調の兆しを見せているヤマハ勢。上位に食い込めれば面白いことになるだろう。
ヤマハ以上に苦しんだホンダ勢。ついにレプソルも失うことになってしまったHRCはホンダのイメージカラーであるトリコロールカラーに一新することになった。
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テストでは上位に食い込んできたホンダ勢。名門復活は近づきつつある。
ライダーは前年同様ジョアン・ミルとルカ・マリーニ。今年からはアレイシ・エスパルガロと中上貴晶がテストライダーを務め、マシン開発に注力している。タイでのテストでは両者とも上位に食い込むシーンも見られ、方向性が定まってきたようだ。
スズキでタイトルを獲得したミルはホンダ加入後最もポジティブだとコメントしており、ライバルとの差は着実に縮まっている印象。
そんなホンダのサテライトチームであるLCRはヨハン・ザルコが残留し、中上に代わってソムキャット・チャントラが最高峰クラスにデビューする。
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ホンダ勢を引っ張ったザルコ。今年は更なる躍進を誓う。
昨年、鈴鹿8耐で優勝したことが印象的なザルコだが、MotoGPは苦戦するホンダを引っ張った存在でもある。昨年に比べ着実に進化しているだけに、ザルコのさらなる活躍にも期待したいところだ。
そしてタイ人初のMotoGPライダーとなったチャントラは、デビューレースを母国で迎えることとなる。Moto2クラスでは小椋とともに戦い、タイ人として初の優勝も経験。国を背負って世界最高峰の舞台での活躍に期待が集まるところだ。

とびきりの笑顔とアグレッシブな走りが魅力のチャントラ。記念すべき初レースは母国タイで行われる。
開幕戦は初となるタイで開催
例年開幕戦といえばナイトレースで行われるカタールのロサイル・インターナショナル・サーキットだが、2025年と26年はタイのチャーン・インターナショナル・サーキットで行われる。
タイでのMotoGP人気は凄まじく、開催初年度から来場者数は20万人越え。新型コロナウイルスの影響を受けて開催されなかった期間もあるが2022年に復帰した。
コース全長は4,550mで右コーナー7、左コーナー5、1000mのストレートを持つ。高低差はなく、コース後半から高速コーナーが続いていくため、スピード域の高いサーキットだ。
昨年はドゥカティワークスの2台がスプリント、決勝ともに制しているが、スプリントではマルティンとバスティアニーニの激しい攻防が繰り広げられたことは記憶に新しい。
また、Moto2クラスでは小椋が自身初の世界チャンピオンを獲得した思い出の地でもある。毎年印象的なレースが繰り広げられるタイ。2025年初のレースをして開催される今大会は一体どんなドラマが待っているのだろうか。
レポート:河村大志