沢渡、そして東条も駆った真紅のDOHC
1981年に『ふたり鷹』の連載が開始された当時、400ccクラスの超人気モデルだったのが、このZ400FXだ。沢渡鷹と東条鷹、ふたりの鷹の最初の愛車として登場した、当時憧れのハイメカ「DOHC4気筒」エンジンを搭載した400ccモデルだ。当時の400ccといえば、75年の免許改正で二輪免許に「中型限定」条件が付加された数年後。ライダーたちは免許を取得すると「自動二輪は中型に限る」という、東大合格よりも難しいと言われた「中型限定解除試験」をパスしなければ(これがいわゆる限定解除)401cc以上のモデルに乗れなくなってしまったため、750ccモデルは叶わぬ夢、400ccが興味の中心だった。
750ccにあって400ccにないもの。それは堂々とした車格と余裕の走り、そして4気筒エンジン。74年に発売されたホンダCB400FOURも生産中止となり、少年たちの4気筒待望の夢をかなえたのが、このZ400FXだったのだ。79年4月発売のZ400FXは、兄貴分の750RS(=Z2)系モデル譲りのハイメカDOHCヘッドを採用。これはCBナナハンもCB400フォアも持たない先進メカニズムで、これも中型免許少年の心をくすぐったのだろう。
さらにFXは、ちょっとワルな存在でもあった。無骨なスタイリング、カワサキというブランドイメージもあって、漢=カワサキ、という雰囲気にあふれたモデル。劇中の初登場シーンも、沢渡が4輪(サバンナ)とバトルをする場面で描かれている。劇中では、沢渡と東条の愛車として、そして沢渡の仲間である円山健一(ケン坊)が憧れ続け、3年も貯金をして購入、しかし納車翌日に暴走族の襲撃に遭い、命を落としたモデルとしても描かれているため、余計に印象に残る劇中登場車なのだ。
FXはその後も、数々の印象的なシーンに登場。ケン坊の事故現場を案内してくれる東条が乗ったし、沢渡は公道で賭けレースをし、峠で転び、大学の自動車部の入部試験で、東京〜下関間も走った。緋紗子ママが毛皮姿で乗ったこともあった。現実の世界でも、赤いFXでヘルメットに羽模様をペイントした「鷹レプリカ」が出現したものだった。連載が開始されてしばらくして、ホンダはブランニューの400ccモデル、CBX400Fを発売。少年たちが熱狂する400ccクラスが激戦区へとなっていく――。
協力:株式会社KADOKAWA