ワークスYZFのノウハウで劇的進化

FZ250フェーザーの大ヒットにより、ライバルメーカーの4気筒250ccマシン開発の方向性をも決めてしまったヤマハ。86年12月には、レーサーレプリカブームの盛り上がりに呼応して、よりレーシングライクなフルカウルフォルムを与え、エンジンもデジタル点火の採用などで熟成を進めたFZR250にフルモデルチェンジして、リーディングモデルとしての地位を固めにかかった。

一方、ライバルメーカーも手をこまねいていたわけではなく、ホンダはアルミツインチューブフレームに新開発のカムギアトレーン4気筒エンジンを搭載したCBR250Fourを投入。スズキも、新しい4バルブエンジンをフルカウルフォルムに包んだGSX-R250を87年3月をリリースする。

特に88年5月に登場したCBR250Rは性能面で飛躍的な進化を遂げ、レース、セールスの両面でヤマハの足元を脅かす存在となった。そこでヤマハは、88年の全日本TT-F3チャンピオンに輝いたワークスYZF400のノウハウを活かし、複雑な面構成を持つアルミデルタボックスフレーム&スイングアームを新採用し、エンジンもファインチューニングを施して高回転性能とピックアップに磨きをかけたニューマシンFZR250Rを投入したのだ。

それまでに比べてレーサーレプリカ度を格段に高めたFZR250Rは、特に刷新されたシャーシによるハンドリング面の進化が著しく、高い評価を獲得。スタイリッシュなフォルムとスクーター並みの低シート高でファン層をさらに拡大していった。以降、40PSの新馬力規制への対応を含めた2度のマイナーチェンジを経て、97年はじめまで生産が続けられた。

画像: ワークスYZFのノウハウで劇的進化

Impression
スポーツ走行には最適の歴代最強スペックのFZRだ!

超高回転・高出力で大ヒットしたフェーザーはストリート指向の設計だったが、そのエンジンユニットを転用したFZRは完全にスポーツ指向。この89年型FZR250Rは大径キャブレター、排気デバイスEXUPなどの採用によって高回転域でのパワー特性を強化し、アルミデルタボックスフレームや大径フロントフォークでサーキットランでの高荷重に対応した3LN型。歴代FZR250の中で最もレーシングライクなモデルだ。

試乗車は走行距離も少なくてエンジンのコンディションは上々。低中回転域のトルクを太らせるEXUPを採用しているとはいえ、さすがに8000回転以下での反応は頼りないが、1万2000回転を超えると封印していたパワーを解き放つかのように1万8500回転のレッドゾーンを超え、2万回転近くまで一直線に伸びていく。このトップエンドの回り方はホンダCBRやカワサキZXRよりもシャープで、いかにもパワーを絞り出しているというフィーリング。吸排気サウンドもノーマルとは思えないほどエキサイティングに響く。

試乗車はステムベアリングの動きが悪いようでハンドリングに難があったが、当時乗ったときにはフロントから素直に旋回し、立ち上がりでパワーを掛けるとさらに旋回力が強まるという印象を受けた。ヤマハ流のハンドリング哲学がしっかり活かされているのだ。

走行写真でもわかるように、身長176cmのライダーが乗っても窮屈さはない。この体格を問わないポジション設定もTZRと同じくヤマハらしいもの。足代わりとして気楽に乗れるという性格ではないが、峠道を含めたツーリングなら楽しく快適にこなせる。

画像1: Impression スポーツ走行には最適の歴代最強スペックのFZRだ!

【FZR250R】 1989年3月 specifications
エンジン型式:水冷4ストDOHC4バルブ並列4気筒
総排気量:249cc
内径×行程:48.0×34.5mm
圧縮比:12.0
最高出力:45PS/16000rpm
最大トルク:2.5kg-m/12000rpm
燃料供給方式:キャブレター[BDST28]
変速機型式:常噛6段リターン
全長×全幅×全高:1990×675×1120mm
軸間距離:1375mm
シート高:735mm
乾燥重量:141kg
燃料タンク容量:14L
タイヤサイズ(前・後):100/80-17・130/70-17
当時価格:59万9000円

画像2: Impression スポーツ走行には最適の歴代最強スペックのFZRだ!
画像3: Impression スポーツ走行には最適の歴代最強スペックのFZRだ!
画像4: Impression スポーツ走行には最適の歴代最強スペックのFZRだ!
画像: フェーザーに始まる歴代のヤマハ4気筒250ccFZシリーズの中で、最もシルエットが美しいと言われる初代FZR250R。ヘッドライト脇のエアインテークは、フレームを貫通してエアクリーナーダクト付近に新気を送るFAIだ。

フェーザーに始まる歴代のヤマハ4気筒250ccFZシリーズの中で、最もシルエットが美しいと言われる初代FZR250R。ヘッドライト脇のエアインテークは、フレームを貫通してエアクリーナーダクト付近に新気を送るFAIだ。

画像: 85年に登場して市場を席巻したTZR250に倣い、FZR250で大径シングルディスク化されたフロントブレーキは、このFZR250Rで再びφ282mmのダブルディスクに。キャリパーは異径対向4ポットタイプが組み合わされた。

85年に登場して市場を席巻したTZR250に倣い、FZR250で大径シングルディスク化されたフロントブレーキは、このFZR250Rで再びφ282mmのダブルディスクに。キャリパーは異径対向4ポットタイプが組み合わされた。

画像: 美しいシルエットの一端を担うスラリとしたマフラーデザインは、EXUPの採用に伴ってエキパイ後部が直線的になったことによる副産物。立ち上がり角度をシートカウル下と合わせることで伸びやかな雰囲気を演出している。

美しいシルエットの一端を担うスラリとしたマフラーデザインは、EXUPの採用に伴ってエキパイ後部が直線的になったことによる副産物。立ち上がり角度をシートカウル下と合わせることで伸びやかな雰囲気を演出している。

画像: ブラック化されたステンレス製サイレンサーカバーも初代FZR250Rだけの装備。ボリュームのあるサイレンサー本体をコンパクトに見せることができ、全体のシルエットを引き締めることに成功している。

ブラック化されたステンレス製サイレンサーカバーも初代FZR250Rだけの装備。ボリュームのあるサイレンサー本体をコンパクトに見せることができ、全体のシルエットを引き締めることに成功している。

画像: 無駄な装飾を省いた、まるで市販レーサーTZ250のようなシンプルなメーターパネル。タコメーターの目盛りを3000rpmからとすることで、パワーバンド域が視認性のいい真上付近に来るように設定している。

無駄な装飾を省いた、まるで市販レーサーTZ250のようなシンプルなメーターパネル。タコメーターの目盛りを3000rpmからとすることで、パワーバンド域が視認性のいい真上付近に来るように設定している。

画像: リアアクスルからスイングアームピボットに向けて徐々に幅が広くなり、走行中の応力が集中する部分を最も太くしたデルタボックススイングアームを採用。あのロードゴーイングレーサーOW-01でも採用されたメカだ。

リアアクスルからスイングアームピボットに向けて徐々に幅が広くなり、走行中の応力が集中する部分を最も太くしたデルタボックススイングアームを採用。あのロードゴーイングレーサーOW-01でも採用されたメカだ。

画像: キーによる開閉式のタンデムシートクッションは、後部を軸に開くヒンジ式。完全な着脱式に比べて置き場所を探す必要が無い分だけ使い勝手は高い。ウエスやグローブ程度なら充分収納できるスペースが確保されている。

キーによる開閉式のタンデムシートクッションは、後部を軸に開くヒンジ式。完全な着脱式に比べて置き場所を探す必要が無い分だけ使い勝手は高い。ウエスやグローブ程度なら充分収納できるスペースが確保されている。

画像: エンジンの基本構造はフェーザー時代から変わっていないが、ピストンの軽量化、コンロッドやバルブタイミングの変更、点火タイミングの最適化などにより、最高出力の発生回転数が1万6000回転まで引き上げられた。

エンジンの基本構造はフェーザー時代から変わっていないが、ピストンの軽量化、コンロッドやバルブタイミングの変更、点火タイミングの最適化などにより、最高出力の発生回転数が1万6000回転まで引き上げられた。

画像: 高回転化に伴って細くなりがちな低中速トルクを補うため、88年発売のFZR250-2型で採用された排気デバイス「EXUP」を引き続き採用。クランクケース前部に配置されるため、4気筒250ccとしては異例なほどエキパイが短い。

高回転化に伴って細くなりがちな低中速トルクを補うため、88年発売のFZR250-2型で採用された排気デバイス「EXUP」を引き続き採用。クランクケース前部に配置されるため、4気筒250ccとしては異例なほどエキパイが短い。

文:太田安治

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